「おい、大丈夫かよ、マリア」 「・・・何でもないわ。少し疲れただけよ」 「ホントに大丈夫ですか?マリアさん。顔色悪いですよ」 「ありがとう、さくら。でも本当に大丈夫よ。少し立ちくらみがしただけだから」 すみれ、アイリス、レニは無言。 「さあ、帝劇に戻りましょう」 それぞれが光武・改を再起動させる。 だが、マリア機は起動しなかった。 「☆$@#!・・・なぜ?」 焦るマリア、だが無情にも光武・改の黒い機体は沈黙を守るだけだった。 「やはりそうだ。今のマリアからは霊力を感じない」 レニの発言に、霊力感知能力に優れたすみれ、アイリスがうなづく。 呆然とする一同。 霊力がないということは、霊子甲冑を起動することは出来ないということである。 「天武」の都市エネルギー補助機構を使えば起動は出来るかも知れないが、 霊力のない者が霊力の制御は出来ないから、 いずれにせよ霊子甲冑は操縦できないことになる。 大神不在の今、花組をまとめているのはマリアである。 そのマリアが戦線を離脱するという事実は、いくら雑魚相手の戦闘とはいえ、 一同に大きな衝撃を与えた。 だが、一番大きな衝撃を受けているのは、当のマリア自身だった。 完全に言葉を無くしてしまっている。 「とにかく帰投しよう」 レニの一言で一同は、重苦しい気分で帰投した。 帰投直後にマリアは米田に呼ばれて支配人室にいた。 「マリア、今日おまえさんに来て貰ったのは大事な話が二つあるからだ」 「はあ」 「お?何だってんだ、その気のない返事は。 ・・・まあ、いい。話を聞くとそんな調子ではいられなくなるだろうからな」 「?」 「まず、話の一つ目だ。 実はアメリカ軍から賢人機関を通して要請があった。 お前さんに米国軍対魔部隊の起ち上げに協力して欲しいそうだ。 最近はあちらでも紐育を中心に魔の者たちの活動が盛んになってきたらしい。 それでアメリカにもいたことのあるお前さんに協力して欲しいということだ。 まあ、うちでいえばかつてのあやめ君や かえで君のような立場だと思ってもらえればいい」 「・・・少し・・・考えさせて下さい」 「ふむ、まあそうだろうな。よく考えるといい。 では、次の話だが、これも今の話にあるいは関係があるかもしれん」 そう言うと米田はにやりと笑った。 「・・・」 「3日後に大神が帰ってくる」 「え?本当ですか!」 マリアの顔に一瞬明るい輝きが戻る。 が、それはほんのわづか閃くと光を消した。 「ん?どうした、マリア?嬉しくないのか?」 「いえ、嬉しいです。ですが」 「・・・ふむ」 米田はそんなマリアの表情をしばらく見つめていた。 「まあいい。二つ目の方はお前さんから、他の娘達にも伝えてやれ。 みんな大喜びするだろうよ」 「はい。では失礼します」 「(いずれにせよ、大神が帰ってくれば解決するだろうさ。)」 部屋を出て行くマリアの後ろ姿を見送りながら米田はそう呟いた。 サロンではみなが大騒ぎである。 「こりゃ、めでてえや。早速飯を食おう。腹が減ってはなんとやらってな」 「まあ、こんなときまで食事のことしか頭にないなんて、本当に牛並ですわね」 「あんだとぉ?といいたいところだが、今はイヤミ女に構ってるヒマなんざねえから 勘弁しといてやらぁ。さて、飯、飯!」 「こちらこそ、山猿を相手にしてるヒマなんてございませんわ。中尉をお迎えするのに相応しいお洋服を大急ぎで仕立てさせなくては」 「アイリスも行く」 「さあ、私は大神さんのお部屋を掃除しなくっちゃ」 「こうなったら、うちもやりかけの発明大急ぎで完成させなな」 「私の芸術的センスで中尉サンの部屋を飾ってあげまーす。 何かふつふつとイメージが湧いてきました。行くでーす、さくらさん」 みなが浮き浮きと大騒ぎでそれぞれサロンを出て行くのを マリアはぼんやりと見送っていた。 その肩にレニの手がおかれる。 背丈もずいぶんと伸びて、体つきにも丸みを増したレニは 少年のような面影を遺しながらも、 もう男に間違えられることはないほどの美少女であった。 「霊力のことを気にしているの?」 「それもあるわ」 「隊長の役に立てないから?」 「・・・」 「隊長は役に立つからボク達に優しくしてくれてると思うの? 隊長はそんな人じゃないよ」 「そうね、隊長は気にしないでしょう。でも、私は・・・」 「マリアは前にボクに話してくれたよね、隊長に対する気持ち。 その気持ちだけで十分なんじゃないのかな」 「ありがとう、レニ。でも今は少し独りで考えさせて」 「・・・分かった。じゃ」 マリアはうつむきがちに自室のベッドに腰掛け両手で顔を覆う。 一晩中、まんじりともしない。 だがやがて、ゆっくりと立ち上がった。 その眼には決意の色があった。 (次へ) |