翌朝一番。 「米田長官、昨日の一つ目のお話、受けさせていただきます」 「それでいいのか。もし霊力の件を気にしてのことなら、無理しなくてもいいんだぜ」 「どうしてそれを?」 「レニが教えてくれた」 「・・・そうですか。ですが、それとは直接関係はありません。 いろいろと考えた結果です。私の力が誰かの役に立つのなら、役立てたいのです」 「もう決めたのか」 「はい」 「そうか。なら先方にはそう伝えておいていいんだな」 「はい」 「で、いつ発つ?」 「明日、発とうと思います」 「おいおい、そんな急な。送別会もやらにゃいかんのに」 「いえ、早くしないと決心が揺らぎそうですから・・・」 「ふむ。・・・じゃ、今晩大急ぎで送別会だ」 「・・・長官、もしかして飲みたいだけなんじゃ?」 「馬鹿野郎、当然だ。 ・・・だが、それだけじゃねえよ。おまえ達はみんなオレの娘みたいなもんだ。 その娘の門出を祝わない親がどこにいる?」 「・・・ありがとうございます。申し訳ありませんでした」 「ふ、いいってことよ。飲んべえのおやじには違いねえからな。だははははは」 「ふふ、では失礼します」 「おう」 「ふう、後は大神に任す他ねえな。・・・俺は無力だ」 米田は支配人室の椅子に深く身を埋めて目を閉じた。 警報の音で目が覚めた。 大急ぎで服を着て作戦司令室に向かう。 体が覚えている一連の動き。 全員が集まると米田は口を開いた。 「みんな、落ち着いて聞いてくれ。つい先刻、二黒会から通信があった。 連中は帰国途上の大神の身柄を拘束したそうだ。 それは月組や海軍に入った情報でも確認されている。 海上で襲われて大神も他の乗客の安全のため抵抗できなかったそうだ」 一同の間に衝撃が走る。 「連中は花組全員が王子に来るように要求している。 どうやら大神を人質に一気にカタをつけるつもりらしい。 やり方が汚いとはいえ、確かにこれしかないという方法だ。 奴らを侮っていた俺のミスだ。すまん」 「いえ、それは私たちも同じ事です。確かに彼らを侮っていました。 それがこんなことになるなんて」 「いずれにせよ、行くしかないね」 「私は・・・行けないから。レニ、指揮をお願い」 「・・・分かった。じゃ、行こう」 みなを見送るマリアは血がにじみ出るほど唇をかみしめている。 「マリア、私たちに出来ることを考えましょう」 いつの間にか、かえでがマリアの横に立っている。 「私に一体何が出来るのでしょうか」 「私の見たところ、あなたの霊力はまだ完全になくなったわけではないわ。 だから、気を静めて集中させることが出来ればもう一度光武・改に乗れるかも知れない。 そのあとは、・・・・・・」 「分かりました。確かにそれしか方法はなさそうですね。 では、目的地点より10km手前で翔鯨丸、待機します」 マリアが駆けていく。 「がんばって、マリア」 「「「「「「「帝国華撃団参上!」」」」」」」 「ふふ、やっとお出ましか。・・・ん?一機足りないようだが。 ほほう、そういえば先日の戦闘で黒い奴が倒れていたな。 ふん、一気に葬ってやろうと思ったが、まあ良いだろう」 二黒会は王子の戦場の上中段に無数の砲兵を揃えていた。 上段に位置することにより砲兵の射程は通常よりも伸びている。 下段には攻撃力と耐久力に優れた魔装機兵とその背後に回復用魔装機兵を布陣している。 そして最上段の最深部には大神を捕らえた魔水晶があった。 花組は何とか二黒会の防衛線を突破して大神を救出しようと試みるが、 次々に回復する魔装機兵と砲兵の攻撃に押し戻される。 必殺技を用いて何機かの魔装機兵を倒したが、間断なく続く砲撃に、 回復が間に合わなくなりつつあった。アイリスの回復技にも限度がある。 花組は明らかに押され始めていた。 「このままではいずれやられてしまう。だが隊長を捕らえられている以上、 退却というオプションはない。可能性はただ一つ、それまで花組を持ちこたえさせる ことがボクの仕事だ。・・・マリアはきっと来る」 (次へ) |