暗き地の底に4つの影が蠢いている。 「新年おめでとう。」 「「「おめでとうございます、京極様。」」」 「うむ、正月である。日本人たる者正月には欠かせぬものがあろう。」 「お年玉ですね。」 「そうそう金剛、近うよれ今年は不景気じゃからな。少ないがとっといてくれ。 ・・・・とでも言うと思ったか、この馬鹿者っ。」 「し、失礼しました。なんせ学がないもので。」 「学のあるなしじゃないだろ。精神年齢の問題さね。」 「何だと?土蜘蛛っ。」 「止さぬか。そんなに欲しいのなら私が後で上げよう。」 「おう、すまねぇな、鬼王。前に頭気取りでいるんじゃねぇとか 言ったが気にしないでくれよ。あんたが頭だ。」 現金な金剛。 「ずるいわ、鬼王。金剛にやるんならワタシにもおくれよ。」 「私も欲しいぞ。」 便乗する土蜘蛛と京極。 「・・・。」 「う、うほん。げふっ、げふ。ま、まあ冗談はおいといて日本人としてやらねばならんことがあるだろう。」 「初詣ですな。」 「さすが、鬼王。よく分かっておるな。で、場所はどこにする?」 「当然王子でしょう。あそこは最後の鳥居のある場所。」 「よろしい。鬼王は完全に私の意志を理解しているようだ。」 「ちょっとどういうことさ?」 「京極様は、一年の計は元旦にありと仰られているのだ。 すなわち、正月早々に八鬼門封魔陣を完成させて帝都の封印を解いてしまえば この一年は我らの年になるということだ。」 「なるほど、どうせ華撃団のやつらが出張ってくるだろうから、 やつらへのお年始回りもすんで一石二鳥って奴だな。 へへっ、こいつは楽しみだぜ。」 「ほほう、金剛も少しは分かっているではないか。」 「へん、どうせまぐれ当たりさ。」 「何だと?」 「止さぬか。善は急げ、悪事千里を走るとも言うではないか。早速行くぞ。」 「「「はっ」」」 「ところで大神くんは正月どうするの?」 「いやあ、こたつで円くなりながらみかんでも食べようかなって。」 「あらあら。でもまあ、たまにはそれもいいかもしれないわね。」 大神は昨年の暮れに再び金ダライで頭を打ち、 通常モードに戻っている。 出発するみんなを見送った大神は自分の部屋に引き取った。 「ようっ」 なぜか大神の部屋には加山が立っていた。 「どうしたんだ?加山?」 「いやぁ、幸せだなぁ。大神と一緒に修行に行けるなんて。」 「いぃっ?いつそんな話になったんだ?」 「忘れたのかぁ?去年の暮れにそういう話になったじゃないか。」 どうやら豪快一郎の時にそういう話をしたらしい。 「そうか。なら仕方ない。じゃ、俺は準備するから玄関で待っていてくれ。」 「分かった。また会おう。とうっ!」 「ふう〜っ。やれやれ。と、その前に風呂でも入るかな。」 「お、誰か入ってる。っこ、この服はっ。かえでさん。」 大神の鼻の下が伸びる。 「おい、おめえ何してる?」 米田が入ってくる。だが、こんな時間に風呂に入ってくると言うのは 米田も同じ穴の狢である証拠である。どんなセリフも説得力がない。 大神はいつものように浴室のドアを音もなく開けた。 ぼがんっ ♪ちゃらっ、ちゃらっ、ちゃらっ、ちゃらっ、ちゃちゃらっ。 「ちぇいんじっ、すいっちおんっ、わん、つー、すりー。」 大神一郎は金ダライを頭に喰らうと豪快一郎にチェンジする。 「いやあ、かえでさんっ。スタイルいいっすね。 これで心おきなく修行に行けますわっ。それぢゃっ!」 豪快一郎はバカ声を張り上げて、豪快に言い放つと 豪快に走り去った。 「お、あ、大神ぃ。」 「・・・長官。」 後に残された米田の運命は神のみぞ知る。 豪快一郎と豪快やな雄一は鎌倉にいた。 実は加山も大神の前にかえでの風呂を覗き金ダライを頭に喰らっていたのだ。 「ちぇんじ豪快、おーわんっ」 常軌を逸した豪快な修行のため、 山の木々は悲鳴を上げ、大地は震えた。 その時、豪快やな雄一のキネマトロンが音を発した。 「加山君、大神君。聞こえる?王子に敵が現れたの。他のみんなは すでに現地に向かっているわ。今から翔鯨丸を向かわせるから戻ってきて頂戴。」 「いやっ、そんなもんちんたらと待ってられませんわっ。 行くぞ雄一っ。」 「おうっ。」 豪快一郎と豪快やな雄一はいきなり走り出した。 山の木々を猿飛びに飛び移り、海に飛び込む。 豪快な水しぶきをあげてぐんぐん進む豪快やな雄一。 「ははは、雄一ぃ。まだまだ甘いなっ。豪快とはこういうことだっ。」 豪快一郎は、豪快に海面を走っていく。 「やるなっ、一郎っ。普通沈むぞっ。」 「小さいっ、小さいぞっ雄一っ。そんな細かいこと考えてるから沈むんだっ。 男なら何も考えずにただ走れっ。」 「そういえばそうだなっ。よしっ。少年よ大志を抱けだっ。」 海面を二組の水柱が走っていった。 「華撃団の連中を首尾良くとっ捕まえたところで、残りの大神をどう料理するかですね。」 「心配するな、鬼王。密かに入手した情報によれば大神は女に関しては優柔不断ならしい。 したがって『お前の一番大事なのは誰だ?』と聞けばたとえ一番好きな奴がいても 他の連中の前では言いにくい筈だ。そこでパニクった奴を料理すれば造作もないであろう。」 「さすがは京極様。」 「ふふふふ。」 「ふはは・・。」 「「「「はぁっはっはっはっ(^O^)」」」」 果たして笑う門には福は来るのか。 (次へ) |