空が暗くなり空気が湿り気を帯び始めた。 雲の動きも速くなっている。 「こいつは一荒れしそうだぜ。急がねぇとな」 帝国陸軍中将、米田一基はそう呟くと足を速めようとした。 ちりん 鈴の音だ。 びくりと音のした方を振り向く。 そこには薄汚れたフード付きの外衣に身を包んだ老婆が座っていた。 一体いつから。 かつては剣客集団である抜刀隊の少年剣士、そしてまた対降魔部隊の隊長でもあったほどの腕を持つ自分に微塵も気配を感じさせずにいたとは。 米田は少し背筋が寒くなるような感覚を覚えた。 「…見える。あんたの身に降りかかる禍が」 「何だって、婆さん。一体全体どういうことだい?」 「…あんたは呪われているね。呪われているよ」 「………心当たりが有りすぎて分からねえが、なんのことだい?」 「…訊かなくてもそのうちに分かるよ。これは避けられない運命なのさ。ひゃほっ、はっ」 ちりん その時一陣の風が砂埃を巻き上げた。 思わず目を庇った米田がその手をのけたときには老婆の姿は跡形もなく消えていた。 「一体、今のは何だったんだ」 米田は一つ身震いをすると足早にその場を立ち去った。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 夜に入って天候は本格的に崩れ出した。 雨が屋根を叩き、雷鳴がガラスをビリビリと振動させる。 地鳴りのような風の音が帝劇を包んでいた。 大神一郎は、日課の夜の見回りに劇場内を歩いていた。 こういう天候であるからいつもより念入りに戸締まりを確認していく。 時折の稲光に窓が白く光り、大神の横顔を照らす。 「う〜、なんだか薄気味悪い夜だなぁ。そういえば、さくらくん雷大丈夫かな。後で行ってみよう」 ブツブツと独り言を言いながら見回りを続ける大神の耳に悲鳴が届いたのはその時だった。 ごあぁぁぁぁっ 「な、何だ、一体!」 大神一郎は帝国海軍少尉である。いくら普段はとぼけていても、こういう状況では的確に動くことが出来る。 声のした方向を支配人室と見定めるや、大神は走り出していた。 支配人室のドアノブに手をかける。 開かない。 ドアには鍵がかかっていた。 どんどんどん ドアを叩く。 「支配人!どうされたんですかっ!支配人!」 だが中から応答はない。 「隊長!今の悲鳴は?」 マリアを先頭に花組の面々やかえでがドアの前に集まってきた。 「米田支配人の声だったと思う。だが応答がないんだ」 「まさか」 「分からない。こうなったらドアをぶち破るしかないか」 「そういうことならアタイに任せな」 カンナが一歩前に進み出る。 「うん、頼むよカンナ」 「任しとけって」 カンナの蹴りが一閃するとドアはものすごい音を立てて吹っ飛ぶ。 大神は花組の面々を制すると姿勢を低く転がるように部屋に駆け込んだ。 その手にはいつの間にか銃が握られている。 暗さに慣れるためにつむっていた片目を開けると真っ暗な部屋の様子が少しは見えるようになった。 特に異常は………あった。 執務机の脇に米田の服が脱ぎ散らかされている。 大神は慎重にそこまで移動すると服を点検した。 服のボタンは全てかかっていた。 ズボンのベルトもジッパーもきちんと閉まっている。 ネクタイまでもが結ばれたままだ。 そう、まるで米田の身体だけが蒸発したように。 「一体どういうことだ」 そう大神が呟いたとき、時ならぬ雷鳴が轟き雷光が支配人室を照らした。 稲光に一瞬何かが照らし出される。 だが対妖魔迎撃部隊帝国華撃団の隊長たる大神には、その一瞬で十分であった。 それは奇妙な生き物だった。 大きさは30〜40cm、ウサギを少しずんぐりとさせたようなシルエット。 ただ明らかにウサギと違うのはその体毛が鮮やかなオレンジであること。 そして、鼻は赤く頬には渦巻きの模様が浮き出ていた。 あまつさえ、その顔には米田の眼鏡がかかっているのだ。 そして更にその生き物は一升瓶を両手で大事そうに抱えていた。 「こ、これはっ!ヨネチュー」 大神の声にその生き物が少し首を傾げた。 ぴとぴとぴとと大神のもとに歩み寄り愛らしく礼をする。 ヨネチュー元気でチュー 「かっ、可愛い〜ぃぃぃぃぃっ!ヨネチュー!」 それは何者かの呪いにより伝説の雷獣ヨネチューに変わり果てた米田の姿だった。 だが大神を初めとする花組の面々はそのあまりの可愛さに、事態の深刻さも忘れて口々にヨネチューの名を呼びかけるだけだった。 それを冷ややかに見つめる一対の目があることも知らずに。 #全国の米田さんファンのみなさん、すみません。 #GBC版サクラが出るって噂からしょーもないネタ思いついてしまいました。 #どなたかが先にやられてたら申し訳ありません。 #米田中将=ヨネチュー説の武臨的展開という感じでお許し下さい。 さて、米田さんに呪いをかけたのは誰でしょう。ちょっとブラックかも。 ご感想は |