燭台の光の下に蠢く影がある。 「♪ねんねんさいころ毒屋の子、すり鉢持てこい毒作ろぉ〜」 非常に危険な子守歌を歌いながら男は何かを作っている。 ろくな物でないのは確かである。 「おのれ、この儂をコケにしおって。 うぉっふぉっ、ひゃはぁ。見ておるが良いぞぉ。 もうじき木喰二人まとめてあの世に送ってくれるわ。」 川原に風が吹いている。 対峙する二人の男。 かたや、白髪隻眼、しかしその眼光は鋭く相手を射抜いている。 かたや、無造作な浪人姿、だがその面差しは貴公子然としている。 幼子は乳母車の中からじっと二人を見守っている。 「例のもの、どうしても返さぬと申すか。」 「然り、我を弊して取り返されるが良い。」 「何をっ?鬼王良かろう、我が太刀の錆にしてくれるわ。破邪剣征・桜花放神!」 「狼虎滅却・天狼転化!」 二つの霊光がぶつかり合い、周囲の空気を押し流す。 砂は舞い、川面は波立ち、お互いの剣の衝撃を受け止めた両足の下は すり鉢状に陥没した。 素早く飛びすさる二人。 再び間合いを取る。 気をためつつ、じりじりと間合いを詰める。 「殿、上様のお召しにございますぞ。」 数十人の武士が二人を取り囲んでいる。 白髪の男の郎党のようだ。 白髪隻眼の男は構えを解きつつ言葉を発した。 「今は行かねばならぬ、だが儂は必ずやここに戻ってくる。」 男は自らの太刀を川原に突き立てた。 二人の間に張りつめていた殺気が消える。 貴公子然とした浪人は、一つ頷くと自らの太刀を川原に突き立てた。 「お主、山羊を食っておるそうだの。まさか余の出した触れを知らぬ訳ではあるまい。」 脇息京極に身体を預けながらも、公方の語気は鋭い。 「・・・。」 奥に控えていた、坊主頭の怪人が膝を進めてきた。 その手には、一通の書状が。 柳生封廻状<山羊を食う会場である。 「!」 「ひゃほっはぁ。最早言い逃れは、できませぬぞ。公儀御指南役が自ら生類憐れみの令を 破るとは言語道断。この書状には、貴殿が山羊を食された会場の全てが記されておりますぞ。」 「・・・身に覚えの無きことに御座れば。」 男は公儀毒味役の怪人を鋭く睨み付けると、公方に向かって答えた。 「・・・よかろう、その方の身の証が立つまで下城まかりならん。」 「ふひゃぁ、こんな好機が到来するとはぁ。」 怪人は川原にいた。 突き刺さった二振りの太刀。 その刀身に自家製の猛毒を至福の表情で塗りつけている。 「♪ねんねんさいころ毒屋の子、すり鉢持てこい毒作ろぉ〜」 どうやら機嫌がいいとこの歌が口をついて出るらしい。 「こうなると一刻も早く対決が見たいのぉ。ひょほっ、ふふぉっはぁ。 全ては儂の計算通りじゃ。」 城内の一室。 白髪隻眼の男の上方、天井裏に一つの気配が降り立った。 「来たか。」 「お召しにより。」 「城内に火を放て。」 「おかしら火車?!」 「今月の火元責任者は公儀毒味役よ。火が出れば奴の責任になる。 儂をはめおった償いはさせねばならぬ。」 「承知」 天井裏から気配が消えた。 男は目を閉じ、呟いた。 「もうすぐじゃ。じきに全ての決着が付く。」 (次へ) キャスト 拝一刀(大神一郎) 大五郎(アイリス) 柳生烈堂(鬼王) 阿部頼母(木喰) 烈堂の部下(火車) 烈堂の郎党(魔繰機兵の皆さん) 徳川綱吉(京極慶吾) |