「こうなったらあれをやるしかないか」 それは帝国華撃団の最終技、いや技ではない。『力』である。花組全員の霊力を大神の元に集めて一気に放つ正義の光。かつて悪魔王サタンを倒したのと同種の力。 「みんな!俺に力を貸してくれ!」 「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」 それぞれの霊力が異様な高まりを見せ機体が発光する。 そしてあふれ出た霊力が触媒たる大神の元に結集する。 「絶」 「対」 「正」 「義」 「帝」 「国」 「華」 「撃」 「団」 そして目を焼かんばかりの白色の光が「それ」を包んだ。 金剛が咄嗟に土蜘蛛をかばう。 五行衆最強の攻撃力を誇る金剛が戦慄を禁じ得ないほどの強大な力であった。 だが、眩い光の奔流が去り、帝都に常の光が戻ったとき一同は信じられない物を見た。 「それ」が全くの無傷で漂っているのだ。 「そんな馬鹿な!」 花組の機体はこの超絶技の影響で硬直している。天武が都市エネルギーの力を借りて動くとは言え甲冑の機能を復旧するにはある程度の時間がかかるのだ。 そして何よりも大神ほどの男が一瞬とは言え完全に思考停止状態に陥った。 大神は自分の持つ全ての手をことごとく封じられてしまったのだ。 なまじ軍人として最優秀の素質を持つだけに、このような極限状態においても合理的な思考を捨てきれないが故である。 この場に合理的な思考を全く持たない漢がいなければ花組は全滅していたであろう。 「けっ!だらしねえっ!てめえらはすっこんでなっ!がっはっはっ、俺がこいつを倒せば、いくらてめえらが馬鹿でも俺がてめえらより強ええことが分かるだろうよ!」 動きの止まった花組を狙う「それ」に猛然と襲いかかったのは金剛であった。 飽く事なき闘争心、強いものへの対抗心。 ただそれだけで構成された単純な思考しか持たぬ漢の本領である。 攻撃が効こうが効くまいが関係ない。 相手を完全に叩きのめすまでただ力任せに「それ」に斬りつけるだけであった。 しかしその単純な攻撃が意外に功を奏し、相変わらずダメージは負っていないものの「それ」は攻撃に移れずゆらゆらと位置を変える。 「ちっ!仕方ないね。金剛!」 土蜘蛛の狩人としての本能が己の自尊心を越えた。 「へっ!やるか!」 「「五行相生…鬼神曼陀羅!」」 鬼神曼陀羅、黒鬼会の中でも金剛だけに可能な五行衆同士の合体技である。 花組の超絶的な力に勝るとも劣らない凶悪なまでの力であった。 花組の力が光ならこの力は闇。 闇の鬼神たちの座す暗黒の曼陀羅が「それ」の上にのしかかる。 だが、闇が晴れ帝都に光が戻っても「それ」は相変わらずゆらゆらと浮遊していた。 「けっ!生意気なっ!おらおらおら!」 懲りもせず金剛は力任せの攻撃を続ける。 まさに驚異的な単細胞である。 そのタフさ加減に大神の脳裏をチラリと、この2体は実は同じ生き物なのではという不条理な考えがよぎった。 「いかんいかん、何を馬鹿なことを」 さすがに大神一郎である。すぐさま現実逃避したくなる心を立て直した。 今の一連の攻撃に対するこの生物、いや生物かどうかは定かではないが外見的には生物に見えるもの、の反応を見てみると「それ」は明確な知性は持っていないようだ。そして外敵の攻撃に対する反応も対して早くない。すなわちこちらが矢継ぎ早に攻撃を続ければ「それ」は的を絞りきれずに混乱するのだ。 そう自分を納得させた大神もあえてただ力任せの攻撃を開始し、花組がそれに続いた。 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ その頃王子の地では最後の鳥居がその巨大な姿を現し帝都にかけられた封印が解かれようとしていた。 8つの鳥居が光の線で結ばれると一つの巨大な魔法陣が浮かび上がる。 その時天はかき曇り邪悪な思念の固まりが復活した。 巨大な、そしておぞましい姿。 人々はこの新たな怪物を絶望的な眼差しでただ呆然と見上げるのだった。 「武蔵の復活は成った。………まずは第一段階成功だな」 武蔵に乗り込んだ京極と真宮寺一馬は陸軍秘密兵器庫に向かう。 京極は先の大災厄の際に使用された霊子砲を回収、木喰の指揮により修理改良を施させた。 それにより霊子砲の限界充填エネルギー容量は飛躍的に増大している。 京極はこの究極の兵器を自らの野心の手駒の一つとするために秘匿していた。 その霊子砲を武蔵に取り込んで「それ」を倒そうというのだ。 武蔵が吸い上げ続ける都市エネルギーによって砲の充填は比較的早く完了するはずであった。 「それまで時間を稼げ、帝国華撃団、金剛、土蜘蛛」 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 「おらおらっ!さっさと終わらせてやるぜっ!」 金剛の頭には霊力攻撃が効かないなどという認識はない。 練り上げた気を攻撃力に変えて一気に放出する。 それに触発される形で大神も反射的に必殺の一撃を放つ。 「五行相克・鬼神轟天殺!」 「狼虎滅却・三刃成虎!」 金剛の剣と大神の刃が同じ場所を撃つ。 その時初めて「それ」が大きくのけぞった。 その体の表面に浅い毛ほどの傷が生まれている。 浅いとはいえ、それは大神たちがこの謎の生き物に初めて与え得たダメージであった。 「がははははっ、見たか大神。俺様の力を!」 「………いや、何か違うぞ」 「何だとてめえ!俺様の力にケチをつける気かっ!」 「………」 これは何か重大な事を意味しているような気がした。 これについて考えることがこの謎の生物を倒すきっかけになると。 だが、その時間は大神には与えられなかった。 「それ」が狂ったように頭を振りながら白い怪光を放ち始めたのだ。 大神は反射的に花組をかばう陣形を指示する。 大神を先頭にした密集隊形。その中心にはアイリスを置く。 急所の少ない背面を「それ」に向け、花組の面々を励まし続ける。 「みんな、頑張れ!とにかく最後まで諦めるな。何か、何か手はあるはずだ」 「「「「「「「「は、はいっ!」」」」」」」」 「そうだ、生きてさえ、生きてさえいれば状況が変わることもある。その時まで少しでも力を残しておくんだ」 ふと横を見ると少し離れて金剛が同様の体勢で土蜘蛛をかばっている。 ただしこちらは励まし合うと言うよりは罵倒しあっているようだが。 「どきな、金剛!あんたなんかに守ってもらうつもりはないよ!ワタシは自分の力で戦う」 「けっ!俺は五行衆筆頭、金剛だ!」 「あんた、それ、理由になってないよ」 「うるせえっ!なんだかんだ言ってもてめえも女だろうが。俺は女を見殺しにするような男じゃねえんだよ!」 「…ふん」 大神と金剛の絶対防御。最早無敵ではないとは言え、通常の防御よりは効果が高い。 現時点ではこの態勢が彼らに取りうる最善手であることは間違いない。 大神が傷つき、他の隊員にも被害が及び始めるとすかさずアイリスが全機を回復する。 他の隊員が自ら練り上げた気をアイリスに渡すことでアイリスの気合いは常に最高状態を保っているために何度でも連続して全回復できるのだ。触媒たる大神に率いられ固い絆で結ばれた花組隊員間だけで可能な霊力の受け渡しがその奇跡を生み出していた。 とはいえ幼いアイリスに長期戦に耐える体力はない。いずれは力尽きる時が来る。 そしてその時が花組の最期なのだ。 一方の金剛は大日剣と八葉に装備されている回復資材を使い切るとあとはただひたすら根性で耐えるだけであった。 傷ついた金剛の姿勢が少しでも崩れると八葉に次々と白光が命中する。 絶対防御を持たない土蜘蛛と八葉にはその光は致命的である。 辛うじて正中線への直撃を避けるのが精一杯であった。 相手の攻撃を自らの機体の回復に使う機能も作動しない。白光のエネルギーが高すぎて変換回路が焼き切れてしまったのだ。 八葉は大破し生身の土蜘蛛が露出している。 土蜘蛛はその腕の内、既に4本を失っていた。白光の高熱のため傷口が炭化してそれ以上の出血がないのが救いであったが腕がもぎ取られるほどの衝撃が身体にショック症状を引き起こしていた。 「おい、土蜘蛛。しっかりしやがれ」 「うるさいねぇ、…全くよけいなお世話だよ」 まだ悪態をつく程の意識があるのはさすがに五行衆と言うべきである。 「これ以上は当てさせねぇ」 金剛は両足を踏ん張り両手を大きく天に向け開いた。 (次へ) ご感想は |