ドラマ・ペル・ムジカ 〜バッハの音楽劇


2003/ 7/24 横浜・桜木町:神奈川県立音楽堂 19:00
*同一プロダクション
   2003/ 7/21 15:00 神戸松蔭女子学院大学チャペル(第164回松蔭チャペルコンサート)
   2003/ 7/27 15:00 彩の国さいたま芸術劇場・音楽ホール
                 (さいたまグレート・バッハ・シリーズ)


A.スカルラッティ/《愛の神よ、なんとひどい奴なんだ!》
           (ナポリ方言によるカンタータ)
 
J.S.バッハ/《おお、ほほえむ吉日、願ってもない佳節》BWV210(結婚カンタータ)
J.S.バッハ/《ひとをたぶらかすアモルよ》 BWV203 (イタリア語カンタータ)
J.S.バッハ/《おしゃべりはやめて、お静かに》BWV211(コーヒーカンタータ)


*以上は神戸・横浜公演の演奏順。
  埼玉公演では、BWV203,210〔休憩〕スカルラッティ,BWV211の順で演奏された。
  また、神戸・埼玉公演では鈴木雅明さんによる簡単な解説のお話があった。


《全出演メンバー》

 独唱:キャロリン・サンプソン(ソプラノ:BWV210、211)、
     櫻田 亮(テノール:スカルラッティ、BWV211)、
     シュテファン・シュレッケンベルガー(バス:BWV203、211)
 管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン
     前田りり子(フラウト・トラヴェルソ)、三宮正満(オーボエ)、
     若松夏美・高田あずみ(ヴァイオリン)、森田芳子(ヴィオラ)、
  [コンティヌオ] 鈴木秀美(チェロ)、櫻井 茂(コントラバス)、
           鈴木雅明(指揮、チェンバロ)

  *こちらBWV210211スコアをご覧になれます!

コーヒーカンタータのソリスト集合!
左から、リースヒェン(S)、頑固親父(B)、語り手(T)の皆さんです。→

これほど待ち遠しいものはない!−BCJの世俗カンタータに期待する

 その光景を、私は今でもありありと思い出すことができる。

 「バッハ・イヤー」2000年、7月22日夜、ライプツィヒ、ゲヴァントハウスの大ホール。

ワインヤード形式の客席をびっしり埋め尽くした聴衆が、総立ちになって拍手を送っていた。
紅潮した顔のそこここから、「ブラヴォー」の声があがり、口笛が鳴る。
彼らの視線が、賞賛が注がれている舞台には、鈴木雅明とBCJのメンバーがいた。
バッハの世俗カンタータにあふれるわくわくとした音楽の歓びを十二分に表現し、聴衆に伝え、共有してくれた彼らが。

それ以来、BCJの世俗カンタータに今一度触れることが、私の切なる願いになった。

あれから3年。その願いがとうとうかなえられる日がやって来る。しかもメインの演目には、あの「コーヒー・カンタータ」。
当時ライプツィヒで大流行していたコーヒーを題材に、
今も昔も変わらない?頑固親父とお転婆娘の一幕を綴った、ライプツィヒ版コミック・オペラとでもいうべき作品だ。
峻厳なるバッハ先生の、知られざるユーモラスな一面が拝める。
あのまじめな?(教会カンタータの)BCJが?と思われる方はお立ち会い。
バッハ先生同様、溌剌とした、そしてちょっとお洒落なユーモアをたっぷり振りかけて、私たちを魅了してくれるだろう。

(加藤浩子・音楽学) (チラシ掲載文より)

《ドラマ・ペル・ムジカ》 巻頭言

 皆様、コーヒーはお好きでしょうか。我が家でも毎朝のコーヒーは欠かせません。「日本人はコーヒーを飲まないから早死にするのだ」とシーボルトが言ったとか。この真偽は別として、オランダ人は確かに無類のコーヒー好きです。一回りしては『コッピェ・コフィ!』Kopje Koffe!(コーヒーを一杯!)と言うのですから。(ちなみにシーボルトはオランダ人を装ったドイツ人でしたか。)
 バッハがコーヒー・カンタータを作曲したのは、明らかにライプツィヒのコーヒー店主ツィンマーマンに頼まれてのことだったでしょう。当時のコーヒー店は、今の喫茶店とは随分趣が異なりました。まず入場料を払わなければなりません。そして中に入ると、単に飲み物を飲むだけでなく、町の人々の溜まり場として様々な会合があったり、議論をしたり。ちょっと「浮世床」を髣髴とさせますが、恐らくそれよりもっと組織的な催しも行われていたのです。このようなコーヒー店こそが、バッハの指揮するコレギウム・ムジクムのホームグラウンドでした。店主ゴットフリート・ツィンマーマンは、単なる経営者ではありません。自ら楽器を学生に提供して、この演奏会そのものを企画していた人物であったと思われています。
 バッハは、このコレギウム・ムジクムのために多くの作品を書いたはずですが、その大半は散逸したに違いありません。というのは、もし毎週1ないし2回のコンサートを10年間、それも同じ場所で企画するとしたら、膨大なレパートリーが必要であることは想像に難くないからです。
数多くのいわゆる「世俗カンタータ」がこのために生み出されました。この「世俗カンタータ」という言い方は、あまり適切とは言えません。バッハ時代の詩人は、このような作品を「ドラマ・ペル・ムジカ」と名づけていました。これは「音楽で表現するドラマ」という意味ですから、まず「オペラではない」ということを意味しています。つまり、演出や演技をするべきものではなく、基本的には音楽のみで筋道を辿りながら楽しむドラマ、という意味なのです。
 今日は、このコーヒー・カンタータと一緒に、「愛」Amorを歌ったイタリア語の作品をふたつ、そして、その愛が実った時に必要な美しい「結婚カンタータ」をお届けいたしましょう。コーヒー好きのあのリースヒェンでさえ、「結婚」のためには父親に脱帽したのですから。(え、ホント?!)

鈴木 雅明 (バッハ・コレギウム・ジャパン音楽監督)


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