BCJ ドイツ/イギリスツアー2007・レポート


 去る 8月2〜7日にかけ、BCJにとって今年度唯一の海外公演が行われました。筆者は今回の4公演のうち、アンスバッハの2公演とロンドンでのプロムス公演に立ち会うことができましたのでレポートさせていただきます。
 筆者にとって初めて海外で味わうBCJの演奏は大変感慨深いものでした!リハーサルの見学許可等、大変お世話になったBCJ事務局の皆さま、そして素晴らしい音楽体験をさせていただいた鈴木雅明さんをはじめとするBCJメンバーの皆さまに心より感謝申し上げます。ありがとうございました!!
 (追記完了しました!)

(07/09/05[了])

8/3(金)アンスバッハ到着
フランクフルト駅(左)からDB(ドイツ国鉄)を乗り継いでバッハ音楽祭で名高いアンスバッハの街に到着。さっそく旧市街を散策しました。
旧市街の入口には「バッハ音楽祭」の旗がはためき(中央左)、宮殿前には洒落た泉が(中央右)、そして街角には新聞を読む男性のオブジェが(右)たたずんでいました。
8/4(土)アンスバッハ(朝市、オルガン礼拝、BCJリハーサル・コンサート「マタイ受難曲」[1])
旧市街の教会前の広場には朝市が立ち、野菜や果物、ソーセージやジャムにワインなど、新鮮な食材満載の屋台が並ぶ(左:奥に見えているのが聖グンベルトゥス教会)。しかし、そんなにぎわいの中、午前9時30分から行われたオルガン礼拝に参列。聖グンベルトゥス教会のまず小礼拝堂で小オルガンの奏楽を聴く(中央左)。説教とお祈りの後、教会本体の聖堂に移動してライル兄弟の手によって修復が成ったばかりの大オルガンの奏楽を楽しんだ(中央右)。礼拝終了後、オルガンに興味を持った何人かがオルガン台に招かれ、オルガニストの方からオルガンの説明をうかがうことができ、ミニ・オルガンツアーと成った次第。現代の作品を例にとり、様々な笛の音色を聴かせていただけた(右)。
 
聖グンベルトゥス教会を出て、少し先にあるもう一つの教会、ヨハネ教会を訪れてみる。聖堂内に入ると、オルガンはモダンな楽器(左はし)。祭壇の前には、前夜に行われたマンゼ指揮イングリッシュ・コンソートのステージがまだしつらえてあった(左から2枚目)。このヨハネ教会の方が空間が大きく残響も多そうだ(中央:外観)。その前の広場にはバッハの顔をあしらった碑があり、朝市の野菜たちに囲まれていた(右から2枚目)。聖グンベルトゥス教会の前(右はし)を再び通り、いったん宿舎に戻る。
  
午後3時30分からのリハーサルの見学に備え、まずは腹ごしらえ。マッシュルームとソーセージといういかにもドイツ料理らしい組み合わせの一品をいただいた(右)。そしていよいよBCJの皆さんが到着し、リハーサル開始(中央、右[ガンバは2オケのチェロも担当されたエマニュエル・バルサ氏])。すでに前々日シュヴァービッシュ・グミュントでの演奏会を終えているので、ポイントを絞った確認が続く。以前ガーディナー/イングリッシュ・バロックソロイスツのやはり「マタイ」のリハーサルを見学させていただいたが、取り上げた曲に共通するものが多く、大変興味深く感じた。やはりこの音楽のアンサンブル上のポイントは自ずと重なってくるのであろう。一時間を少し回ったところで全体リハーサルは終了し、器楽の確認がもうしばらく続いた。さあ、いよいよアンスバッハでの「マタイ」の開演だ。
 
定刻の午後6時を少し過ぎてメンバーが入場(左)。会場はオルガンの横にまでびっしり立ち見の聴衆も集まり、期待が高まる(中央)。そして途中30分余りの休憩を挟み、BCJのマタイのドラマが繰り広げられた。最後の響きが収まり、鈴木雅明さんが腕を下ろしてさらに一呼吸。じわじわと始まった拍手が会場全体に拡がる。程なく満場総立ちのスタンディングオベイション。喝采に応える鈴木雅明さんとBCJの皆さん(左:画像をクリックすると拡大します)。充実のアンスバッハ第一夜。会場を出てホテルへのバスに乗り込むメンバーの皆さんとお話をしていると、スーツを着た紳士が「エクセレント!」と声をかけてくださった。実にうれしい。素晴らしい音楽体験は、その共有を確かめたくなるものなのだ。メンバーの皆さんがお帰りになったあと、この素晴らしい場に立ち会うことのできた同胞と祝杯をあげた。
8/5(日)アンスバッハ(礼拝、室内楽コンサート、BCJリハーサル/コンサート「マタイ受難曲」[2])
翌5日は日曜日。せっかくドイツに来て日曜日を迎えたので、聖グンベルトゥス教会の朝の礼拝に参加。再び大オルガンの響きに身を委ねる。(ちなみにこの礼拝のあと、鈴木雅明さんが大オルガンの試奏をされたそうだ。) 9:30からの礼拝が終わったのが10:50。急いでシュロス(城)内のプルンク・ザールという会場(左)に向かう。11:00開演の「バッハか否か?」という室内楽コンサートを聴くためだ。よく場所がわからず11時を少し回ってしまってからの会場入りだったが、コンサートの趣旨の説明などがあったため、演奏の開始には充分間に合った。バッハの偽作とされる曲に、真作の管弦楽組曲2番の弦楽編曲版という凝ったプログラムだったが、ドイツの若手古楽奏者のフレッシュなアンサンブルを楽しめた。この会場で是非BCJメンバーによる器楽アンサンブルも聴いてみたいもの。ソロのリサイタルでもいいかもしれない。
コンサート後、昼食をとり、バッハ音楽祭の事務局(中央)を訪れて「アンスバッハ・バッハ週間の60年」という展示を見たりしているうちにBCJのリハーサル開始時刻が迫ってきた。聖グンベルトゥス教会の裏手に回ると、バイエルン放送協会の中継車がスタンバイしていた。2日目の演奏はこの中継車からインターネットでも中継されたとのこと。事前にお知らせできず残念極まりない。再放送の情報などご存じの方は是非ご一報ください!(インターミッションで流された鈴木雅明さんのインタビューだけ、こちらからダウンロードして聴くことができる[ドイツ語])
2日目のリハーサルは「マタイ」の中で唯一リコーダーが登場する第19曲から始まった(左、中央)。続いて前夜の演奏でわずかながら不安定な部分のあった第一部の終曲(第29曲)へと進む。
いくつかのアリアでの確認を経て、やがてソプラノの名アリア「アウス・リーベ」へ(左)。さらにいくつかの確認を経てからついに終曲(第68曲)にたどり着いた。ここでふと、コラールをほとんど取り上げていないことに気づいた。鈴木雅明さんはかつてマタイについてお書きになった文章の中で、「コラールは練習出来るものでないところが難しい」とお書きになっていたが、受難曲の進行の中でこそ真の意味でのコラールになるということなのかと思った。その点、ガーディナー氏が、イエスが亡くなったあとのコラールで器楽を絞り、かすかなオルガンの響きとコンティヌオだけで演奏させてバランスを確認していたことと好対照な気がした。ガーディナー氏はメンゲルベルクがアカペラで歌わせたそのコラールの効果を取り入れようとしていたように思う。しかしBCJはあくまでバッハが書いたとおりに演奏するのだ。
 
一時間ほどのリハーサルが終わり、教会の出口でマエストロご夫妻とテノールの水越さんのスナップを撮らせていただく(左)。マエストロはアンスバッハ音楽祭60周年の記念絵はがき集をお持ちだった。開演の近づく教会周辺。プログラム販売のスタッフもこの日が最終日(中央)。そして放送の予定もあるので前日よりやや早い18:07に開演。19:16に第一部が終了し休憩時間。教会周辺はまだ明るい(右)。販売されていたBCJのCDに興味を持って眺めていた方も多かった。(終演後には、たくさん用意されていたBCJの「マタイ」のCDがほとんど無くなっていた!!)
後半の開始を告げるドラが響き、聴衆が会場に吸い込まれる。19:45、第二部開始。そして21:17、終演。緊張感あふれるマタイのドラマが「憩え」の声とともに収まると、しばしの沈黙の後、喝采が起きた(左)。昨夜に続き再び総立ちの会場。祭壇中央の説教壇の上には「神の子羊」があしらわれていた(中央)。まさに「マタイ」にふさわしい場だと再認識。
バスに乗って宿舎に戻るBCJの皆さんを見送ってから、この日も日本からの仲間たちとテーブルを囲んだ。メインディッシュは子羊のステーキ・・・!(右)
8/6(月)アンスバッハ→ロンドン(プロムス32[ノセダ/BBCフィルハーモニック&ルネ・フレミング]観賞@ロイヤル・アルバートホール)
「マタイ」の余韻の残る中、アンスバッハの駅からDB(ドイツ国鉄)に乗り、ビュルツブルグ経由でフランクフルト空港へ。靴下も脱がされる厳しいセキュリティ・チェックを経ていよいよロンドン入り。到着後、さっそく翌日のBCJコンサートの会場となるロイヤル・アルバートホールに向かってみる(左)。ホールはハイド・パークに面した立地。ホールの向かいには輝く人物像が(中央)。BCJの皆さんはこの日はBBCのスタジオでリハーサルだったそうだが、私は下見も兼ねて(?)午後7時半開演のプロムスのコンサートを観賞。ノセダ指揮のBBCフィルハーモニックによるコンサートだった。ベートーベンの第8交響曲で軽やかに開幕し、続いて歌姫・ルネ・フレミングの登場。ベルクとコルンゴルトの作品を聴かせてくれたが、私にはよりナチュラルなコルンゴルトの叙情の方が印象に残った。しめくくりはシューマンの第2交響曲。冒頭のベートーベンと同じ12型(コントラバスは5)という小ぶりのオーケストラを、ノセダが端正に導いていった。この夜の座席は3階正面の上の方。6000人収容の大ホールということで危惧していたが、この場所でもはっきりと豊かな響きを楽しめた。歌も充分聞こえる。BCJのハーモニーも美しく響けばよいのだが・・・。
8/7(火)ロンドン(ヘンデル・ハウス訪問、プロムス33[ノセダ/BBCフィルハーモニック]、プロムス34[BCJ]観賞@ロイヤル・アルバートホール)
いよいよBCJプロムスデビューの日。日中は市内を散策し、午後にはヘンデルが長く住み、臨終を迎えた建物に設けられている「ヘンデル・ミュージアム」を訪ねた(左)。館内では日本語での解説も読め、このグルメな大作曲家の生活がよく理解できた。メサイアなどの作曲に没頭した部屋は窓も小さな閉じられたスペース。ヘンデルのアイディアの飛翔がこの空間から始まったと思うと感慨無量。秋の「エジプトのイスラエル人」公演がますます楽しみになる。軽く腹ごしらえをしようと、ホテル近くのショッピング街で買い物をしていると、何とゲルト・テュルク氏に遭遇!「僕らを追いかけてくれているんだね。ファンタジック!」とおっしゃっていただいた。ホールでの再会を約して別れる。
この日のBCJのコンサートはレイトナイトコンサート。午後10時開演だ。ということでホールでは午後7時からこの日もノセダ/BBCフィルハーモニックの演奏会が開かれていた。せっかくなのでこのコンサートにも参上。前日より少し低い位置の席で大オーケストラを楽しむ。天井の吊りものも美しい(中央)。プログラムはブリテンの「シンフォニア・ダ・レクィエム」とマーラーの第10交響曲(クック版)という重量級のもの。本来は日本のために書かれたブリテン作品が選ばれているあたりに、このあとの日本からのゲストによるコンサートも意識されていたのであろうか。オケの個々人の技量も高く、説得力のある演奏が展開されていた。マーラー作品の最後の場面、静かに音楽が消え入って行った時に大きな携帯電話のものと思われるメロディが会場に響いたのには驚いたが・・・。聴衆はこの熱演に喝采を送り(右)、やっと解散になったのがもう9時10分過ぎ。これからBCJのセッティングだ。私も一旦会場の外へ。BCJのコンサートのプログラムを買って開場を待つ。
    
午後9時40分、いよいよ開場。このコンサートばかりは奮発してボックスシートを購入してある。午後10時過ぎ、ついに開演。広い空間にBCJの音楽が流れ出す。はじめはさすがに響きが遠い感じだったが、すぐに慣れ、満喫。カンタータ78番でのキャロリンとロビンのデュエットが始まると、もう夢心地だ。ただ、もしかしたら響き自身は、前夜やこの直前にオーケストラを聴いた上の階の席の方が良かったかもしれないと思う。低料金なこともあって聴衆はみな下の階の客席に集まっている。3階席は広々と空席が。しかし、レイトナイトのコンサートとしては平戸間の立ち見席もほぼ埋まり、なかなかの入りだったとのこと。カンタータ200番のロビンのソロが会場を魅了した時、実はアクシデントが。音楽が終わったとたんにコンサートマスター、寺神戸さんのヴァイオリンの弦が切れてしまったのだ・・・。なんともぎりぎりのタイミング。最後のミサ曲が始まる前に、BBCの放送では鈴木雅明さんのコメントが流されていたが、実はその時ステージ上では寺神戸さんが必死に弦を取り替えていらしたのだった・・・。なんとか間に合ってミサの演奏が始まる。先に演奏されたカンタータ179番のパロディだ。そして終演。熱くさかんな喝采が長く送られた(左)。11時半に間もなくなろうかというところでお開きに。楽屋口にまわりメンバーの皆さんと談笑していると鈴木雅明ご夫妻とイギリスでのマネジメントの方が出ていらした(中央)。満足げな表情がうれしい。その後、もう深夜になってしまったが、メンバーの皆さんが宿泊されていたホテルでのパーティにお邪魔させていただく。ホッと一息のマエストロとキャロリン嬢をパチリ(右)。最後に、初めて海外でBCJを聴かせていただいた感想とお礼をマエストロやスタッフのみなさんにお伝えして自分のホテルに戻った。もう時間は午前2時過ぎ。がんばって翌朝8時過ぎにはホテルを後にして、ロンドンからミュンヘン経由で帰国。夢のような私のツアーもここに完結。本当にありがとうございました!身近にBCJの演奏に触れることのできる幸せを再認識した旅でもありました。あらためまして「VIVA!BCJ」

(07/09/05)

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