東京オペラシティ+BCJ 2007→2009ヘンデル・プロジェクトIII
  G.F.ヘンデル/歌劇《リナルド》


2009/12/06 東京オペラシティ・コンサートホール 15:00 


G.F.ヘンデル:歌劇《リナルド》HWV7a(1711年版)
         
全3幕 演奏会形式・イタリア語上演(日本語字幕付き)


《指揮&チェンバロ》鈴木雅明
《配役》 *プロフィールはこちら
  リナルド:ティム・ミード(カウンターテナー)
  アルミレーナ:森 麻季(ソプラノ)
  アルミーダ:レイチェル・ニコルズ(ソプラノ)
  アルガンテ:萩原 潤(バリトン)
  ゴッフレード:クリストファー・ラウリー(カウンターテナー)
  ユスタチオ:ダミアン・ギヨン(カウンターテナー)
  マーゴ・クリスティアーノ:上杉清仁(カウンターテナー)
  女/シレーナ1:松井亜希(ソプラノ)
  シレーナ2:澤江衣里(ソプラノ)
  アラルド:中嶋克彦(テノール)

《管弦楽》 
 
  トランペット:島田俊雄(I)、斉藤秀範(II)、村田綾子(III)、狩野藍美(IV)
  ティンパニ&パーカッション:菅原 淳
  リコーダー:向江昭雅
  フラウト・トラヴェルソ:菅きよみ(I)、前田 りり子(II)
  オーボエ:三宮正満(I)、森 綾香(II)
  ヴァイオリン I :若松夏美(コンサートマスター)、竹嶋祐子、山内彩香、山口幸恵
  ヴァイオリン II:高田あずみ、荒木優子、木村理恵
  ヴィオラ:成田 寛、深沢美奈

 〔通奏低音〕
  チェロ:鈴木秀美  コントラバス:今野 京  ファゴット:村上由紀子 
  アーチリュート:野入志津子  チェンバロ・オブリガート&オルガン:鈴木優人  


ヘンデルプロジェクト最終回
エジンバラ音楽祭出演に続く、鈴木雅明&BCJ入魂の《リナルド》。


 ヘンデルプロジェクト最終回は、オペラ《リナルド》を演奏会形式で取り上げます。
 《リナルド》以降に誕生したヘンデルのオラトリオ作品にみられる色々な要素は、実はこのオペラに全てつまっていると思うことがあります。そして《リナルド》の持つお伽話的な楽しさや宗教的背景、美しいアリアやオーケストレーションなど作曲面での実験的な試みにも興味は尽きません。またヘンデル作品には特有の歌い回しや即興的な装飾などの要求が多くありますが、今回、それらに十分応えてくれる素晴らしい歌手たちが揃いました。今夏のエディンバラ音楽祭でも何名かが共に出演しますが、各役柄にぴったりな歌手たちばかり。ヘンデルのオペラは音楽的要素だけでもとても楽しめ、劇的な変化を感じることができます。メモリアルイヤーに聴く代表作、ぜひお楽しみください。

バッハ・コレギウム・ジャパン音楽監督 鈴木雅明 (チラシ掲載文)

独占掲載!
タイトルロール、リナルドを歌う ティム・ミード インタビュー


―ヘンデルの《リナルド》は初挑戦だそうですね。
M: はい。数年先にはグラインドボーン音楽祭で歌うことが決まっているのですが、そのときは僕はユスタチオ役(今回のBCJ公演ではダミアン・ギヨンさんが歌う役)で、リナルド役は僕の大好きなコントラルト歌手のソニア・プリナさんが歌うので、楽しみです。そういえば、大学時代にリナルドの有名なアリア「愛しいひとよCara sposa」は歌ったことはあります。その頃よりも、うまくなっているとよいのですけど(笑)。
今回は演奏会形式ですが、ある役を初めて歌うときはそのほうが集中できるのでうれしいです。僕の場合、舞台で役を演じる場合は、演技のほうにかなりエネルギーを取られてしまうので、それまでにかなり歌いこんでいないと大変なのです。

―BCJのエディンバラ音楽祭での《リナルド》公演には、同音楽祭でちょうど別のヘンデルのオペラに出演していたために参加できなかったのですよね。
M: はい。今年のゲッティンゲン・ヘンデル・フェスティヴァルの《アドメート》のプロダクションをエディンバラに持ってきたので、そちらに出ていたのです。

―これまでヘンデルのオペラでは他にどんな役を歌っていらっしゃいますか。
M: いろいろな役を歌っています。《ジューリオ・チェーザレ》のチェーザレ役とトロメオ役、《オルランド》のタイトルロール、今回の《アドメート》のタイトルロール、そのほかに《ソザルメ》《エツィオ》《リッカルド・プリモ》《ロターリオ》などあまり知られていないオペラにも出演しています。

―今回のBCJの《リナルド》には4人のカウンターテナーが出演します。エディンバラ公演を聴いていて思ったのですが、カウンターテナーと一口に言っても、ひとりひとり声はずいぶん異なりますよね。それなのに、こういった声のタイプを分類するための用語はまだ確立できていないように思うのですが。
M: そのとおりだと思います。おそらく、他の声種にくらべても、もっとも声のタイプの幅が広いのではないでしょうか。最近では、ジャルスキーをはじめとするひじょうに高い声域をもつカウンターテナーたちが登場していますし、声質もソフトからハードまで、リリカルな声からドラマティックな声までひじょうに多様性があるといえます。今のところ分類といえば、声域が高いか低いか、オペラに適した声かバッハなど古楽に適した声かぐらいしかないのではないでしょうか。でも最近ではますますオペラも古楽も両方歌える歌手が増えています。
たとえば現在有名なカウンターテナーを考えても、だれ一人似た声ではないですよね。新しく出てきたカウンターテナーは先輩歌手の声にくらべられるのが常ですが、僕などもあらゆるカウンターテナーに似ていると言われてきました。デイヴィッド・ダニエルズ、アンドレアス・ショル、マイケル・チャンス、ロビン・ブレイズとも似ていると言われたことがありますよ。それぞれ全然違う声なのに!僕自身としてはダニエルズとショルのちょうど中間だと思ってもらえれば十分幸せです(笑)。

―ヘンデルのオペラを歌うことの魅力はどんなところにありますか。
M: 役によって違いますね。《ジューリオ・チェーザレ》のチェーザレ役がいちばん歌いやすい役だと思うのですが、それは必ずしもアリアが歌いやすいからということではなく、オペラの構成が最初から最後までうまくできていて、最後に歌うアリア「Quel torrente」で力を出し切ることができるようになっているからです。数年前にグラインドボーン音楽祭で上演された時に、デイヴィッド・ダニエルズのカバー(代役)をつとめたのですが、いかに全体をペーシングするかとても勉強になりました。
ヘンデルのオペラで難しいのは、最初から張り切りすぎないことだと思っています。よく最初から全力で歌う歌手がいますが、僕自身は作品全体の配分を考えて歌うようにしています。たとえばオペラ全曲で6〜7曲のアリアを歌う場合、最初のアリアでもっとも派手なカデンツァを歌ってしまったら、そのあと聴衆にきかせるものがなくなってしまうじゃないですか。全体を念頭に置くことはオペラのドラマを伝える上でも役立つと思います。

―今年ゲッティンゲンとエディンバラで出演された《アドメート》のプロダクションはいかがでしたか?
M: 演出はヴィジュアル面およびスタイルは凝っていますが[注:なんと〈日本風〉と称した演出で、ティムさんの扮するアドメートはサムライ風!]、実際には比較的なシンプルなプロダクションなんです。途中、10分以上も舞台でひとりきりで歌う場面があって緊張しましたが、楽しめました。とにかく物語を伝えることを何よりも心がけました。


*《アドメート》に出演しているティム・ミード。
  (右の写真中、左側にいるサムライ風の人物がアドメート)。
  (ゲッティンゲン・ヘンデル・フェスティバルにて:(c) Theodoro da Silva.)

  ※ゲッティンゲン・ヘンデル・フェスティバルのHPにティム・ミードさんの
   プロフィールが紹介されています!こちらです。他に、こちらにもあります。

―アドメートの役は、人気カストラートのセネジーノのために作曲されたのですよね。
M: そうです。ただ、このオペラにはセネジーノとともに、クッツォーニとボルドーニという当時のライバルのソプラノ歌手も出演していたので、セネジーノはやや2人の陰に隠れてしまうきらいもあります。セネジーノの得意としたどちらかというと憂いに満ちたアリアが多く、キャラクターとしてはやや頼りない部分もあるのですが、声域としては僕の声にはぴったり合うので歌いやすいです。

―もともと舞台に立つのはお好きだったのですか?
M: 初めはそうでもなかったんです。ロイヤル・カレッジ・オヴ・ミュージック在学中にロンドン・ヘンデル・フェスティヴァル主催の《ソザルメ》や《エツィオ》に出演したときにはかなり苦労して、演出家にかなりしぼられた経験があります(笑)。
その後、ディヴィッド・オールデンのプロダクションに出演したのですが、演出がひじょうに明確ですべてうまく処理されているので、演技自体もひじょうにやりやすく感じました。同じことはディヴィッド・マクヴィカー(グラインドボーンの《ジューリオ・チェーザレ》の演出家)の演出にも感じます。たとえばアリアのダ・カーポ部分までもひじょうに巧みに演出するので感心します。

―BCJではすっかりおなじみのロビン・ブレイズさんのお弟子さんときいていますが。
M: ロビンさんにはロイヤル・カレッジ・オヴ・ミュージックの大学院コースで師事しましたが、今では特に先生にはついていません。カウンターテナーの場合、よい先生やコーチを見つけるのが難しいということもあります。誰か見つけたいとは思っているのですが、とりあえず僕は自分自身には厳しい方なので、ひとりでやっています。

―小さい頃から歌手になろうと思っていたのですか?
M: いえ、歌手になろうとは思っていませんでした。子供のころからずっとチェロを習っていて、歌手になったのはいわば偶然のようなものです。カウンターテナーを歌うようになったのは16歳のときでした。その頃歌っていた合唱団のひとつでカウンターテナーが必要になり、歌ってみないかと言われたのがきっかけでした。でも別の合唱団ではしばらくそのままバリトンを歌っていたんですよ。その後、ケンブリッジ大学に進学し、コーラル・スカラーとして聖歌隊でカウンターテナーとして歌いました。それでも、ヘンデルのオペラを舞台で歌うようになるとは想像していませんでした!

―今後のご予定をきかせてください。
M: まずは9月にオスロ[ノルウェー国立オペラ]でモンテヴェルディの《ポッペアの戴冠》のオットーネ役を歌います。そのあとはデュッセルドルフの《ジューリオ・チェーザレ》のトロメオ役(10〜11月)。来年以降では、ロイヤル・オペラで上演されるバロック時代の作曲家ステッファーニ(1654〜1728)のオペラ《テーベの女王ニオーベ》(2010年9月)に出演します。さらにさきほどもお話ししたグラインドボーン歌劇場のヘンデル《リナルド》、あとエマニュエル・アイムさん指揮によるヘンデルの《アグリッピーナ》(仏リール、ディジョン)にもオットーネ役で出演、アイムさんと共演できるのも楽しみにしています。

―今回が初来日ですか?
M: 実は違うんです!13歳のときに英国のオペラ・グループの来日公演で、東京の石橋メモリアル・ホールで上演されたベンジャミン・ブリテンのオペラ《カーリュー・リヴァー》に出演にしたことがあるんです。たぶん1993年か94年だったと思います。でもそれ以来初めてになります。

―それでは東京公演のご成功を願っています。どうもありがとうございました。
2009年8月29日、エディンバラにて。
取材・構成:後藤菜穂子
(09/11/23)

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