BCJ 東京デビューコンサート
  “J.S.バッハ/マタイ受難曲”


'91/3/28  18:30  石橋メモリアルホール


J.S.バッハ/マタイ受難曲 BWV244 (全曲)


指揮、オルガン(第1オーケストラ):鈴木雅明

独唱:佐々木正利(T/福音史家)、マックス・ファン・エグモント(Br/イエス)、
    ナンシー・アージェンタ(S/ピラトの妻)、マイケル・チャンス(CT)、
    多田羅迪夫(B/ピラト、ペテロ、ユダ、大祭司)
    富本憲子(第1の侍女)、西内美登里(第2の侍女)、石井誠二(祭司1)、小笠原美敬(祭司2) 

オーケストラと合唱:バッハ・コレギウム・ジャパン、東京荒川少年少女合唱団

  第1オーケストラ:寺神戸亮(ヴァイオリン・リーダー)、鈴木秀美(チェロ)、西澤誠治(ヴィオローネ)、
              マルセル・ポンセール、北里孝浩(オーボエ)、
             リンデ・ブリュンマイヤー、朝倉未来良(トラヴェルソ)

  第2オーケストラ:若松夏美(ヴァイオリン・リーダー)、桜井茂(ヴィオローネ)、
              ライナー・ツィッペリンク(チェロ、ヴィオラ・ダ・ガンバ)、今井奈緒子(オルガン)
              川村正明、奥山茂(オーボエ)、中村忠、中村洋彦(トラヴェルソ)  


【コメント】
 私とBCJとの出会いとなったコンサートである。私にとっては生演奏で聴くオリジナル楽器の響きとの初めての出会いでもあった。そのためか、正直なところ、たとえば第1曲の軽やかなテンポと薄い響きには、違和感を感じた。リヒターを愛聴していた(今でも大切な演奏です。特にVHDでの演奏者の姿と演出は素晴らしい!)当時の私には何か物足りなく感じながらスタートした訳だが、次第に物語に吸い込まれていった記憶がある。これには、それまでに聴いた日本人による演奏では体験することのできなかった確信に満ちたレチタティーボの歩みが大きな役割を果たしたものと思う。今から思えば言葉のメッセージを大切にするBCJの一番の魅力がここにあったのだ。
 そんな思いで聴き進めていたためかアリアの印象は余り残っていないのだが、第1部の27-aにおけるナンシー・アージェンタとマイケル・チャンスのデュエットや第2部の39“憐れみたまえ”でのチャンスの歌声(そういえば、カウンターテナーの不思議な色香のある音色に実演で触れたのもこの日が初めてだった)の言葉では表せない美しさはやはり忘れがたい。反面、確か第2部の57の十字架アリアで途中の入りを間違えて台無しにしてしまったことを始めとして、終始まわりの音づくりとの違和感が感じられた多田羅迪夫の歌は残念だった。
 今考えてみると、当時、一番よく聴いていたマタイはガーディナー盤だったと思うので、結局聴き終わった後は、当時素晴らしいと思いながらも何かが足りないと感じていたそのガーディナー盤と、リヒターの熱いメッセージが溶け合ったバッハ演奏が実現する可能性を感じたものだった。この思いが今につながるBCJと私の関わりの原点となったに違いない。それは本当に素晴らしい出会いであった。 (矢口)

VIVA! BCJに戻る
これまでの演奏会記録に戻る