第3回定期
  J.S.バッハ/教会カンタータ全曲シリーズ II
    〜マリアの讃歌(ほめうた)〜 


'92/10/19  19:00  カザルスホール 


J.S.バッハ/教会カンタータ 《心と口と行いと生活が》 BWV147
J.S.バッハ/マニフィカト BWV243


指揮:鈴木雅明

独唱:栗栖由美子,西内美登里(S)、シツェ・ブヴァルダ(CT)、畑儀文(T)、マックス・ファン・エグモント(B)

合唱と器楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

    コンサート・マスター:寺神戸亮

    通奏低音:鈴木秀美(チェロ)、西澤誠治(ヴィオローネ)、堂阪清高(ファゴット)、
           鈴木雅明(オルガン)、辰巳美納子(チェンバロ)


【プログラム『ご挨拶』
  
 皆様、本日はバッハ・コレギウム・ジャパン第3・4回定期演奏会にお越し項き、ありがとうこざいます。私達は、カンタータの全曲演奏という途方もない大海原に乗り出してしまった艀(はしけ)のような存在ですが、多くの方々のご協力により予想外に早くスタートできたことは大きな喜びです。
 この企画を始める前の大きな悩みは、一体カンタータをどの順で演奏するか、という問題でした。作曲年代順、あるいは教会暦順(つまり Bach Compendium の順)、またBWV番号順などが考えられますが、筆者自身は、もちろんカンタータ演奏の本来の形である教会暦に従うということが、最も重要なことだと考えています。というのは、カンタータが最も深く根ざしているのが、教会暦にともなう聖書日課(ペリコーペ)であり、またその日に歌われるコラールである以上、教会暦を無視してカンタータを演奏することは、バッハの意図に従えば、あまり意味をなしません。しかし、現代日本でしかもコンサートホールでの演奏にこの教会暦を遵守するということは全く不可能ですし、聴衆は礼拝に来られるのではなく、演奏会に来られるのですから、むしろ、教会暦から大きく外れない範囲で、そのつど最も興味をひくカンタータを特定のテーマの下に集めてプログラムをつくることが最もよいのではないか、と考えました。それによって、バッハがそれぞれのカンタータに盛り込んだメッセージが、聖書的な土壌のない私達にも、よりはっきりと理解できるかもしれません。そしてそれぞれのカンター タが、言葉と音楽のあらゆるニュアンスを駆使して私たちの人生の様々な側面に光をあててくれることがおわかり頂けば、と思っております。
 今回は、マリアにまつわる作品ソロ・カンタータ集という2種頚のプログラムを連続してお送りいたします。マニフイカトは、30分足らずの短い作品ですが、器楽・声楽ともに高度な技術が要求される密度の高い音楽です。プロテスタントとカトリックでは、マリア観が全く異なることはいうまでもありません。しかし、10代半ばのマリアの純粋無垢で真摯な神賛美の言葉は、どの教会でも共通に愛され歌い続けられてきたものです。
 このマニフイカトと組み合わせる作品として、有名な147番のカンタータを選びました。これは、元来アドベント(待降節)のために作曲されたものを後年マリアのエリサベツ訪問を記念する日のために拡大したもので、コラールぱかりが圧倒的に有名になりましたが、合唱曲もアリアも大変充実し、かつしっとりとした味わい深い作品です。
 今回は、オランダからマックス・ファン・エグモントとシツェ・プヴァルダのお二人をお招きできたのは、望外の喜びです。ファン・エグモント氏は、2年前のマタイ受難曲の際にも共演してくださいましたが、プヴァルダ氏は初来日です。このおこ人は師弟であるとともに、バロック界のベテランと最若手をそれぞれ代表する方々として大変興味深いコンビネーションです。
 このプログラム冊子には、前回同様多くの方々の献身的なご協力を戴いております。これは、カンタータそのものとその背景について、できるだけ多くの視点から執筆して項き、聴衆の皆様に様々な角度から作品の素晴らしさを知って頂きたい、と願って編集されておりますが、今回さらに新しい視点として、コラールについての連載を始めることができました。カンタータの多くはご承知のとおりルター派の賛美歌(コラール)に基づいており、コラールについての理解なくしては、本当に作品の意味を知ることができません。この連載記事を快く引き受けてくださったのは、オランダ・フローニンゲン大学神学部典礼研究所所長のヤン・R・ルツ教授です。今回はその第1話としてコラール概説,第2話としてマニフイカトについての記事が掲載されています。ルツ教授は、オランダを代表する賛美歌学者でありプロテスタント教会音楽についての碩学であると同時に、ご自身オルガニストでもあり、教会音楽の歴史と神学、そして会衆賛美の変遷とオルガンの歴史を総合的包括的に論ずることのできる数少ない学者の一人として、つとに注目される存在です。それでは、バッハのすばらしさを最後まで ゆっくりご堪能下さい。 
バッハ・コレギウム・ジャパン音楽監督  
 鈴木 雅明
  
  本「ご挨拶」中に示されている“カンタータ演奏の方針”(教会暦から大きく外れない範囲で、そのつど最も興味をひくカンタータを特定のテーマの下に集めてプログラムをつくる)は現在では見直され、おおよそバッハの作曲順にしたがって演奏が進められています。(編者注)

【コメント】

 カンタータシリーズ第2回。 アンコールはマニフィカトの終わりの部分とBWV147のかの有名なコラール。コラールのアンコールは予定になかったもののようで、トランペットのグラハム・ニコルソンがステージ袖まで楽器を取りに戻るハプニング。その事情を鈴木雅明さんが会場に向かって説明したのが、定期公演でお話しした最初。(矢口)

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