第17回定期
  J.S.バッハ/教会カンタータ全曲シリーズ IX
       〜イエスに従いゆく道〜 


'95/3/2   19:00  カザルスホール 


J.S.バッハ/管弦楽組曲第1番 BWV1066

J.S.バッハ/教会カンタータ

   《天より雨くだり雪おちて》 BWV18
   《イエス十二弟子を呼び寄せて》 BWV22
   《汝まことの神にしてダヴィデの子よ》 BWV23


指揮:鈴木雅明

独唱:栗栖由美子(S)、米良美一(A)、石井健三,滝澤映(T)、小笠原美敬(B)

オブリガート:江崎浩司(オーボエ:BWV22,23)、三宮正満(オーボエ:BWV23)、
        高田あずみ,森田芳子,シュテファン・ジーベン,渡邊慶子(ヴィオラ:BWV18)

合唱と器楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

    コンサート・マスター:若松夏美

    通奏低音:鈴木秀美(チェロ)、桜井茂(ヴィオローネ)、堂阪清高(ファゴット)、
           鈴木雅明,今井奈緒子(オルガン)


【プログラム『巻頭言』
  
          わたしは見た。
          見よ,山は揺れ動き,
          すべての丘は震えていた。
          見よ,実り豊かな地は荒れ野に変わり,
          町々はことごとく,主の御前に打ち倒されていた。
                  (エレミヤ書:23,26)
          しかし,見よ,
          わたしはこの都に,いやしと治癒と回復とをもたらし,
          彼らをいやして まことの平和を豊かに示す。
          そして,彼らを初めのときのように建て直す。
          やがて,喜び祝う声,花婿と花嫁の声,
          感謝の供え物を主の神殿に携えて来る者が,
          『万軍の主をほめたたえよ,主は恵み深く,
          その慈しみは,とこしえに。』
          と,歌う声が聞こえるようになる。 
                     (エレミヤ書33:6,11)
    
 揺れ動く大地の恐怖から,6週間が経ちました。私達バッハ・コレギウム・ジャパンの発祥の地でもある神戸が打ち砕かれた衝撃はあまりにも大きく,初めはただ息を呑むばかりでしたが,現地で崩れた家々やビル群を目の当たりにすると,その凄惨な姿ははるかに報道を上回り,あまりのことに人々はかえって麻痺状態態に陥っているかにさえ見えました。人の命に比べれば,音楽など取るに足らないものではありますが,しかし,市内のほとんどのコンサートホールが倒壊したり避難所となったりして,事実上神戸の音楽活動が停止してしまった今,人々の心を慰めるよすがを失ってはならない,という思いがつのります。大きなパイプオルガンも数多く被害を受け,大破してすでに再建を断念したところさえ出ています。私達が神戸で拠点としている松蔭女子学院大学チャペルは,奇蹟的にほとんど無傷で生き残り,今や市内に残った貴重な音楽の場となりました。バッハ・コレギウム・ジャパンでは,今こそ音楽を通してささやかな捧げ物をなすべきと考え,今月から一連チャリティ・コンサートを『甦れ,KOBE!』と題して始めることにいたしました。(裏表紙参照)
    
 人は一体、肉親の死に際して慰められうるものでしょうか。預言者エレミヤの時代,息子の命を奪われた母親達は,慰められることを拒みました。人は人を本当に慰めることはできないのかも知れません。しかし,唯一の慰めが上から来る,と聖書は教えます。なぜなら,「まことの神にしてダビデの子は,永遠の先より,我が心の悩みと我が肉の苦しみとをつぶさに見知りたもう」(第23番第1曲)からです。さらに,そのダビデの子たるイエスは,自らを神の犠牲の子羊Lamm Gottesとして死に赴き,死人のうちより復活することにより,私達の悲しみの根源である『死』を打ち滅ぼされたのです。ですから,「汝の慈しみによりて我らを死なしめ、汝の恵みによりてわれらを甦らせたまえ。」(22番第5曲)という祈りは確かに聞かれ,その甦りへの希望によってのみ,絶望した心は唯一の慰めを得るのでず。さあどうぞ皆様,バッハの語る主の慰めの言葉をお開きください。
          主はこう言われる。
          泣きやむがよい。
          目から涙をぬぐいなさい。
          あなたの苦しみは報いられる。
          あなたの未来には希望がある。
                        (エレミヤ書31:16〜17)
バッハ・コレギウム・ジャパン音楽監督 
鈴木雅明 

【コメント】

 この年の1月におこった阪神淡路大震災後初めての定期。プログラムには東京の日程しか記されていないので、BCJの“故郷・神戸”の癒しと再起を、はるか東京から祈る演奏会だったのだろう。「巻頭言」も聖書「エレミア書」の地震の描写と、いやしと回復を主に祈り讃美する部分の引用から説き起こされている。この日のプログラムの締めくくりであるBWV23の終曲が受難曲に由来し、また「ヨハネ」第2稿にも転用された音楽であることは(プログラムは震災前に決定していたものであるにもかかわらず)とても意義深いものに感じられた。プログラムの裏見返しには、神戸の復興を願う実際の行動としての“甦れ神戸!! 松蔭チャリティーコンサート”の開催趣旨ならびに日程等が記されている。
 しかし、演奏には少なからず不安定な要素があったように記憶している。もっとも課題の多かったのがBWV18。ソプラノの「連祷」の合間のソロの男声が頼りない。コラールなどが美しく響くだけにとても残念だった。そして後半の“カントル試験”の作品の出番となった。BWV22とBWV23の双子のカンタータは、胸に迫る祈りと悲しいまでの美しさを通じての慰めを私たちに与えてくれた。なお、演奏会冒頭には軽やかに管弦楽組曲第1番が演奏された。(この日は本当にオーボエが大活躍だった!) 最後に、鈴木雅明さんから大震災に関連したお話などが述べられたあと、BWV22の楽しげで優美な終結コラールがアンコールとして演奏されてこの印象深いコンサートは閉じられた。 (矢口)

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