現地直送!  バッハ・オルガンツアー「写真館」 in 「VIVA! BCJ」

 オルガンファン垂涎の「バッハ・オルガンツアー」、その模様を現地・ドイツから実況レポートしようと試みてきましたが、現地の通信事情などによって、結局、はじめのアイゼナハと6日目のドレスデンでしか更新できませんでした。そして帰国直後に8/21〜25の簡単なご報告と、8/26〜最終日までのルート概要をUP。しばらくたってから、そろそろ続きを、との声もいただきましたので、今回ついに最終日までの画像とコメントをUPいたしました!一応の完結です。 帰国してからいつの間にかもう一ヶ月になってしまうのですね・・・・。
 なお、文中の時間の表記はすべてドイツ現地時間。サマータイム期間中だったため、時差は日本より7時間遅くなっています。 (00/09/29更新)

2000年 8月
 ・18日(金)、・19日(土)、・20日(日)、・
21日(月)、・22日(火)、・23日(水)
 ・24日(木)、・25日(金)、・26日(土)、・27日(日)、・28日(月)


バッハの求めた美の源を訪ねて〜バッハ・オルガンツアー2000〜 
 (感想をしたためてみました。01/04/03)


  2000年 8月18日(金) 〜第1日〜



 *ルート概要:成田〜フランクフルト(14:47着)〜アイゼナッハ(19:45着)
         →《アイゼナッハ泊》


成田離陸!
11時間の空の旅です。
フランクフルトの空港で
巨匠お二人のお迎えを受ける!
「2台のバスに分乗します」
鈴木雅明さんのご説明。
左はフォーゲルさんです。
今回のツアーについて
説明中の鈴木雅明さん

  2000年 8月19日(土) 〜第2日〜



 *ルート概要:アイゼナッハ [バッハ博物館・バッハ縁の場所見学] (9:00〜11:00)
         ヴァルタースハウゼン・市教会 [オルガン鑑賞・演奏] (12:00〜14:30)
         ヴァンダースレーベン [オルガン鑑賞・演奏] (15:10〜16:30)
         グレーフェンハイン [オルガン鑑賞・演奏] (17:10〜18:30)
         →《アイゼナッハ泊》


・アイゼナッハ [バッハ博物館・バッハ縁の場所見学] (9:00〜11:00)

 二手に分かれて交互に見学。お天気はくもりから雨に。11:00、バス2台でヴァルタースハウゼンへ!
バッハ・ハウス前の
バッハ像の前で
バッハ・ハウスでのデモンストレーション演奏。
鈴木雅明さんもチェンバロを弾いてくださいました!
ヴァイオリンとトランペットの合体?!
ネックの先からマウスピースが!
バッハ・ハウスでの珍品。
アイゼナッハ
聖ゲオルグ教会の洗礼台。
バッハが洗礼を受けたもの。
聖ゲオルグ教会前で解説中の
フォーゲル先生。
アイゼナッハと言えばもうひとり。
かのルターが若かりしころ住んだ
とされる「ルター・ハウス」

・ヴァルタースハウゼン市教会 [オルガン鑑賞・演奏] (12:00〜14:30)
 (1722-35、H.G.トロストによるオルガン)

 このツアーではじめてのオルガンとの出会い。壮大さと繊細さの織りなすハーモニーの素晴らしさ。
ストリングス系に重点が置かれた楽器。北ドイツの様式とちがう一体感がある響きに感じました。
はじめにフォーゲル先生による各ストップ等の詳しい説明と演奏があり、後に試奏・練習。
このあと、ここに残り練習等をする方と他のオルガンを見学に行くメンバーに別れて行動。
明日の晩にはこのオルガンで受講生によるコンサートが開かれます! 
4階(?)からオルガン全体をのぞむ。
コンソール。
試奏、練習に奏者が殺到!
フォーゲルさんと鈴木雅明さんの説明を受け演奏中!
オルガン最上部に陣取るトランペット部隊。
天井の真上に描かれた絵。丸い建物のイメージが伝わりますでしょうか。

・ヴァンダースレーベン [オルガン鑑賞・演奏] (15:10〜16:30)
 (1724、J.G.シュレーターによるオルガン)

 見学組はフォーゲル先生と共に比較的近い地域でのオルガン巡り。 
直方体の空間の中に、抜けの良い響きが鳴り渡る。昨年修復されたばかりの楽器。 
全体像
祭壇彫刻も美しい。
詩編の物語にのっとって構成とのこと
3階からコンソールをのぞむ。  最上部のトランペット部隊。
代表で1名に大きく写ってもらいました!
入ってすぐ脇に掲げられているイエスキリスト。
木彫ですがリアルです。

グレーフェンハイン [オルガン鑑賞・演奏] (17:10〜18:30)
 (1728-31、J.C.ティーレマンによるオルガン)

 ヴァンダースレーベンと同じくらいの広さの空間だが、こちらはしなやかな響きの楽器。
きらびやかに鳴り渡るグロッケンシュピールが楽しい。
天井にはへこみがあり、絵画が描かれている。この構造も響きに関係? オルガンは奥が深い。 
2階後方からの全体
鍵盤の上の丸く並んだパイプ群の上に、横一列にグロッケンが並んでいます。
洗礼台と祭壇。
ここの教会ではオルガンが後方にありました。
天井絵の一部と、
またまたトランペット部隊。
街路から教会をのぞむ。

  2000年 8月20日(日) 〜第3日〜



 *ルート概要:トレヒテルボルン [礼拝参加、オルガン鑑賞・演奏] (9:30〜11:30)
         アルンシュタット・J.S.バッハ教会 [オルガン鑑賞・演奏、観光] (12:30〜15:20)
         オールドルフ [オールドルフ城、バッハ縁の地訪問] (16:00〜17:30)
         ヴァルタースハウゼン・市教会 [参加者によるコンサート] (19:10〜20:30)
         →《アイゼナッハ泊》


トレヒテルボルン [礼拝参加、オルガン鑑賞・演奏] (9:30〜11:30)
 (1758-67、F.フォルクラントによるオルガン)

 今日は日曜日。ここドイツでは商店などはほとんどお休みです。
我々は近くの小さな村におじゃまして、礼拝に参加させていただきました。
オルガンの奏楽はフォーゲル先生。牧師さまのお話とその合間の賛美歌。コラールの持つ意味を改めてかみしめました。
オルガンも小さいながらも美しく、しっかりした響き。礼拝のあとはオルガンの試奏もさせていただきました。
小さな村にひときわ高くそびえる尖塔は教会の目印。 3階の席から眺めたオルガン。目の前の白い枠はティンパニの演奏用のもの! オルガン最上部にはティンパニを叩く天使たち。この教会では太鼓が大切にされているようです。 礼拝中のひとこま。地元のみなさんは日本人で埋まった1階ではなく、3階にいらっしゃっていました。 礼拝後演奏された鈴木雅明さん。礼拝での即興もうかがってみたいものです。

アルンシュタット・J.S.バッハ教会 [オルガン鑑賞・演奏、観光] (12:30〜15:20)
 (1701-03、J.F.ヴェンダーによるオルガン)

 血気盛んな若きバッハが活躍した街「アルンシュタット」。
当時の新教会(現:バッハ教会)のオルガンは、今年2月に正しいプロポーションでの再建が終わったばかり。
オリジナルな部分は少ないが、様々な資料をもとに再建。
コンソール(演奏台)のオリジナルは明日訪れるエアフルトの「若き日のバッハ」展に出品中。
残響が今までの中では長め。天井は高く細長く空間も広い。しかし、音像ははっきりしている。
ほどよい残響の中、美しい音色でした。
教会全景 1階から見た
オルガン全体
3階からの
オルガンの眺め
ペダル確認中の
鈴木雅明さん
演奏中の
鈴木雅明さん
 

バッハ教会前の
広場の「バッハ像」
似ていない! との
指摘もあるが、若き
日のバッハの気概
をよく表現している。
オルガンの裏側のしくみも開いて見せてくださいました。 今日の 
トランペット奏者!?
さっそく試奏!

オールドルフ [オールドルフ城、バッハ縁の地訪問] (16:00〜17:30)

 10才のバッハが両親を亡くし、兄の元に身を寄せた「オールドルフ」。城を見学してからバッハ縁の場所を散策しました。
城と兄の勤めていた教会のあったところは歩いて数分の距離。またバッハたちが住んだ(あの、せっかくバッハが写した楽譜を兄に取り上げられた)家も、そのすぐ向かいの場所でした。
オールドルフ城の中庭にて 巨匠お二人によるガイドツアー! 地下にある、この建物の中で最も古い場所に残る洗礼台。バッハより1世紀古い! バッハの兄が勤めていた教会の跡地にて。せっかく書き写した楽譜をバッハが兄に取り上げられた時に住んでいたとされる家はこのすぐ前でした。 左記の場所にあったオブジェ。下の方には、「バッハは小川では無く、大海である」と書かれてありました。

ヴァルタースハウゼン・市教会 [参加者によるコンサート] (19:10〜20:30)
 (1722-35、H.G.トロストによるオルガン)

 昨日はじめて出会ったオルガンを使ってのコンサート。
演奏されるみなさんは、昨日の午後もずっとここで練習をされました。
13名の参加者のみなさんが、このオルガンを使って
多彩な演奏を聴かせてくださいました!
コンサート用にライティングされたトロストオルガンも
すばらしい眺めでした。

 ・・・と、ここまで各見学場所ごとにご紹介してきたのですが、まとめが追いつきません・・。そこで、次の第4日目からのレポートは“厳選の5ショット”として画像を5枚と概要をUPいたします。


  2000年 8月21日(月) 〜第4日〜



 *ルート概要:エアフルト・大聖堂、ゼヴェリ教会、プレディガー教会 [見学、「若き日のバッハ」展見学] 
         ヴァイマール
         ナウムブルク・ヴェンツェル教会 [オルガン鑑賞・演奏] 
         →《シュメルン、アルテンブルグ泊》


厳選の“5ショット!”
エアフルトの大聖堂前で全員集合!
写真をクリックすると大きくなります。
「若き日のバッハ」展が開かれているエアフルト・プレティガー教会の入り口にて。ちょうど今までまわってきたテューリンゲンでのバッハに関する資料などがたくさんあり、見応え十分でした。 展示品の解説の参考に聴けるようになっているオーディオ資料の一部にBCJの演奏が使われていました! エアフルトの大聖堂前の広場にて。フォーゲル先生のおすすめで、地元の焼きソーセージを楽しみました! ナウムブルクのヒルデブラント・オルガン。まだ修復は完成していませんが、現在使えるリュックポジティフとハウプトベルクの一部を使ってデモンストレーションしていただきました。 ナウムブルク、ヒルデブラント・オルガンのクローズアップ! この12月にいよいよ修復完成とのことです。バッハの理想のオルガンの音と目されているこの楽器の全体像を早く目の当たりにしてみたいものです。

 
  2000年 8月22日(火) 〜第5日〜



 *ルート概要:アルテンブルグ城教会 [オルガン鑑賞・演奏、城内見学] 
         ポーニッツ [オルガン鑑賞・演奏、夕食後 参加者によるコンサート] 
         →《シュメルン、アルテンブルグ泊》


厳選の“5ショット!”
アルテンブルグ城教会のオルガニスト、フリードリヒさん。テューリンゲン地方ではこのアルテンブルグ城教会のように、教会と領主のつながりが強いことが教会音楽を盛んにしたそうです。 アルテンブルグ城教会のオルガンは祭壇に向かって左側にありました。1739年9月、トロストによるこのオルガンをバッハが演奏したそうです。 ポーニッツのオルガンはこの旅ではじめて出会うジルバーマン・オルガンです。 ザクセン地方の人であるジルバーマンは、東のテューリンゲンとはまったく違う美的価値観でまったく違う響きを作り出しました。
ジルバーマンオルガンは、何かのスタイルに典型的に属しているということのない“時を超えたスタイル”を持っている。それゆえ高く評価され、オリジナルの状態で多くの楽器が残されている。

 
  2000年 8月23日(水) 〜第6日〜


 *ルート概要:ラングヘンナースドルフ [オルガン鑑賞・演奏] 
         フライベルク・大聖堂(大オルガン、小オルガン)、ペトリ教会 [オルガン鑑賞・演奏] 
         ドレスデン [旧市街見学・自由行動、コンサート鑑賞]
         →《ドレスデン泊》

 
厳選の“5ショット!”
ラングヘンナースドルフのオルガンは、ジルバーマンの弟子、ヒルデブラントの“卒業試験”作品。気品のある華やかな響きでした。 フライベルクの大聖堂(ドーム) 写真右上の方にジルバーマン作の小オルガンが見える。オルガニストのワーグナー氏の解説と演奏をうかがいました。 同じくジルバーマン作のドームの大オルガン。中部ドイツの要素と、フランスのスタイルを融合した、ジルバーマン・オルガンの代表作。 ドームから歩いてすぐのペトリ教会にもジルバーマンの楽器が。ドームの楽器製作から20年後、熟達のジルバーマンによる絶品。 ザクセンの中心都市・ドレスデンでは、夕食のあと、私たちのためにリーダー・アーベントを催していただきました。ここは第二次世界大戦の爆撃で壊された教会のあったところだそうです。(現在オルガンも含めて再建中とのこと。)

  2000年 8月24日(木) 〜第7日〜



 *ルート概要:ライプツィヒ・聖トーマス教会 [オルガン鑑賞・演奏]、バッハ博物館等見学
         レータ・マリア教会、ゲオルゲン教会 [オルガン鑑賞・参加者コンサート] 
         →《ライプツィヒ泊》


厳選の“10ショット!”
あのショルツェ博士から、バッハに関する最新資料のお話をうかがいました! まさに聖地、ライプチィヒ・聖トーマス教会! 「お約束」の
バッハのお墓
トーマス教会の
新バッハ・オルガン。
フォーゲル先生による演奏。
レータ・
マリア教会
参加者コンサート・第一部。ジルバーマン・オルガンです。一段鍵盤でバスもズブバスのみの“ミニマム”なオルガンでしたがすばらしい響きでした。 レータ・
ゲオルゲン教会
参加者コンサート・第二部。ジルバーマンとヒルデブラントの共同作業になるオルガンです。典型的なジルバーマン・オルガンとのことでした。 コンソールの様子です。

  2000年 8月25日(金) 〜第8日〜



 *ルート概要:グラウホーフ・クロスター教会 [オルガン鑑賞・演奏]
         シュターデ・ヴィルハーディ教会 [オルガン鑑賞・演奏] 
         →《シュターデ泊》


厳選の“5ショット!”
グラウホーフ・クロスター教会のトロイトマンオルガン。
中部ドイツと北ドイツの様式が混じりあった、重要なオルガン。
クロスター教会外観 シュターデ・ヴィルハーディ教会 ヴィルハーディ教会のオルガン。シュニットガーの弟子のビールフェルトによるものです。 試奏する
鈴木雅明さん

  2000年 8月26日(土) 〜第9日〜



 *ルート概要:シュターデ・コスマエ教会 [オルガン鑑賞(希望者のみ)]
         リューネブルク・ミヒャエリス教会 [見学]、
                   ヨハニス教会 [オルガンコンサート(鈴木雅明)鑑賞]
         リューベック・ヤコビ教会 [オルガン鑑賞・演奏]、マリア教会等見学(希望者)
         →《リューベック泊》


厳選の“6ショット!”
シュターデ・コスマエ教会の外観。この日の夜、ここでフォーゲル先生がコンサートを開かれました。 コスマエ教会のアルプ・シュニットガー・オルガン。17世紀の楽器。朝7時からのフォーゲル先生のリハーサルを見学させていただきました。 若きバッハが滞在した街・リューベック。
奥に見える尖塔がヨハニス教会です。
16世紀に起源を持つヨハニス教会のオルガン。バッハ滞在当時のルネサンス様式の雰囲気を残している。鈴木雅明さんによるオルガンコンサートを鑑賞。 シュターデでのコンサートにむかったフォーゲル先生と別れ我々はブクステフーデの街・リューベックへ。ヤコビ教会側壁に位置する15世紀に起源を持つ小オルガンのコンサートを鑑賞。 コンサート後、鈴木雅明さんによるデモンストレーション&演奏。このあと夕食の時間まで、ブクステフーデ縁のマリア教会を訪ねることもできました。

  2000年 8月27日(日) 〜第10日〜



 *ルート概要:ハンブルク・ヤコビ教会 [礼拝参加、オルガン鑑賞・演奏、参加者コンサート]
         →《ハンブルグ泊》


厳選の“5ショット!”
ハンブルグ・ヤコビ教会の外観。ここで再び日曜日のミサに参加させていただきました! 16世紀終わりに起源をもつアルプ・シュニットガー・オルガン。90年代に入り、アーレント氏により修復。 オルガンの真後ろにある
「ふいご」の部屋です!
「ふいご」部屋=シュニットガーザールで開かれた、エーテボリでオルガンの研究をなさっている横田先生のレクチャー。このあと、参加者コンサートで18人が熱演。しめは長谷川美保さんの演奏でした。 ホテルに帰って
“最後の晩餐”?
左はフォーゲルご夫妻。
中央が鈴木雅明ご夫妻です。
お疲れさまでした!

  2000年 8月28日(月) 〜第11日〜



 *ルート概要:ハンブルク〜フランクフルト〜成田 (8/29)
          *お疲れさまでした!


厳選の“5ショット!”
別れの朝、タクシーに分乗してハンブルグ空港へ。鈴木雅明さんのお見送りを受ける。 ハンブルグ空港内部 ハンブルグ〜フランクフルトの機上より。 フランクフルト空港に無事到着。 この飛行機で一路日本へ!
すばらしい旅をありがとうございました。

(00/09/29)

バッハの求めた美の源を訪ねて
〜バッハ・オルガンツアー2000〜
                                
矢口 真 
 
 バッハ没後250年の昨年、私はついにバッハ縁の地を訪れることができた。旅は当時の響きを取り戻したバッハ縁のオルガンを訪ねるもので、しかも全行程、鈴木雅明さんH.フォーゲル氏という歴史的オルガンの演奏と研究においては右に出るもののいないお二人が同行してくださるという豪華版。さらに一般にはまず立ち入ることのできないオルガンの演奏台にまで上がれ、希望すれば試奏もできるという、バッハ・ファン、オルガン・ファン垂涎の旅であった。この夢のような企画に、実際にオルガン演奏に携わっていらっしゃる方から私のような愛好家まで多くの参加者が集まり、50名を越える大所帯での旅となった。同行してくださった添乗員さんや現地でのスタッフのみなさんの献身的なサポートのおかげで、参加した私たちが何ものにも代え難い素晴らしい体験をすることができたことに心からの感謝を捧げたい。

 この旅で私が得た最大のものは何であったのか。今振り返ってみると、それは、バッハが生きそこであの素晴らしい音楽の数々を生み出した現場に立てたという喜びであると同時に、いみじくもツアー最終日のパーティーの席で鈴木雅明さんがお話くださった“バッハの美意識のルーツを探り、それを共有することができた”ことの喜びであると思う。

 旅はバッハのふるさと、テューリンゲン地方から始まった。生地アイゼナッハを拠点として近くに点在するそれぞれに個性的なオルガンたちを訪ねたはじめの数日間で、すでにそれまで持っていた「バッハのオルガン」の響きのイメージが大きく変わった。それは何と暖かく懐の深い響きであったことか。最初の参加者コンサートが行われたヴァルタースハウゼントロストの手になるオルガンのふくよかな響き。幼いバッハの響きの体験はここから始まったのかと感慨にふけった。
 やがて旅は東のザクセン地方に向かう。ポーニッツでこの旅で初めて味わったジルバーマン・オルガンの響きには驚いた。その響きの強さはそれまでのテューリンゲンの楽器には無いものだった。フライベルクでジルバーマンの傑作を続けて訪ねるため、街中を鈴木雅明さんと歩きながらうかがったお話が忘れられない。「BCJで音楽をつくる時、器楽でも合唱でも、私はいつもこうした歴史的なオルガンの響きに聴かれる音を目指しているんですよ。」バッハの美意識の源泉を訪ねる旅が、BCJの音楽の美の秘密に迫る旅でもあったのだ、と感激した。
 旅はバッハの街ライプツィヒを経て最後に北に向かい、リューネブルクリューベック北ドイツのオルガンのひんやりとした中にも芯のある響きを堪能してから、ハンブルクシュニットガー・オルガンでの参加者コンサートで幕を閉じた。それは、旅の参加者全員が同じ美を味わった瞬間ではなかったかと思う。

 今回の旅は、バッハの生涯をたどりながら、その時々にバッハが耳にし、憧れ、そして目指した響きを体験する旅だった。バッハの音楽に触れるごとに、あの響きの数々を反芻する幸せを今味わっている。

 最後にもう一言。ジルバーマンの弟子であるヒルデブラントナウムブルクに造ったオルガンの修復完成後の響きを是非聴きたい。我々の旅の時は修復が完成する直前で、ほんの一部のパイプの響きしか耳にすることができなかったが、それだけでも魅了された素晴らしい楽器である。バッハ自身がジルバーマンとともに鑑定し絶賛したそのオルガンにこそ、やさしさと力強さを兼ね備えたバッハの理想の響きがきっとあるに違いない。

(01/03/25:「BCJ神戸公演後援会会報」No.3より転載、01/04/03UP)

*そのナウムブルクにももちろん立ち寄る「バッハ・オルガン・ツアー2001」が企画されています。
   (↑ナウムブルグ市のHPにリンクしています。オルガンの音も聴ける?!)
  ・ツアーの詳細こちらをご覧ください! もはや、早いもの勝ち状態?!  
(01/04/03)

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