「Classic CD」誌(英) September '98 Issueより - The month's best new discs |
ブクステフーデ
《われらがイエスの四肢》 (1680年)
鈴木雅明 指揮 バッハ・コレギウム・ジャパン&コンソート・オヴ・ヴァイオルス・チェリス
BIS CD 871 58:36 DDD
ブクステフーデの最もよく知られた作品《われらがイエスの四肢》はドイツ・バロック音楽の至宝だが、ついにこの作品の無類の美しさに光彩を添えるディスクが、バッハ・コレギウム・ジャパンの思慮深く、かつ熱のこもった素晴らしい演奏で登場した。
《われらがイエスの四肢》は7つの連作カンタータであり、器楽によるコンチェルトで始まるそれぞれのカンタータは、磔となったイエスへの「ラヴ・ソング」であり、その足、膝、脇腹、手、心、顔に対する愛を冥想的に歌ってゆく。バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏は、情熱的で痛切、深い宗教心に満ちた芸術であり、この演奏に欠点を見出すことはむずかしい。この時代の宗教音楽に本来備わるべき頭と心のバランスがこの演奏では完璧なのだ。合唱の音色は清澄かつ豊か、ドイツ式に発音されたラテン語のディクションも正確である。またテクストは豊かに彩られて、響き渡るソリストたちの純粋な声も一様に優れている。
また弦楽器(ヴィオルとヴァイオリン)とコンティヌオ陣も素晴らしく、完璧な音程、アンサンブルのセンス、吟味された装飾、そして活き活きとしたスタイルで演奏している。もし不平があるとしたら、ダイナミック・レンジの幅がわずかに抑えられぎみであることだろう。また鈴木雅明の細部に渡る厳しい配慮と想像力に富んだ言葉の描写力には確かに喜びを覚えるのだが、ハーモニーがより過激ないくつかのコンチェルトでは、ワイルドなムジカ・アンティクァ・ケルン・スタイルを期待してしまう。しかし最近リリースされたヨーロッパ人によるブクステフーデ演奏が押し並べて欲求不満の残る出来だったことを考えれば、このレコーディングはなおさら注目すべきものだ。
総じて感動深い満足のいくディスクであり、これはこの原稿の締め切り後も、長く私のCDプレイヤーの側に置かれることになるだろう。
Gorgeous.
・☆☆☆☆☆・・・演奏、録音ともに五つ星(最高点)
・荘厳、情熱的かつ優雅な演奏で、比較できるディスクはない。
「Gramophone」誌(英) September 1998 Issueより |
ブクステフーデ《われらがイエスの四肢》BuxWV75
鈴木雅明 指揮 バッハ・コレギウム・ジャパン
BIS CD871(59分:DDD)テクスト・訳含む
比較:
ガーディナー(アルヒーフ)447 298-22AMA
ヤーコプス(ハルモニア・ムンディ)HMC90 1333
ファソリス(11/97)(NAXOS)8 553787
コープマン(エラート)2292-45295-2
ブクステフーデの《われらがイエスの四肢》は7つの連作カンタータであり、曲名が示しているように、それぞれのカンタータは、十字架にかけられたイエス・キリストの身体の、それぞれの部位への語りかけとなっている。各カンタータとも、バッハ以前の北ドイツのカンタータの典型的な構成にならって、器楽による簡潔な導入の「ソナタ」、声楽アンサンブルによる「コンチェルト(合唱)」、独唱によるコントラスト豊かなアリアが続き、再び合唱の「コンチェルト」を繰り返して閉じられる。ブクステフーデの巧みかつ感動的な書法には、偶然や成り行きにまかせた部分などは全く、感情を揺すぶるテクスト、それを描写するブクステフーデの完璧な表現力、そして各カンタータのテーマが互いに複雑に絡み合って、絶妙な統一体を成している。
ブクステフーデの《われらがイエスの四肢》は、ここ数年グラモフォンの『データベース』を頻繁に賑わせていて、これまで4枚の競合盤が出ている。そこに鈴木雅明とバッハ・コレギウム・ジャパンによる感動的な新盤が加わった。実際、アンサンブルの妙技と厳かな表現力ではこのディスクが最も説得力に富んでいると思う。しかし私の好みでは、(録音の)響きすぎる残響のせいで、この深く作品の本質に感じ入った解釈を聴く喜びも少々感興を削がれてしまうように思われるのだ。私がこのチャペルで演奏の場に立ち会っていればその場の雰囲気も味わえて、また違った感じ方をするのかもしれないが、CDで聴く限りにておいては、私はもっとディテール(特に弦)を聴きたい。しかしいずれせよ、この演奏者たちが、この珠玉の作品の持つ優しくも苦悶に満ちた情緒と力を表現するだけのテクニックと感性と持っていることは間違いない。もっともこの録音の問題に苦しめられるのは曲を熟知している人だけで、私ほどには気にならない聴き手もいるだろう。独唱陣は一様に素晴らしく、そのアンサンブルには衝撃を覚える瞬間もある。例えば、第2のカンタータを締めくくる
“Ad ubera portabimini 汝らはその胸に抱かれて”での清澄で完璧なバランスのとれた各声部の絡み合いを聴く時などだ。
読者の皆さんはNAXOSの最新盤かエラートのトン・コープマンの再発盤をと考えるかもしれないが、録音の問題を置いても、私はこのバッハ・コレギウム・ジャパン盤を一番にお勧めしたいと思う。
読売新聞 「DISK情報(クラシック)」 ('98.11.19夕刊) より |
ブクステフーデ連作カンタータ「われらがイエスの四肢」
鈴木雅明指揮バッハ・コレギウム・ジャパンがドイツ・バロックの精緻な美しさをぜいたくに聴かせてくれる。
・・・日本が世界に誇れる古楽の演奏である。(BIS、2718円)
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