BCJ“CD批評集”    J.S.バッハ《クリスマス・オラトリオ》」

BBC Music(英) 1999年2月号 レビュー:声楽部門 より

J.S.バッハ
《クリスマス・オラトリオ》 BWV248

鈴木雅明 指揮 バッハ・コレギウム・ジャパン
BIS CD941/2(2ディスク)


Reviews Editor's Choice(批評欄責任者の特選) 

Kings from the East 「東洋からの王たち」

「バッハのカンタータ全曲演奏で好評を得ている日本人主体の団体が、クリスマス・オラトリオで勝利を収める」Barry Millington


 ここ数年BISで進められている「日本人によるバッハ」のカンカータ・シリーズは、ますます熱烈な評価を得てきており、実際それに値するものである。バッハ・コレギウム・ジャパンは、1990年に鈴木雅明により結成されたが、彼は以前に、アムステルダムでトン・コープマンとピート・ケーに師事した。そのコープマンらの面々に対して、いまや鈴木は、自身のバッハ解釈をもとに、声楽と器楽の両面で、ありうる限りの高い水準と、様式についてのまったき確信とをもって、挑みつつある。
 クリスマス・オラトリオのこの新録音は、今までの彼らの録音でも最良のもののひとつである。合唱は柔軟で、非のうちどころがなく、オーケストラはイディオムの扱いと正確さの点で聴き手をたじろがせんばかりである(オーボエトランペットのようになかなか扱いにくい時代楽器も、ライバル盤と比べてむしろ出来が良いくらいである)。独唱歌手も、どの競合盤とも対等に渡り合っている。
 数ある優秀盤の中で考慮に入れてよいのは、直近のものでは、唯一、ルネ・ヤーコプス盤だけである(その他やや古いものには、アルヒーフのガーディナー盤、コリンズのシクスティーン盤、エラートのコープマン盤がある)。しかし、ヤーコプスのテンポは(鈴木盤同様に)おおむね速いのだが、例えば第2部冒頭のシンフォニアでは、特有のゆったりした世界に浸りきってしまっている。ここでは鈴木の弾むようなリズムのほうがはるかに自然に聴こえるのである。
 鈴木が独自の感性を顕すのは、むしろカウンターテナーの米良美一の扱い方である。私は、まさかヤーコプス盤でのアンドレアス・ショルを凌ぐとは思っていなかったが、ほとんど子供のようで、思いを吐露するような米良の歌いぶりには、きわめて個性的な資質がある。これを受け入れられない人もいるだろうが、表現豊かであることは否定できない。モニカ・フリンマーのボーイッシュなソプラノもまた好みの問題だろうが、ゲルト・テュルクペーター・コーイは、テノールとバスのソロとして、問題なく薦められる。

演奏: ***** 
音質: ***** 
比較盤:ヤーコプス盤(ハルモニア・ムンディHMC901630-31)

(評者: Barry Millington)
(訳:Marlone様/BCJ事務局)
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(99/04/11)

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