BCJ“CD批評集”    「バッハ・カンタータ 第5集」

「Gramophone」誌(英) January 1998 Issueより
Critics' Choice
Gramophone Award '98 nomination

『バッハ・カンタータ第5集』
第18番「あたかも雨や雪が天から下り」
第143番「主を賛美せよ、私の魂よ」
第152番「出て立て、信仰の道に」
第155番「わが神よ、いつまで、ああいつまでか」
第161番「来たれ、汝甘き死の時よ」

鈴木雅明指揮/バッハ・コレギウム・ジャパン
鈴木美登里,イングリット・シュミットヒューゼン(ソプラノ)、米良美一(アルト)、
桜田亮(テノール)、ペーター・コーイ(バス)
BIS CD841(78分:DDD)テクスト・訳含む 協賛NEC


バッハ・コレギウム・ジャパンによる「バッハ:教会カンタータ第5集」では、引き続きワイマール時代の1713年から1716年に作曲された5作品を取り上げている。この時期バッハはワイマール宮廷に楽師長(コンツェルトマイスター)として在職しており、ザクセン・ワイマール公の教会、つまりヒンメルスブルク教会で毎月新しいカンタータを演奏することを命ぜられていた。
今回のディスクは、ワイマール稿で演奏された《あたかも雨や雪が天から下り》(BWV18)から始まる。バッハは後にこの曲をライプツィヒでも再演しているが、その際初稿では弦楽器のみだった上音部に2本のリコーダーを加えている。《出で立て、信仰の道へ》(BWV152)の編成はより変化に富んでおり、第1楽章のシンフォニアではヴィオラ・ダモーレ、ヴィオラ・ダ・ガンバ、オーボエ、リコーダーが用いられている。《わが神よ、いつまで、ああいつまでか》(BWV155)の「聴きもの」は、ファゴット・オブリガート付きの、憂いを帯びた(メランコリックな)アルト・テノール二重唱だ。声楽パートが嘆きの性格を呈示しているところに、素晴らしく技巧的なファゴット独奏がアルペジオで魅惑的な第三の声部を与えている。ブックレットの曲目解説はこの個所で混乱しており、実際にはこの作品で一切登場することのない、ソロ・オーボエの重要性を力説している。(【訳注】参照)
《来たれ、汝甘き死の時よ》(BWV161)は美しい作品で、2本のリコーダー、オブリガート・オルガン、弦楽器とコンティヌオという編成で書かれている。《主を賛美せよ、私の魂よ》(BWV143)は、バッハの真作かどうかしばしば疑問視されてきた作品だが、実際非バッハ的な点が多いにもかかわらず、例えばテノールのアリア“Tausendfaches Unglueck(千々の不幸)”のようなところを聴いてしまうと、他の作曲家の手によるものとは到底思えない
この演奏は、私の耳には、比類なく素晴らしく聴こえる鈴木雅明の指揮は確固としており、ソリスト達はシリーズを追うごとにますます実力をつけてきている鈴木美登里は、美しく落ち着いた歌唱と、水晶のように清澄な声、そしてその高音域で―ごく稀ではあるが、例えば彼女のへ長調のアリア“Mein Seelenschatz私の魂の宝は神の御言葉”(第18番)でのように、時折危く思わせるところはあるのだが―、賞賛に値する貢献をしている米良美一は、彼が以前に参加したこのシリーズの2枚のディスク(第2巻・96年6月と第3巻・96年11月)とくらべ、さらに力を付けたようだ。米良と桜田亮は、哀愁漂う第155番の二重唱で絶妙なバランスを保っており、そこに清澄なファゴットの演奏が加わって、この三重唱が目を見張るほど美しいものになっているペーター・コーイは、ある時は「力強さ」の象徴であり、イエスと魂の舞曲風の二重唱(152番)では、鈴木美登里と息の合ったパートナーを務め、また同じカンタータからのアリアでは、実に朗々として確信に満ちた歌いぶりを披露している。しかし今回の最高の賛辞は、第161番を歌う米良と桜田に捧げよう。それはまことに感動的な演奏であり、米良と桜田はこの崇高なカンタータの音楽とテクストをすみずみまで理解し、また深く感じて演奏している様が見て取れるのだ。
端的に言って、この才能溢れるグループによる見事な勝利録音はいつも通り実に見事で、またブックレットも、前述のような混乱もあるが、労を惜しまない、得る所の多い内容だ。
A remarkable achievement.

(執筆:NA[Nicholas Anderson])

【訳注】 この混乱は磯山先生の解説を英訳する際、"Fagott"または"Fagottist"が誤って"Oboe"または"Oboist"と訳されていた点を私たちが見過ごしたことに起因します。ブックレットの英文(P.7左、15、22、23行目)、ドイツ語訳(P.13、22,29,30行目)、フランス語訳(P.19,左側最下段、右側7,8行目)のそれぞれ"Oboe"にあたる単語は"Fagott"の誤りです。ここに慎んでお詫び申し上げます。(BCJ事務局)

(訳:BCJ事務局)
*文中の太字表記は、当ホーム・ページの制作者によるものです。
(98/08/22)

VIVA! BCJに戻る