階段            ヘルマン・ヘッセ


  花がみなしぼみ、青春が老年に道をゆずるように、
  どのような人生の階段も、
  どのような知恵も どのような徳も
  その時々に花を開くのであって 永続は許されない。
  こころは、どのような人生の呼びかけにもこたえられるように
  別れと新しいはじまりへの用意をしていなくてはならない、 
   勇敢に、悲しむことなく
   別な、新しいきずなに身をゆだねるために。
  およそ 事のはじめには不思議な力が宿っている、       
   それが われわれを守り、生きることを助けてくれる。

  われわれは 朗らかに 次々と通りぬけていかなければならない、
  どの場所にも 故郷に対するような執着を持ってはならない、
   世界の精神は われわれをとらえようとも狭めようともせず、
   われわれを一段一段高め、広めようとしているのだ。
  われわれが ある生活圏に根をおろし
  居心地よく住みついてしまうやいなや、弾力が失われてしまう、
   ただ 出発と旅の用意のできている者だけが、
   習慣の麻痺作用から身をふりほどくことができるのだ。

  おそらく 死を迎える時においても なお     
  われわれを 新しい場所に 若々しく送ってくれるであろう、
   われわれへの生の呼びかけは けっして終りはしないのだ ...
  さあ よし、こころよ、 別れを告げ すこやかになれ!

「Stufen」《『ガラス玉遊戯』1943年》)

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