blanc 10 for lovers 02 「少しでも思い出してくれた? 七条ver.」





 啓太の恋人は啓太自身が知らないうちに、いつのまにか啓太の情報を入手していたりする。
 たとえば実家の最寄り駅だとか、週末の予定だとか。
 その日の授業で苦手な英語の課題が出たとか、漢字の書き取り小テストが明日に控えているとか。
 だから。

「誕生日も、知ってそうなんだけど・・・」

 ほう、とせつなく息をつくのと同時に、時計の日付を示すデジタルの表示が切り替わった。
 5月5日。
 真夜中のちょうど0時。

 その瞬間。

 ふ、と。
 時間かっちりに部屋の電気が消える。

「? あれ・・・・停電かな?」

 周囲の様子を確かめようと窓際に歩み寄る、と。
 なんだか木立の向こうに見せる学園の校舎のが明るい。

 あれ、停電じゃないのかな? と不思議に思いながら何気なく眺めた明かりは。
 どうやら意味のある形を取っている。
 ますますあれれと思って、ぼんやりしていた頭がゆっくり稼動するうちに。

「え」

 校舎全面の窓に、ぺかぺかと電飾の文字が「Happy Birthday☆」と輝いていることに気が付いた。

「・・・・、ええ、と」

 戸惑ううちにもう一度、一気に明かりがぱっと消えた。
 そうしてさして間を置かずに、今度は左端のほうにぺかりと1本の縦線が浮く。

「?」

 困惑しながら眺めていると、どうやらそれは縦線ではなく文字だったらしい。
「I(アイ)」だということに、2文字目の「L」が浮かび上がった時点で気が付いた。
 続いてゆっくりと一文字ずつ、ぺか、ぺか、と明かりがついていく。

「I・L・O・V・・・・・・・・っ、・・ま、さかっ!」

 予測できる英文が使うであろう空間は、空白を含めてあと5文字。
 けれどもその5文字分が埋まっても、そのあとにもうあと5文字くらいは入りそうな余裕がある。

「・・・・・、・・・っ」

 5文字って5文字ってまさか。

 目を回しそうになりながら、考えたくはないが考えなくてはならない必然に迫られて。
 啓太は右手の親指から順に指折って、心当たりの単語の数を数えてみる。

 ・・・・K・E・I・T・・・・・・・・・・・・。

 5文字目の小指を折れずにぷるぷるとしばらく震えた後で、深夜にもかかわらず啓太は思わず絶叫した。



「わ、わ―っ! だから七条さん名前は入れなくていいですってあれほど―っ!!!」



 伊藤啓太、今年の誕生日に真っ先にしたことは。
 半泣きで喚きながら、寮の廊下を真剣ダッシュ。







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