poco a poco Op.13いつかの、東屋で眠る西園寺の肩に自分のブレザーを掛けていた指先が、コートを着せ掛けていた大きな手のひらが。 そうして、郁、と。優しく名前を呼んでいた声が。 今は、啓太だけに向けられている。 触れて感じる温もりだけじゃない。 気持ちまで、すべてが・・・。 溶かされ、柔らかく綻んで七条の長い人差し指と中指を深くまで飲み込んでいるそこが。 指の動きに合わせてくちゅくちゅと淫猥な水音を立てる。 震えずにはいられない繊細な部分はとっくに見つかってしまっていて。 あやすように、焦らすように、そこを指先が優しくたどるそのたび、啓太は堪えられず身を捩って幾度も嬌声を上げた。 「上手に、飲み込めるようになりましたね・・・」 時間をかけてゆっくりと慣らされて敏感になってしまった粘膜は、七条の指の節の感じや些細な動きまでを感じ取ってしまう。 恥ずかしさと、鋭りすぎている感覚のせいで涙のとまらない目許を、キスで辿りながら優しい声が囁いて。 「・・・・・ふ・・っ・・・・ぁ・・」 ようやくゆっくりと指が抜き出されると、圧迫感から開放されてほっとする気持ちと、なにか落ち着かないもどかしい気持ちが身のうちでせめぎあう。 覚えのない感覚に戸惑って、啓太は不安そうに身を震わせた。 「啓太くん・・・」 愛しげに名前を呼ぶその声に。頬に、くちびるに、優しく与えられるついばむキスに。 啓太はほうっと深い息をついて、ゆっくりとまた躰の緊張を解いていく。 今、自分の身に施されていることを追うだけでも精一杯で。 なんのためにこうされているのかなんて、考える余裕はどこにもない。 息を喘がせながら啓太は、すがるような眼差しを七条に向けるばかりだ。 「力を抜いて・・・」 可愛らしいくるぶし、膝、柔らかな内腿にキスを落としながら。 力の抜けてしまっている両の膝裏に掛かった七条の手が、ゆっくりと啓太の足を押し開いていく。 「・・・・っ、ゃ・・あ・・・・っ」 その奥にひっそりと息づく蕾を優しい力で暴かれて、その瞳の前に晒されて。 自分でさえも見たこともないような恥ずかしい場所に、熱を帯びたアメジストの眼差しが注がれるのを感じて。 啓太はぎゅっと目を瞑って、羞恥に息を詰まらせる。 「大丈夫・・・とても可愛いですよ」 けれども笑みでそう告げる七条は、とても愛おしげに、ひくつくその蕾に唇を寄せる。 キスで、舌先で、触れて。 すっかりやわらかく溶けているそこを優しく愛撫して、たっぷりと潤したあと、ゆっくりと身体を倒して啓太に伸し掛かる。 同性同士の行為がどういうものかなんて、啓太が知らなくても不思議はないけれど。 説明をすればきっと、身構えさせてしまう。 こうしてすべてを預けてくれている柔軟な躰に、直接に教えたほうが啓太にとっても辛くないだろう。 ただでさえ細い腰だ。 身構えて、緊張してしまっていては、七条を受け入れるのはきっと難しい。 「啓太くん・・・ゆっくり、息を吐いて・・・」 「・・は、ぃ・・・・っ」 細く答えて、けれども頷くばかりで上手く息がつげない啓太の気負いを散らすように、優しいキスが幾つも、目許を、鼻先を、くちびるをついばんでいく。 「大丈夫・・・大丈夫ですよ。きみに触れているのは僕です」 肩口に、胸許に、首筋にも散らされるキスに。 「辛い想いなんて、もうさせません・・・」 「・・・・、ぉ、みさ・・っ」 とろとろにとろけてしまっている意識の中で、告げられる意味を理解できたのかどうか。 耳朶をくすぐる吐息に、甘いささやきに、ひくりと小さく啓太の肩が跳ねて。 そうしてせつなげな表情が懊悩にとけて、ようやく、ほうっと深く息をついた。 その瞬間。 「・・・っ、ぁ・・・・・っ・・・!」 やわらかく熔けた蕾を割り開いて、灼熱が内側へ。 ずくり、と。侵入する。 「・・・ぁ・・・・っ、・・ん・・・ぁあっ!」 そのあまりの衝撃に啓太は、すがっている七条の腕に思わず爪を立てる。 充分に時間を掛けて慣らされたそこが、痛みを感じることはなかったけれど。 経験をしたことのない圧迫感に自分でも知らないような深みを押し開かれて、塗り替えられていくような。 大きすぎる変化に、恐怖に、すくんでしまいそうになる。 けれどもいっぱいに伸ばした腕を、大きな背に回してしがみつけば。 同じだけ強い力で、七条がしっかりと抱きしめてくれる。 「啓太くん・・・っ」 重なる胸の速い鼓動が。 自分のものなのか、それとも七条のものなのか。 分からないくらいに溶けて、ひとつになって。 「きみが慣れるまで、こうしていますから」 告げる七条の声は、息をひそめるようで、熱く掠れている。 啓太のために、欲を抑えてくれているのが分かって。 「・・・しちじょ、さ・・・」 「はい」 「っ・・・・・、おみ、さん・・・・っ」 「ええ、ここにいます」 ここに、と。 背に回された両腕が、啓太を強く抱く。 その身動きに合わせて、身のうち深くに受け入れた七条の灼熱が、ざわりと僅かに啓太の柔らかな内壁を撫でた。 「・・・・っ・・ぁ・・」 意図せず与えられた刺激。そこから生まれた得体の知れない感覚。 それを感じた瞬間啓太は、躰の内側・・・深いところに、七条の鼓動を意識する。 恥ずかしさと、嬉しさと、なにかもっと別のいろいろな想いとが混ざり合って。 大きすぎる感情の波に引きずられそうになるけれど、抱きしめる強い腕が、啓太が一人ではないことを教えてくれる。 「・・・・ふ、・・っ・・・・・ぁ」 そろそろと息を紡ぐたびに、柔らかく深い部分が七条の熱に馴染んでいく。 少しだけ呼吸が楽になって・・・けれどもこうして受け入れて、それで終わりではないことくらいは啓太にも分かって。 こんなにもすごい体験をしてしまったのだから、きっともうこれ以上に驚くようなことなんかないはずだから、と。 啓太は自分を励ましながら、かすれてしまいそうな声で、七条を呼んだ。 「おみさん・・・っ」 「啓太くん、大丈夫ですか?」 「っ、平気・・・です・・・っ、俺」 「・・・動いても?」 「・・・っ、はい・・・っ」 瞳に映っている七条の表情を、告げられる言葉を、認識できているのかどうか。 すっかり濡れて潤んでしまっている啓太の瞳を、まっすぐに見下ろして。 七条は汗に濡れた啓太の前髪をするりと梳いて、その額にキスで触れる。 そうして。 「啓太くん・・・っ」 「ゃ・・・ぁ、・・・―――――っ」 耳朶に直接注がれた囁きと同時に、深く埋められた灼熱が、更に深く敏感な奥深い部分を突き上げる。 その衝撃にわなないて、無意識に逃れる動きをする腰を、許さずに深く抱きしめて。 一度、ゆっくりと抜き出すぎりぎりまで引かれたそれが。 「・・・、ぁ・・あっ・・・・・、・・ゃ・・・ぁあっ」 まだ抉られた刺激に震えている内壁を、なだめるように、愛おしむように、もう一度深くまで擦り上げて。 きつく閉ざされた狭い粘膜を押し開くように、辛抱強く続けられるゆっくりとした求愛のリズム。 繰り返されるたび熱を増して、激しさを増していく注挿に。 啓太の躰も、少しずつ、馴染んで。 「・・ぁ・・・っ、ん・・・・あっ・・・あっ・・・」 綻んで、閉じることのできない口許からこぼれる声が。 甘く、とろけるような喘ぎに変わっていく。 「・・・いい子ですね、啓太くん・・・こちらも、ほら・・・」 悦楽の蜜を零しながら二人の身体の間で揺れる啓太自身。 その熱を手のひらに包み込んで、腰を穿つ動きに合わせて扱き上げれば。 「・・・あっ・・、ん・・・ゃ、・・も・・・・っ」 せつなそうに顔をしかめながら啓太はふるふるとかむりを振って。 力の入らない指先で七条の背にすがりながら、深く受け入れた七条をきつくきつく締め付ける。 「・・・っ、啓太くん・・・愛していますよ・・・」 僅かに顔を歪めて、衝動を堪えながら。 熱い息を漏らして七条が、溢れる言葉と一緒にキスを落とす。 「君だけです・・・特別に、想うのは・・・愛しているのは・・・っ」 向けられる、剥き出しの欲。素の表情。 求められているその想いの強さに、心が震えて。 「っ、ぁ・・っ・・・・臣、さ・・・・・っ・・・おれ、も・・・・っ」 引いては押し寄せる波のように。 与えられるたび嵩を増して、紡がれる快感の。 ひときわ大きな受け止めきれないほどの波に。 「・・っ、・・・ぁ、・・・・――――・・・っ」 ゆわりと歪んだ視界にうつるのは、大好きな大好きな・・・。 |