「それだけ言えりゃあ、上等だ」
皮肉げにニヤリと笑って薫さんは身を引いて、あなたの背後を指差して言いました。
「あっち、どうにかしなよ」
振り返ると、割れたグラスの破片が毛足の長い絨毯に飛び散ってキラキラしていました。一瞬きれいですが危ないです。
あなたは薫さんが行ってしまったことを残念無念に思いながらも、跪いてグラスの割れた破片を拾おうと手を伸ばしました。が、それを誰かの手が遮りました。
「素手じゃ、危ないよ」
その声に顔を上げたあなたの至近距離で揺れるボリゥムたっぷりの黒髪、シャンデリアの明かりを映してきらめく神秘的(!)な瞳。和矢君です。
「怪我しちゃうだろ」
手首をやさしく掴まれて、あなたの脈は大暴走。正面きって見られてしまった日にゃぁ、不整脈おこして薫さんの仲間入りです。そうして固まったまま、1秒、2秒。
「オレが持って行こうか?」
「え?」
「見つかったら、叱られるだろ」