Harmonica virtuoso |
残されたレコードを追う限り、テネシーやアラバマはハモニカ芸人の宝庫。それに比べてテキサスには殆どハモニカの伝統がなかったかのように捉えられがち。しかし、そのテキサスにおける唯一のハモニカ芸の記録であるWILLIAM McCOYの録音を聴けば、テキサスの地にエキセントリックなハモニカの系譜が息づいていたことが知られるのである。
1927年末、WILLIAM McCOYはソロハモニカによる2曲を録音する。このうちの一つが大傑作"MAMA BLUES"である。リズムの跳ねたブルーズでハモニカはCの2ndポジション。高音域と低音域を交互に使い、要所要所を8分音符の和音でうめていく密度の高いこの曲だが、なんといっても聞きどころは曲の最後に出てくる"MAMA!!"という子どもの呼び声をハモニカで再現する技。これは、もう、本当にママ〜と読んでいるようにしか聞こえない、とんでもない技だ。
一年後、再びレコーディングの機会を得た彼は、"THE DALLAS STRING BAND"のメンバーをバックに4曲の録音を残している。
さてその12月8日には、唄入りで、"OUT OF DOORS BLUES"、"CENTRAL TRACKS BLUES"の2曲を吹き込んでいる。前者はストレートハープ(A)による演奏だが、問題は後者。Dbのこの曲も、なぜかそのままAのハープで演奏されているのだ。(このポジション。正式な名前は良く分からないがとりあえず我々は5thポジションと名づけている。)結局、この両日にわたって、彼はAのハモニカ一本で、3つのキーを料理したことになるのである。テクニシャンの面目躍如といったところだろう。
参考音源(兼参考文献)
Dallas, Tex. , 6.Dec.1927
Dallas, Tex. , 7.Dec.1928
Dallas, Tex. , 8.Dec.1928
THE SOURCES
生年など不詳。1927年末〜28年末にかけてダラスで行った数曲の録音が知られているテキサスのハモニカ芸人。とにかく非常なテクニシャンで、当時のハモニカ吹きに、相当に影響を与えていたらしい。そういわれてみると、同じくテキサスとの関係が深いと考えられているFREEMAN STOWERSとの芸風(動物の鳴き真似を織り交ぜ、ストーリー性を持った寸劇に仕立てる)との共通点が見えてくる。
また、もう一曲の"TRAIN IMITATIONS AND THE FOX CHASE"もその名のとおり汽車真似とキツネ狩りを一つにしたもので、前半で各路線の警笛を真似し、後半で車窓から見えるという設定のキツネ狩りを演じる。この曲にもトリッキーな技が惜しげもなく投入されており、一体どうやっているのか全くわからない部分が多い。じっくり分析してみると面白いのではないか。
まず、先の"MAMA BLUES"によく似たメロディをもつ"JUST IT"。この曲では、ハモニカがEの12小節ブルーズを吹いているのにバックのギターが、徹頭徹尾Aのキーで弾き続けるというアナーキーさが聴きどころになっている。このキーのねじれを巡っては、
といった仮説が考えられる。ちなみに、一般的には、2ndポジション黎明期の一こまとして、仮説2又は3により解釈されることが多い。私見としては、既にハモニカの2ndポジションによる演奏法が確立してから一世代は経過していると思われることや同日に録音されている"HOW LONG BABY"では同じパーソネルで同じような曲(少しスロー)を今度は普通に演奏していること、さらには翌12月8日の録音時に明らかになるように、マッコイ自身がハモニカのポジション取りについて非常に鋭い感覚を持っていたハモニカ吹きであったことから、仮説4を採りたいと思う。
ギタリスト;キーは?
マッコイ;(ハモニカのキーのつもりで)A
という会話があり、そのまま録音に突入したという「単なる誤解説」。
* on DOCD5162
WILLIAM McCOY, h solo/ sp. 145334-2 MAMA BLUES * 145335-1 TRAIN IMITATIONS AND THE FOX CHASE * WILLIAM McCOY, h solo; acc. poss SAM HARRIS, g 147593-2 JUST IT * 147594-1 HOW LONG BABY * WILLIAM McCOY, v acc. own h; poss JESSE HOOKER, cl-1; poss SAM HARRIS, g 147610-1,-2 OUT OF DOORS BLUES -1 * 147611-1 CENTRAL TRACKS BLUES *
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