Nobody Knows You

When

You're Down And Out


Once I lived the life of a millionaire,
Spendin' my money, I did not care.
I carried my friends out for a good time,
Buy bootleg liquor, champagne and wine.

When I began to fall so low,
I didn't have no friends, no place to go.
If I ever get my hands on a dollar again,
I'm gonna hold on to it till that eagle grins.

Nobody knows you
When you're down and out.
In my pocket, not one penny,
And my friends, I have not any.

But if I ever get on my feet again,
Then I'll meet my long lost friend.
it's mighty strange, without a doubt,
Nobody knows you when you're down and out.

I mean when you're down and out.

by Jimmie Cox(Bessie Smithの唄をもとにした聞き取り)


・ダメになっちまったら誰もかまっちゃくれやしないと痛切にぼやくこの唄。最近では、Eric Claptonのアンプラグドでの再演でもおなじみになりました。
また、Otis ReddingRod Stewartのパフォーマンス、さらに憂歌団の素敵なカバー”ドツボ節”も有名なところです。

・そのほかにも、一部未聴ではありますが、Lavern BakerNina SimoneBarbra StreisandAlberta HunterPeter Paul & Mary etc...によってもカバーされています。

・でも、何といっても、この曲のすべてのイメージの源は、”ブルーズの女帝”Bessie Smithの歴史的な録音にあるといえましょう。



ッシー以前にもこの曲を吹き込んだ例は残っている訳で、例えば、Bobby Leecanによる1927年の録音などがその一つ。今、聴いているからかもしれないけれど、どこか物足りない。曲そのものが優れたメロディとストーリーをもっているから、その魅力をとぼけた味で料理したというところか。この曲がそれ以上の存在感を放つためには、やはり、ベッシーの吹き込みを待たなくてはなりませぬ。

クライスラービルディング ・両大戦をはさんだ時期、おりしもアメリカは摩天楼建設のピーク。すでにキャリアの頂点を極めたベッシーがこの曲を吹き込んだ1929年5月のニューヨークでも、クライスラービルが、金色に輝くその姿をビル群に加えつつあったはず。

Jimmie Coxによるこの曲がなぜ、ベッシーの吹き込みに選ばれたのか、非常に興味のあるところではあるけれど、今となっては、この時既に人気にかげりが兆していたことをベッシーが逆手に取ったのか?、ブロードウェイミュージカルのデビュー作となる”パンジー”の評が芳しくないことに開き直ったか?、アメリカ史上空前の好景気もさすがに過熱の予兆を見せていたからか?、などと勝手に推測するほかないのは残念な限り。

・そのような想像をたくましくしてしまうほど、ベッシーの唄にはリアリズムが横溢している。ご存知のとおり歌詞のストーリーは嘆き節なのに、彼女のパフォーマンスは開き直りに似た力強さを感じさせるのだ。このリアリズムが何に由来するのかやっぱり知りたいもの。

・ところで、この曲がコロムビアによって発売されたのは、1929年9月13日のことだという。例のNY株式市場の大暴落まであと1ヶ月を余すのみという絶妙のタイミング。もし、発売がずれこんでいたら...。恐慌の真ん中でこんな曲を買う人なんていただろうか?


ころが、不況のさなかにこの曲を吹き込んでいる輩もちゃんといる。Tommie Bradleyがその一人。Tommie Bradleyのギター&ヴォーカル、Eddie Dimmittのマンドリンによる演奏は、ベッシーと同じくリアリティあふれるものなのだけれど、そこにあるのは純度100%の諦観である。むしろ、飄々としているくらいだ。これは掛け値なしに胸を打つ。the Great Depressionをともに生きていた人々の耳にはどのように響いたのかは知る由もないが、ベッシーの唄をリアリズム派こんちくしょう系の祖とすると、これはリアリズム派しょうがない系の源流に位置づけられる演奏といえよう。

・一気に20年時代を下ったLouis Jordanのヴァージョンにはしょうがない系の末裔としての特徴を見ることができる。もちろんTommie Bradleyの純化された透明感には及ぶべくもないというのが正直なところだけれど。Decca再末期のレコーディングとなるこの吹き込みで、ルイが、既に時代の言葉ではなくなった"bootleg liquor"を"gin"に代え、これもやはり様式的に流行らなくなったコーラス最後の2小節のリフレイン("I mean when you're down and out."の繰り返し)を省略しているあたり、歴史の断片ではなく、同時代の曲として素材を料理しようとするルイの心意気がわかって面白い。リアリズム派の面目躍如というところか。(ところで、これらの置換と省略は、この時代以後のカバーにほぼ共通しているようだ。)

・ところで、ご本人はベッシーからの影響をライナーで力説しているようだが、歌詞といい節回しといい、むしろTommie Bradley直系の演奏を再現しているのがRolf Cahn & Eric Von Shmidtのギターデュオによる演奏。これ以降リアリズム派しょうがない系の生息は確認できていない。


方、リアリズム派とたもとを分かち、この曲本来の楽曲としての美しさを追求した例として、Sam Cookeのカバーを挙げてみたい。言うなれば耽美派の誕生である。まあ、この人の場合はハミングでも美しくなっちゃうから反則めいた気がしなくもないが...。



参考音源
No.Performerrecorded onCD or LP
1Bobby Leecanjune/1927
Leecan & Cooksey - vol.2
Document DOCD-5280
2Bessie Smith15/May/1929
The Complete Recordings Vol.4
Sony SRCS 6703-4
3Tommie Bradley17/July/1931Tommie Bradley - James Cole Groups 1930-1932
Matchbox MSE211
4Louis Jordan4/Jan/1954
Let the good times roll
Bear Family BCD15557
5Rolf Cahn & Eric Von Shmidt196?Rolf Cahn & Eric Von Shmidt
Folkways FA2417
6Sam Cooke8/July/1964
at the Copa
abkco CD2970


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