食事療法の正体


食事療法とは、噂や広告に出てる「健康に良さそうなもの」を食べ歩くことではありません。
口にする食材全てを計量し、栄養分を集計し、あなたが本来必要とする栄養量ちょうどに合わせることです。
個々の食材の善し悪しを否定はしませんが、『必要な栄養を過不足なく摂る』ことの実践が第一です。
ここでは食事療法が特に重視されている慢性腎不全・保存期で『蛋白35g/日以下、エネルギー2100〜2500kcal/日以上の場合』を例に取って、その手法を紹介します。

食事療法の発祥
イタリアのGiordano-Giovannetti氏が1963年〜1964年(Lancet誌)にて発表したのが最初とされている様です。
その頃の知見(と、よりゆるい蛋白制限で効果がなかったというその後の多数の発表)から、
栄養制限の基準値が求められています。
1964年といえば、血液透析の技術がようやく確立し始めたころ、そして自分の生まれた年 ということで、かなり思い入れある年です。
信心深い方なら、この研究の後を生きていることを、神仏に感謝しても良いくらいかもしれません。

なぜ食事療法が必要か?
腎不全や生活習慣病としての糖尿病などでは、投薬などと並んで、食事療法が治療に必要不可欠です。 これは、栄養素の過不足が内臓を痛めるのを抑えるために行うものです。
例えば成人になってから発病する糖尿病では、糖分を摂り過ぎることで、糖分の代謝に必要なインスリンを分泌するため、膵(すい)臓に負担が掛かります。 従って、糖分を急に大量に摂らない様にして、膵臓を痛めない様にします。
慢性腎不全・保存期では、当然ながら腎臓に掛かる負担を軽くしないといけません。
腎臓の場合は、蛋白質が負担になります。 蛋白質そのものは、体を維持するために1日16g前後は必要ですが、それを越えて摂った蛋白質は糖分脂肪と共にエネルギーとして消費されます。
糖分や脂肪は炭水化物の名前の通り、基本的に炭素と水素、酸素だけで構成されているので、燃焼しても水か炭酸ガスにしかなりません。 炭酸ガスは肺から出ていくため腎臓は関係せず(血液が酸性になる という意味では影響ないこともないだろけど)、水はむくみ高血圧にまでならない量なら体に必要です。
しかし蛋白質は、窒素などを含むため、かなり複雑な老廃物が出ます。 これを尿毒素と言いますが、これの排出は腎臓しか行えません。これが腎臓を痛めることにもなります。
つまり、食事から蛋白質の量を減らすことで腎不全の進行を抑えることができます。 またエネルギー不足で体の蛋白質を代りに燃焼しない様、充分なエネルギーを摂ることも必要です。
重ね重ねになりますが、栄養の加減が大事であって、腎臓の特効薬はないのです。

栄養制限の基準値を決める
基本的には、医師の診断によって決定します。
慢性腎不全・保存期では、概ね次の様になります。
蛋白: 体重(kg)×0.3〜0.5(g/日) (医師・腎機能により0.6〜1.2位の指示を行うこともあるが、腎機能が正常値の30%以下になると、この程度の制限では効果小との統計がある)
エネルギー: 体重(kg)×35(kcal/日) (男女差よりも個人差が大きい。むくみが出ないことを確認しながら体重の変化を調べるなどして、試行錯誤の上で決める)
塩分: 7g/日以下に制限した方が良いが、急な削減や症状(ナトリウムの流出が止まらないなど)によっては危険な場合があるので、症例毎に確認が必要です。
カリウム、リンなど: 制限を指示されることも多いのですが、蛋白制限により自然と抑えられたり、症例によって制限がないこともあります。
詳細は、こちらでも調べてください。

食材の栄養を調べる
次のいずれかの方法で栄要成分を調べます。
多くの場合、「100g当りの栄養分」として表示されていますので、これに実際に使う量(g)/100を掛けて、下記の様な表に書き込みます。
この栄養分の値の合計が、医師の指示に合う様に実際に使う量を調整するのです。
食品の包装(1袋当りとか、中身1個当りで表記されている場合があるので注意)
栄養成分表(基本的な食材を網羅したものの他、最近は加工食品の成分を書いたものもあります)
経験・栄養成分交換表などはお勧めしません。目分量や見た目では、グラム単位の分量など分かる訳がありません。せいぜい、止むを得ない外食や、食材検討の参考程度にしてください。
なお腎臓病用の食品交換表というのもありますが、体重(kg)×0.5以下の厳しい蛋白制限では、どうしても目分量が甘くなってしまいます。
また食品の種類を網羅する上でも、栄養成分表を用いて計算した方が、幅広い食材を食べることができます。
栄養成分表なら、他の病気を持っている人にも使えます。それを考えると、秤と合わせても安い買い物ではないでしょうか。

こまった時は
1)計算した通りの分量にならない
→いちご1個が4gぴったりにならないなど、よくあることです。
 切り分けできない食材なら、計算の方を修正しましょう。ずれた分は、他の食材や明日の食事でカバーすれば良いのです。
2)栄養分が書いていない
→栄養成分表を見ましょう。
 成分表に書いていない加工食品は、似た物の値を当てはめても良いでしょう。
3)どうやって分量を量るの?
→秤を買ってください。
 最近は電子式でグラム単位を計れる秤を売っています。
計量
4)外食で分量を尋ねる訳にいかないんだけど…
→外食は控えて、弁当を持参してください。
 そりゃ月1回位は、豪華絢爛酒池肉林な食事を楽しんでも良い場合もありますが、病気治療として食事療法を行うこととなったら、基本的には全ての食事が栄養計算の対象となります。
 (本当に重篤な急性腎不全などでは、外食で食事制限を外すのは厳禁です。医師に相談してください。)
 最近は公務員はもとより、会社の営業でも接待会食は控える傾向にあります(控えてる と信じたい…)から、工夫の余地はあると思います。

フィードバック
定期的に、医者で血液検査を受け、体調が狂っていないか調べます。
よく健康診断で検尿と胸部X線と問診だけやりますが、血液検査をしないと分からない症例はかなりあります。突然死の原因の一部は、こういった健診の見落としかもしれません。
検査結果を見ながら、必要なら指示値の見直しを行います。

セカンド・オピニオンについて
実際のところ、Cr=8にもなると、食事療法を理解してくれる医師と即透析を薦める医師と、両方います。
医師による治療方針に患者の考え方の違いがあるとき、まずは率直に相談すべきですが、どうしても方向が違うのであれば、セカンドオピニオンを求めるという手もあります。
余りセカンドオピニオンを前面に立てて無闇やたらに医者を代えるのは、検査の重複や健康保険への負担が生じますが、あなたの体をどうするかはあなたが決めることです。
また、患者同士の交流も、情報交換や励みになります。

create:1998/5/17,last update:2000/1/26
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