あたしが結婚した理由

前に戻る 次に進む エッセイ集目次に戻る 文芸班に戻る


 あたしは既婚である。人妻。嫌な響きである。

 23歳の時に結婚した。同じ会社の人と。籍を入れたのはよく晴れた5月の昼下がり。式を挙げたのは7月の暑い最中。その4ヶ月後に子供を産んだ。事情をよく知らない人には「出来ちゃった結婚」って言われるけれど、婚約中に子供が出来てしまったので、正確にはそうではない。まぁ、順番なんてどうでもいい話なんだけどね。

 つきあいは短かった。つきあい出してから式を挙げるまで1年もかかっていない。つきあっている最中からケンカは絶えなかったけど、結婚をすれば変わってくれると信じていた。そういうものだと思っていた。実際はそうではなかったけどね。

 結婚願望は人一倍強かった。高校を卒業する頃から、早く結婚したいと思っていた。理由は簡単。自分の家族が欲しかったからだ。

 父親は2度離婚している。2度とも父親に引き取られた。2度目の離婚からあたしは叔母の家に預けられた。俗に言う多感な思春期を、親とは違う人の家で過ごしたのだ。親と暮らさない事には慣れていた。産まれてこのかた親と一緒に暮らした期間よりも、違う人と暮らしていた期間の方が長い。同じ血が流れてはいても、所詮他人だ。疎外感を感じるのは日常茶飯事で、早く自分だけの家庭が欲しかった。だから結婚願望だけは 強かった。

 一人暮らしを始めた頃から、つきあう男には結婚できるかどうかも選ぶチェックポイントにしていた。だから別れた相手もいる。きっと相手も迷惑してただろうね。けれど、そんな相手の中でも自分で選んだ道を後悔しているんだよって言う人も中にはいた。本当だよ。今振り返っても、待っていればよかったと思う事だってあるのだから。
 そんな中で複雑に絡み合った人間関係を清算したいと思った時、今の旦那に出会った。出会ったのは独身最後の会社に入社して半年後。結婚退職する先輩の送別会からつきあい出すようになった。
 あたしの結婚願望に理解してくれた。まぁ、今思うと旦那の年齢も理解するように仕向けていたと思う。10歳年上。判らないでもない。

 今でも温かい家庭が欲しい。両親の喧嘩を何度も見てきたから、夫婦仲はよくなくちゃだめだ。子供の性格が歪んでしまう。今のあたしの様に。夫婦仲がよければ子育てに多少失敗したって家庭が崩壊する事はない。子供を構い過ぎなくなるのは、別の意味で問題だけどね。

 結婚は互いが信じあっていなければ継続できない。愛し合っていなければ成り立たない。恋愛と結婚は別物かもしれないが、相手に愛されていなければ、相手を愛さなければ、ただの同居人とかわらない。貧乏だって構わないじゃない。だからって働かないのは問題ね。愛する人を飢えさせるのが、困らせるのが愛している事ではないのだから。愛している相手のためだから何だって出来る。お互いがお互いを、求め合って、癒しあって成り立つんだと思う。

 残念ながら今の旦那とはそういう物はない。旦那の人形になるために結婚した訳ではなく、平凡でも愛し合って温かい家庭を築きたくて結婚した筈だ。この先色々な選択肢はあるけれど、もし離婚したとしてもきっと再婚するだろう。

 だってね。結婚する事に、家庭を築く事に、絶望している訳ではないからね。




(C)1996-2001 Electric Artbox All-round Laboratory
Presented by Maki "PPCal" Miyahara
E-mail:ppcal@mva.biglobe.ne.jp