役所巡りその2

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 まず2階に向かう。何度かいきなれた保育課の部屋に入り、「保育料の変更に来たのですが〜」という。保育園の入園願いの記入個所を訂正し終了。「来月から保育料はかかりませんので」とのお言葉。今までかかっていた月額34,800円が浮いたので幸せな気分になる。

 次に児童扶養手当の申請をする。同じ部屋の隣りの机だ。新しい戸籍と古い戸籍、住民票、年金手帳、新しく作った銀行の通帳を出す。いきなり書類不備で返される。所得証明書がないとの事。仕方が無いので本庁に向かう。すると1階の受付でも発行してくれるとの温かい言葉。「申し込み用紙を貰えませんでした?必要なら窓口でくれるのにね」という。仕方が無いのでもう一度2階の窓口にいき、用紙をもらう。再度1階の受付で申請する。端末で検索すると一言、「去年の所得はなかったんですね」。
 おいおい、去年も働いてたんだよ・・・と言いかけて言葉を飲んだ。どっちにしろ課税されるほどの所得はなかったんだし、このまま「勘違い」で済ませてもいいんじゃないか・・・。しかし。保育園の入園願書に添付した資料には紛れも無く「愛の店承認印つき雇用証明書」が含まれている。ここで誤魔化して後で「虚偽申請だったので手当ては支給しません」なんて言われたら最後である。何か問題が起こっても会社に全部罪をなすりつけようと決心し、「働いていたんですけど」と言葉にした。どうも働いていない事にされていたようで、どんな検索をかけても所得0円となる。「ここでは判らないので本庁に行って下さい」とすまなそうにいわれ、仕方なく本庁2階の市民税課に足を運ぶ。「少々お待ち下さいね」の声にベンチに腰掛けて待つ。お昼前の市民税課は殆どこむ事も無く、そんなに待つ事も無く呼ばれる事が多いから、少しだけ我慢していたタバコも火をつけずにいた。しかし呼ばれない。けれどマーフィーの法則よろしく、火をつけたとたん呼ばれたりする事が多いので、やはり我慢していた。すると窓口嬢ではなく若い男性があたしを呼ぶ。
 彼の第一声はこうだ。「本当に所得があったんですか?」。普通税金を徴収される立場で言えば、無い事に なっている方がいいに決まっている。徴収する立場で言えば、所得があってそれに課税できればいいに決まっている。なのに、かたや「所得あり」かたや「所得なし」でもめている。「源泉徴収証はありま・・・せんよねぇ」。彼は言う。もしかしたら保育園の願書に添付した雇用証明に一緒についているかもしれないという僅かな希望に全てを託し、第2庁舎2階に戻る。しかし、源泉徴収証はなかった。其処で途方に暮れてもしょうがないので本庁2階に戻る。気温・湿度が上がり、汗だくの顔と湿気を含んでぼさぼさになった髪が悲壮感を漂わせている。「・・・ありませんでした」。やっとの事で振り出した声に、元旦那の支払調書に記載されていた配偶者控除の金額から推定所得を割り出して申請する事にした。「それでいいですよ」といった彼の顔をあたしは一生忘れないだろう。その後所得証明を出してもらい、再度第2庁舎2階へ。やっとの事で児童扶養手当の申請が完了し、家に戻って引越しの続きを開始した。

 翌週水曜日。荷物の中々片つかない部屋に戻ると裁判所からの手紙。中を開けると、子供の名字の変更許可決定を記載した書面が入っていた。嬉しい気持ちを押さえて某支所に向かう。そこで子供の籍をあたしの戸籍に入れる手続きを行った。これで離婚に関する役所関係の手続きは医療費免除の申し込み以外はすべて終了した。あとは加入している社会保険に扶養家族として追加の申請をし、クレジットカードなどの名義と住所の変更手続きをするだけだ。

あたしが完全に旧姓に戻れる日までは、まだまだ遠そうである。




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