愛の店物語その4

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 愛の店の働き者は、テレビ好きが多い。

 とにかく見ている。睡眠時間を削っても見ている。見たい番組が重複して、ビデオに録画し、その日の見た番組が終わったらビデオを見て、一体いつ寝ているのか判らないつわものもいる。あたしはテレビ自体あまり見ないので(息子が寝る21時以降は、余程見たい番組がない限りテレビを消している)、その気持ちがあまり理解できないが、それでも話題についていけるだけの番組は押さえている。

 朝出社する。8:30からのミーティングが終わる。終わる頃には9時出社のヘルプさんと呼ばれる企業向けの配達・セールスの女性達がほぼ出社を終えている。そこで「昨日****見た?」と誰かが声をかける。その番組での内容が強烈であればあるほど大変だ。それでもヘルプさんはミーティングが終わると外に出なければならない。くすぶりを残しつつも話を一旦終了させる。
 愛の店のお昼休みは、世間一般の大多数と同じ様に12時に始まる。外回りのヘルプさん達がまばらに帰ってきて、大体の人が12:30頃には食事を終え一息つく。そうすると始まるのは、今朝の続きの「昨日見たテレビ」だ。特に話が長くなるのは、フジテレビの「愛する二人別れる二人(旭川では月曜午後7時)」。ろくでもない夫婦の話や、離婚を決意するまでの経過の話は、「どうもならんよね〜」と自分の意見を交えながら進んでいく。次に多いのはまたまたフジテレビの「奇跡体験アンビリバボー(木曜午後8時)」。特番では「警察24時」あたりは基本的に押さえなければならず、「夢の家族計画(水曜午後8時)」や「東京フレンドパーク(愛する〜の裏番組)」も割とはずせない。

 今年に入ってから一番しつこく続いた話題は映画「リング」。月曜にブレイクし、「愛する〜」の話題冷めやらぬ火曜に上司が蒸し返して更に詳しい話に発展させ、レンタルビデオ屋ではいつも「リング」・「らせん」とも貸出中だと嘆き、そのうち続きの「らせん」を「ダビングテープなのが(呪われそうで)いやだよね〜」と言いつつも回覧され、テレビドラマ版「リング(高橋克典主演)」を1週間レンタルで借り「受け取った人はその日のうちに見ないとダメよ」と回覧され、なんだかんだと半月くらいはリング一色だった。

 大体、社内に研修用とはいえテレビが3台も有り(社長室含む)、去年の長野オリンピックのジャンプの時は11時30分には殆どの外回りの社員が戻ってきて、日本ジャンプ陣の活躍を気にしていたのである。不意の電話にも窮しない様にヴォリュームを下げ、画面に食い入る愛の店の働き者。そんな風にある日は過ぎて行くのである。

 そうして、休み明けの月曜の昼下がり。週明けの慌ただしい午前中を軽快に駆け抜け、ほっと息をつきとった昼食後。「ねぇ、昨日のアレ見ました?」

 やっぱり際限がない愛の店の働き者達である。




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