もう、続きは、読めない

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 やっぱりご多分にもれず、漫画が好きだったりする。月刊誌は話の流れを掴むのに欠かさず立ち読みで把握し(買うには部屋のスペースが足りなすぎる)、数ヶ月に一度の単行本を逃さず購入する。「美少女戦士セーラームーン」「怪盗セイントテール」「有閑倶楽部」「イタズラなKiss」は本屋に行く度新刊の棚をチェックする。「セーラームーン」と「セイントテール」は同時期に終了してしまい、単行本も同時期に発売されたので、とたんにノルマが減ってしまった。「有閑倶楽部」は特別読切の様な掲載の仕方をしているから1年に1度位のペースで張りが出ない。仕方ないので「新世紀エヴァンゲリオン」をリストに加えたが、月刊誌でチェックすると「連載中断中」とある。どおりで5巻が出ない筈だ。とりあえず、「イタズラなKiss」に期待を込めて、連載している「別冊マーガレット(以下「別マ」」の発売日には本屋へかかさず立ち読みに行く。

 ある金曜日のお昼休み。会社の先輩と近くのコンビニへ行った。月刊誌の発売日なんて覚えてはいないので、雑誌の棚をサーチする。いつもの場所に「別マ」ある。ドキドキの続きを読もうと探しても見当たらない。目次を見ても載っていない。「見たいのあった?」と先輩から声がかかる。「先月号が結構な山場だったから、今月休んで来月号で巻頭カラーとかやって盛り上げるんでしょうねぇ」と勝手に納得していた。

 翌日。土曜日だったので少しだけ寝坊をして起きた。子供を保育園に送っていくにはまだ早い時間、朝刊を 開いて前日の日本の状況を確認しようとした。

 1面は見出しだけを見る。「5期連続マイナス成長」とある。ひっくり返してテレビ欄を見る。その日の映画は「極妻」である。見ようかどうか少し考える。1枚めくって第1社会面を見る。寝ぼけ眼に飛び込んできたのは、左側紙面の真ん中よりやや下側、一般人の訃報広告の上。大見出しをつけるほどではないけれど、一般的に知られている有名人の訃報欄。明朝体の記事に目立つ様にゴシック体で「多田かおる」と記されていた。あたしは目を疑った。「イタズラなKiss」を描いている漫画家の名前だった。同姓同名の別人だろうと内容を読む。間違いない。本人だ。死因は脳内出血。38歳の若さだった。あたしは呆然と記事を眺める事しか出来なかった。

 時間はあたしの気持ちに関係なく過ぎて行く。子供に急かされて準備をして出発した。保育園に送り出し、帰り道を少し遠回りしてセブンイレブンに寄った。もう一度「別マ」を見る。作者の都合で掲載できない時は、お断りを乗せる筈なのに何も書いていない。ふと見慣れたような文字列が目に入る。集英社のURLだ。少しだけ買い物をして家に帰った。

 パソコンの電源を入れブラウザを立ちあげる。集英社のトップページにアクセスして「別マ」のページに飛ぶ。トップページのタイトルの後、詳しい話が掲載されていた。作者の先生への励ましのメールのコーナーに入ってメールを書いた。読むだろう編集部の人へ、続きのネームだけでも公開してもらえないかお願いした。そして、まだ単行本化されていない掲載分の早期の発売の要望もつけたした。

 今までに読んできた本や漫画で、作者がすでに亡くなっていたり(つまり、今読んでいるのは遺作)、生きていても連載モノじゃない読み物(エッセイとかそういう類)が多かったので、とりたてて作家が亡くなって悲しいという事が殆どなかった(絶版になってもう手に入らないという事で悲しい事は多々あるけどね)。根がせっかちな方なので、すぐに全てを知る事が出来ない連載モノは手にする事自体滅多になく、「イタズラなKiss」は完結してない物なのに続きを読みたいといつも思っている珍しい存在だった。けれど、もう、続きは、読めない。彼女しか知り得ない登場人物達の未来。ひたすら自分の中で想像するしか手だてはない。

 あの、一番続きを読みたがらせる終わらせ方のまま、永遠に終了してしまった事に悔しさを感じながらも、 彼女の御冥福を祈ります。




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