恋人が友達にかわる瞬間

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 友達に「彼氏が変わる時何故だかダブってしまう」という話を聞いた。「ダブる」と言うのは早い話「ふたまた」になってしまう事だ。彼女の場合そういう事が一度や二度ではなく、ここ最近彼氏の顔は変わるのにフリーの時期がない。初めてそういう話を聞いた時は「早くケリつけなきゃだめだじょ」と答えていたのだけど、最近は「今に刺されるわ」と答えている。あたしにも少なからずそういう事があったのだけど、彼女の場合あたしを上回っている。うらやましい限りである。
 彼氏と長くつきあっていると、急に魅力がなくなって見えてくる事がある。「なんとなく」ではない。本当に「急に」なのである。「あばたも靨」でそれまでは見えていなかった嫌な事、例えば癖とか仕草とか匂いとか「あ、こんな所に黒子がある」等など、今までは「かわいい〜」なんて思っていた事が「こんなのちょっと・・・・・・」と180度変換されてしまう。大体そういうのは倦怠期に入ってしまった証拠なんだろうけど、相手の方が「今日は昨日と同じ、君は僕の隣にいる」なんて思っていたら最悪である。彼女の方は「今日のあなたは昨日よりも嫌な所が目に入る」とかって思っているのだから。

 そんな時彼氏とデートで街に出る。彼女の目は彼氏を通り超え隣のいい男に向けられている。
すれ違う男はいい男に見えるの図 「あ、いいな」と思った時は、彼女の心はすでに違う世界に向いている。会社や学校、何かのサークルでいつも逢うあの男性はもしかしてあたしの彼氏よりもいい男かも。そうして片想い真っ最中な一人の女の子が誕生する。彼氏がいるにもかかわらず。
 別に彼氏の嫌な面を見てしまったからといってこうなるとは限らない。彼氏がとってもいい人過ぎて、恋愛感情よりも友情が強くなってしまったりする事だってあるのだ。二人で何か同じ事をしている。その横顔を見てふと思う。「もし彼女じゃなくなっても、こんな風に一緒に時間を過ごせるのかもしれない。きっとこの人ならそうしてくれる筈」って。そうして同じ事が行われる。こちらの場合は彼氏と別の相手を比べる事はしないだろうけれど。
 さて。後者の場合どうすればいいのだろう。嫌われたわけでない。でも「彼氏として好き」ではなく「友達として好き」なのだ。彼氏は納得できないだろう。そうなった彼女をかばう訳ではないけれど、人の心は変わりやすい。彼女だけではない。彼氏だって同じ風になるかもしれない。たまたま彼女が先にそうなっただけだから。劇的な出来事があって、彼女の前でいい所を見せる事が出来たなら気持ちをこちらに向けさせる事は出来るのだろうけど、そうそうドラマみたいな出来事なんかおこる筈ない。だからと言って彼女の動向を指を咥えて見ているのはもってのほか。じゃあどうすれば・・・。
 あたしだったら明るい嫉妬をして欲しいとかって思ったりする。自分に関心を示す様な事をあたしに向けてやってもらいたい。但し、こちらも明るい方向で。「別れたら死んでやる」なんていうのは論外。それこそ「そんなつまらない男だったのね。勝手に死ねば」とか憎まれ口を叩いたりしてしまう。
「別れてもいいお友達でいましょうね」という台詞は、女から振る時もれなくついてくる台詞だという人が多い。本当に憎くて別れる時にはお世辞にもそんな事はいえない。言いたくもない。勘違いされて最後にはストーカーまがいの行動をとられるのがオチだ。友情が恋愛感情を超えたと気づいた時、それでも関わっていたいから出てくる苦渋の言葉だと信じている。




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