結婚なんておやめなさい

前に戻る 次に進む エッセイ集目次に戻る 文芸班に戻る


幸せなのは最初だけの図
最近まわりでは婚約ラッシュだ。瞳はハート型に変わり、
薔薇色のオーラをまきちらし、なんとなく地面から5cm程浮かんで
いるような気分になり、左手の薬指には神々しくもダイアモンドの
立爪リングが光り輝き、誰が見ても幸せ一杯胸一杯になっていたり
する。
式場やレースふわふわのドレスを想像し、新婚旅行のためのパンフ
レットをかき集め、新居を探す為に不動産情報誌を購入し、これから
始まるであろう甘い新婚生活をこれでもかという程夢見て、あちらの
世界にひたっている毎日を過ごすのである。勿論細々とした決めなけ
ればならない事は沢山ある。しかし、自分に「婚約者」の肩書きが
ついた時から、結婚のための面倒な手続きも、楽しい出来事になって
しまう。

結婚をすると、家庭に入った女性にはもれなく夢にまで見た「三食昼寝つき」の退屈な生活が待って
いる。最初の頃は楽しい炊事も掃除も段々手抜きする事を覚え、お昼のドラマを楽しみにする毎日。
そのうち「亭主元気で留守がいい」なんて言い出す始末。ドラマの主役の俳優が限りなく魅力的に見え、
仕事にくたびれた旦那が限りなくチンケなおじさんに見えてくる。
結婚しても仕事を続けるなんてとんでもない決意をした女性には、「年中無休の無料奉仕」が待って
いる。「結婚したら三食作ってもらえて、アイロンの効いたシャツはいつも用意してある」のが当たり
前と思っている男性と一緒になった日には、「あたしだって働いてるもの、家事は一切分担よ」なんて
甘い考えは通用しない。旦那が自分の趣味に没頭している時間、洗濯機を回し、汚れた食器を洗い、
シャツにアイロンをかけるのである。
結婚したら家庭に入って欲しいと望んだ男性には、毎夕食時にその日の行動パターンを報告する義務が
待っている。うっとうしくなっても聞きたがる妻に、そのうち飽きが来た頃、新入社員の初々しい女の
子が気になり、そんな甲斐性の無い人には、いつもの飲み屋のママとの会話の方が心に落ち着きを感じ
たりする。
結婚しても仕事を続ける事を許した男性には、なかなか片つかない部屋とスーパーのお惣菜が待って
いる。フルタイムで一日9時間は会社に拘束されている奥さんに、家に帰ってからも仕事をさせる方が
間違っている。文句を言ったら最後、「じゃあ分担ね」と言われるのがオチだ。
結婚と同時に自分のお小遣いは限りなく減り、毎日同じ顔を突き合わせて食事をし、遊びに行くのに
顔色を伺い、「こんなんじゃなかった」とため息を吐くのが早いか遅いかの違いこそあれ、大体胸の
奥でそう思ったりするのである。悲しい事に。

結局のところ、結婚とは愛すると勘違いしている同士の「騙しあい」であったりして、ついでに自分の
事も騙したりして成り立っているんじゃないかと思っている。いつでも一緒にいたいのなら、一緒に
暮らせばいいだけの話である。「結婚しなければまだまだ半人前」なんて考え方はもう過去の遺産だ。
大体結婚してても子供と変わらない人間の方が多数を占めている今の世の中。結婚したために、無理に
自分を背伸びさせている生活なんて、肩がこって疲れるだけだ。だから何も慌てて入籍する事はない。
紙切れ一枚にすがらなければ成り立てない程度の相手なら、入籍したってたかが知れてる。婚姻届は
「たかが紙切れ」「されど紙切れ」だったりするのだ。大体、入籍しなきゃ結婚したと認められない方が
おかしい。

相手の親や親戚、そして結婚した相手に異常なほどの気を使い、自分を疲れさせるだけの結婚なら、
悪い事は言いませんから、おやめなさいな。
え?それでもしたい?
相手を死ぬまで騙し続ける自信があるなら、どうぞどうぞ。

(C)1996-2001 Electric Artbox All-round Laboratory
Presented by Maki "PPCal" Miyahara
E-mail:cal@bf.mbn.or.jp