ある日、「今日は二人で飲みにいこう」と誘われて、違和感なく一緒に行ったのが始まりだった。初めて出会ったときから一年たった頃だ。共通の知り合いがたくさんいる、妻も子もよく知っているという間柄だから、気軽な誘いと考えていた。
 食事をして、カクテルを飲んで、そのまま帰るはずだった。あと一軒付き合ってという彼に、少し強引に肩を抱かれてホテルへ入っていった。
 最初からそのつもりで誘ったのだろうか。飲んでるうちにそういう気になったのだろうか。これからも練習会に行って楽しくやりたかった。他のメンバーとの関係も、妻との関係も壊したくなかった。何度、拒否しても、諦めようとしない彼に、根負けするように、身体の力を抜いた。彼は違う人みたいだった。
 あとのことは何も考えたくなかった。練習会にもう行けなくなると思うと辛かった。そして後戻りできなくなっていった。週に一度は逢う関係になって、何事もないような顔をして、練習会にも行き、これまでと同じように彼の家にも呼ばれて行っていた。
 彼と特別な関係になっても、それ以外のことは何も変わっていなかった。
 もうすぐ中学三年になる子どもの勉強をみてほしいと言ってきたのは、妻だった。彼女は、どうしても私にと譲らなかったらしい。私は強い申し出に戸惑ったが、断る理由がなく、結局引き受けてしまった。断る理由がないのではない。断る理由が言えないだけだった。そうして週に一回、彼の家に通うことになり、勉強が終わったあと、家族揃った食卓で一緒に食事をした。
 でも受験生とともに一緒に勉強するのは、切迫感もあり、充実していた。目的をもってひとつひとつ問題を解いていくことが楽しかった。できるだけ平静を保つようにして、不自然さを、見せないようにこころがけた。
 わたしはこの家に「不幸」をもたらしている。その試練だと思った。
わたしの朝