しかし彼は突然、わたしのところにやってきた。
 半年間の空白は一瞬に埋められたように思えたが、不安に陥っるのも一瞬だった。「別れる。二度と逢わないと言ったのは嘘だったの」と妻に詰問される様子を思い浮かべながら、それでももう後戻りできない自分がいた。
 半年間、封印していた自分の気持ちが解けていくのがわかった。
 「どうしてたの?」と聞くのが精一杯だった。彼の口から何が話されるのか恐かった。 夫の異変を妻は見逃していなかったらしい。そして若い女の子と一緒だったという密告電話。その相手がわたしだということをつきとめるのは、容易だったという。夫が外泊するようになって、危機を感じてわたしとの「直談判」に及んだのかもしれない。そして夫婦のいさかいは、すぐに子どもに察知された。
 「何時に帰る?」と心にもないことを聞いてしまう。
 「帰らない」
 私の気持ちのなかにあった大きな堰が抜けていくのがわかった。全部彼に預けることができる、すべてを解き放つことができる安堵感があった。
 その日から彼との生活が始まった。
 妻とは話し合いを続けているらしいが、当然ながらうまくいってない。夫の身勝手を許す気はないのだろう。彼女がここへ乗り込んでくることもあるかもしれない。でも、もう今度は「別れる」とは言わない……。

 私は久しぶりに故郷の淡路島へ帰った。わたしが大阪にいる間に島は本州と橋で結ばれていた。就職しないのなら帰ってきたらという両親に、ひとりで勉強を続けることと、仕送りはいらないことを告げた。彼とのことは、もちろん言えない。いつか知ることになるかもしれないが、その時は私の選択が理解してもらえるだろうか。
 高校の時の同級生にも何人かに会った。結婚してもう子どものいる子、地元で就職した子、今はみんなそれぞれの生き方をしている。まだそれがぎこちなくて、お互いを推し量りながら、そして幸せ比べをしているような感じだった。
わたしの朝 7