「ちゃんとやってるか?」
高校の時からの唯一の男友達との会話。進んだ大学が近かったこともあって、大阪でも何度か会っていた。教員採用試験を目指して、実家で勉強を続けているという。「付き合う、付き合わない」と曖昧な間柄で、結局、決定的に近付くことはなかった。この彼と付き合っていたら、どうなっていたかなぁとふと考え、あわてて打ち消した。後悔しない、そう決めたのだから。彼とは、採用試験に通ったら、お祝いするからねと約束をして別れた。
 わたしが正直に自分の生き方を話せるようになるには、もう少し時間がかかるかもしれない。もしかしたら話すことはないかもしれない。でもそれでもかまわない。わたしは自分を信じている。そして一緒に暮らす彼のことも信じている。信じられる気持ちだけで十分だった。

 ずっと一緒にいれることが、こんなに嬉しいことだとは思わなかった。ついこの間まで、朝まで一緒にいることに罪悪感をもっていたのに、今はその幸せを実感している。
 ある夜、彼の携帯電話が鳴った。高校生の子どもが事故にあったという。詳細はわからない。彼はすぐに駆け付けていった。妻からの電話だろう。
 妻のところへいっても、子どものところへいっても、彼は必ず帰ってくる。わたしにはそんな確信があった。

 毎朝、朝日を背にうけてランニングするのが日課になっていた。いつも彼と二人で走るコースを、今日は一人で走った。太陽の光が私をやさしく、包んでいるように思えた。
 ひとつしかないのだから、いつも見る太陽は同じなはずなのに、どうしてこんなに違うんだろう。自分に確信がもてる。そんな確信が、陽射しをやさしく感じさせているのだろう。
 
 山へ行こうか。新年は、二人で日の出を仰ごう。
 すべてをおいてきた彼の明日のために。
 夢も希望もある私たちの明日のために。    (了)

花子のノート
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