手術室へ

 更衣室でぼーっと待っていたら、看護師の山本さん(仮名)が、「行きましょうか」と呼びにこられたので、ついて行きました。これから手術という人らしき人を通路で見ましたが、わたしなんか元気で自分の足で歩けるし、座って待っていれるけど、ベットに臥したまま待っているのは、辛いだろうなと思いました。だからできるだけ、見ないようにして、歩きました。頭にかぶるキャップをかぶって、ロッカーのキーを預けて、そして温かいバスタオルを背中にかけてもらって、山本さんが肩に手をまわして、手術室へ連れていってくださいました。「大丈夫ですか? 恐くないですか? 心臓が飛び出そうなことない?」と聞かれて、「大丈夫です」と言ったものの、だからといって全然、恐くないわけではないので、「ちょっとは恐いですけど」と言いました。
 こういうとき、自分の気持ち聞かれると、マジで自分の本心を考えてしまうので、困ります。相手も社交辞令なんだから、「大丈夫です」と答えておけば、それでよかったはずなんです。5番の手術室へ入ろうとしたら、そこに3人のドクターらしき人がいました。そのうちの一人は、この前診察してもらった、握手したら骨折しそうなくらい華奢な田中先生(仮名)だと思います。全員、マスクしているし、手術用の服なので、ほとんど露出しているところがなくて、ほんとに田中先生なのかどうか、よくわからなかったです。
 いきなり手術台にのってと言われて、一瞬、止まってしまいました。手術台、とっても高いので、とても上れそうになかったから。そう思ったら、すぐに踏み台をまわしてもらったけど、その台を使っても、かなり「よっこいしょ」という感じでした。そういう一部始終を3人のドクターが見ているみたいで、それもちょっと気になりました。髪の毛をたばねて、それをキャップのなかにいれているので、それがあたって違和感がありました。そのときも恐いというより、次は何を指示されるのかということのほうに気持ちがいっていました。
 手術は、左のこめかみのところなので、髪の毛が出ないようにキャップをテープでとめて、左目もテープでふさがれました。これが結構、困難でやり直しをするたびに、髪の毛がテープにひっつきました。ごめんなさいといわれたけど、全然、気になりませんでした。そのあと、右手に血圧を測るのにくるっと巻かれて、親指の先に心電図をはかるための洗濯バサミみたいなのをつけられました。
 そのあとのことは、目をつぶっていたので、どういう状況だったのかよくわかりませんが、顔の横にアーチのようなものを作って、手術するところだけが露出するような感じにしたのだと思います。
 「消毒しますね」と、たぶん田中ドクターの声がして、手術するところをかなり念入りに消毒されました。温かくて気持ちよかったです。次に何をされたのかわからないけれど、「左目に力をいれてください」と言われました。それでしばらくしたら、「麻酔しますね」といわれました。
 ここでもまた、できるだけ小さく切りますけど、跡は残りますよと、念押しされました。
 麻酔って、これがまず最初の恐怖でした。麻酔がどれくらい痛いのかわからなかったからです。何をされているのかもちろんわからないけれども、切るあたりのまわりから針を刺されたのかもしれません。何度かちくっとして、ちょっと痛かったです。お腹の上においた手を強く握っているのがわかりました。ちょっと力が入ったけど、「落ち着け、落ち着け」と自分に言って、深呼吸して落ち着こうとしました。
 「大丈夫ですか(=麻酔はきいていますか?)」と、麻酔したところの間隔がないことを確認されたように思いますが、すでに感覚がないので、感覚がないことにも気づかず、「は、、はい」とあいまいな返事をしました。
そのあとは、たぶん切ったのだと思います。まったく様子はわかりませんでした。こめかみのところだけ、露出していて、そこの顔の皮が引っ張られているという感覚がありました。それで、縫っているのかなと思いました。糸を引っ張って、チョキチョキと切っている、そういう作業の繰り返しのように感じました。痛みはありませんが、引っ張られているという感覚がつねにありました。切るということが、たぶん終わっていて、あとの処置をしているのかなと思ったときくらいから、気持ちがようやく楽になって、身体に力が入らなくなりました。
 縫ってチョキチョキしてというのが、終わったらしく、切ったところにガーゼを貼ってもらっていました。顔のまわりを覆っていたドームのようなものも取り払われて、血圧計や心電図の機器もはずしてもらいました。
 「はい、終わりました」と言われて、「もう、起きていいの?」という感じでしたが、起きていいらしく「よっこいしょ」という感じで起きて、またよっこしょという感じでベットを降りました。看護師の田中さんに付き添われて、手術室を出ようとしたけど、やっぱりお礼を言わないといけないと思って、「ありがとうございました」と言ったものの、自分はまだ緊張感が残っているので、なんかちょっと戸惑ってしまいました。
 時間にしたら、30分もかかってなかったと思います。でも、そのあいだ横になっていたので、すぐにうまく歩けず、ちょっとよろける感じがしました。ぼーっとしながら歩いて、別の看護師さんにロッカーの鍵をもらって、また、あの簡易の更衣室で、着替えて待っていました。ロッカーの鏡でどんな感じかみたら、ガーゼが思ったより小さくて、髪の毛で隠れて、全然、目立たなかったのでほっとしました。でも、テープをはられたり、キャップをかぶったりしていたので、髪の毛がぐちゃぐちゃになっていて、あまりにひどかったので、それを必死で直していました。更衣室で待っていたら、田中さんが「お疲れさまでした」と迎えにきてくださって、荷物をもって手術室を出ました。心配したわりに、あっけなく終わって、ほっとしていました。
 手術室を出ると、さっきの双子ちゃんのお父さんが、まだ待っていました。たぶん、お母さんがまだ、出てこれないのかなーと、人のことを心配する余裕もありました。再び2階の皮膚科外来に寄って、薬の説明と、痛み、出血があったときのことを聞いて、あとは会計を済まして、処方箋をもらって終わりです。

 1階で会計の手続きをして、お金を払うとき、いったいいくらなのか想像つかなくて、どきどきしたけど、8910円ということで、「やすー」と思いました。何を基準に安いのか不明ですけど、手術という名がつくので、もっと高いかと勝手に思っていました。
 処方箋をもらって、薬局で薬をもらって、説明をきいてと、ここも丁寧にやってもらって、今日の予定は終わりです。

 その後のことは、また、明日以降に書きます。

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