碇高原というのは、弥栄町から丹後町にはいってすぐのところにあります。コースは丹後半島の山から海へとその様相を変えていくのがこの区間です。73キロから80キロまでの約7キロで、これまで上った坂を一気に400メートル下ります。ここで少しペースをあげなければ、最後の94.7キロの関門が危ないのでキロ9分に設定しました。いくら下りが苦手といっても、歩かなければ9分は確保できると思ったからです。ところがわたしには、ひとつ誤算がありました。碇高原の坂道ばかりに気をとられていて、そのあとの旧道の此代という200メートルの上り、下りをすっかりとばしていました。ウエストバッグには、高低差の地図と関門時間を書いた紙と、設定タイムを書いた紙を入れていたのですが、設定タイム以外のものを途中で紛失してしまったらしく、頭のなかが混乱してしまいました。
気持ちは全然、きれていませんでしたが、身体のほうは、右足首が少し痛いのと、わきの下の下あたりが擦れて腕を動かすたびに痛みを感じました。スタート前に馬油やスクワランオイルを塗ったつもりでしたが、行き届いていなかったのでしょう。というより「こんなところが擦れるの?」という感じでした。
コースは下っているので、走ることができました。でも足に負担がかかっているのは、自覚していました。後半、止まってしまうのではという恐怖もありましたが、87.9キロまでいけば、あとは歩いても大丈夫だったので、「今、頑張らなければ」と強く思いました。
前半のキロ7分半もクリアしました。上れるかどうか不安だった碇高原の坂も上りました。タイムも設定したものよりも幾分かいいタイムでこれています。雨が降って、気温があがらないから、ここまでこれたのです。100キロをどうしても完走したいわたしには、今日は、千載一遇のチャンスです。今日を逃したら、今度はいつエントリーできるかわかりません。たとえエントリーできても、こんなに走れるとは限りません。
「絶対、頑張る」「絶対、あきらめない」「絶対、完走する」と、何度も心のなかで言いました。今、頑張るかどうかで、変わってきます。そう思って、下っていきました。キロ9分のつもりが、ちょっと意気込んだのか7分台で下ることができました。
80キロを過ぎて85キロまでは、200メートル、上ります。この旧道を考慮せずに9分という計画をしたのは無謀としかいいようがありません。その前に、7分台で下ったことも無謀だったのかもしれません。思わぬ上りで歩きが入って、大丈夫だろうかと心配になりました。わかっているのは9分でいけば大丈夫ということだけで、87.9キロの関門時間もわからず、とても不安でした。ほんとうに不安になったので、近くにいるランナー(ふくらはぎの様子から、しっかり鍛えてられそうな気がした方)に、「次の関門、大丈夫でしょうか?」と聞いてみると、「もう大丈夫」ということでした。それならばと安心して、しばらく歩いていると、その人が後ろから「大丈夫といっても、全部、歩いたら危ないよ」と声をかけてくださいました。
わたしとしては、「もう走れない」つもりで歩いていたのですが、その人のその一声で、再びスッと走り出すことができました。不思議なものです。人の力って、すごいです。もうダメと思っても、ダメでないんですね。ちゃんと走る力が出てくるんですから。
コースは海岸線に入ってきました。ここもまた、地元の方の応援があるもので、応援のあるところ(人の目があるところ)だけ、走っていました。身体は全然、もうダメなのに、「せっかく応援してもらってるのに、そのランナーが歩いていては申し訳ない」と思えば、足が動きました。さっきは、身体が動いた自分に感動したけれど、今度は、人間(自分)って、なんて自分勝手なんだと思いました。人がみているから走れるけど、その力がどうして自分で出せないのだろうと。
ほとんど歩いて、少し走って87.9キロの関門も無事、通過することができました。ここへくると、まわりのランナーも随分と疲れています。予定より少し速かったので、おしるこを食べることにしました。どろっとして濃かったのと、熱かったのとで、ここでも「おしるこの水割り」になってしまいました。
マッサージをしてもらっている人もいて、うらやましかったけれど、なんかいついてしまいそうだったので、ここのエイドもさっさとあとにすることにしました。
ここからは60キロのランナーとも合流します。野辺山の50キロも、ラストの10キロが100キロと合流するのですが、そのとき「100キロランナーってすごいな」と思ったものです。でも今日は、「わたし、この人たちより40キロ、余分に走っているのよね」と思うと不思議な気がしました。
87.9キロの次は、94.7キロ。あと7キロで最後の関門です。
あと7キロといっても1時間くらいかかるのかなと思うと気が遠くなりました。ここまでくると、通常の距離感覚とは別世界です。