1963 ベルギーでの動画
半音上げ演奏の謎
初期のブラザース・フォアのレコードや演奏を聞くと、どうも半音高い音程になっていることが気になっていた。昔は自分のレコードプレイヤーの回転がおかしくなったか、レコード作成に問題があったかと思い、回転を遅く調整して聞いたりもした。今まで真面目に調べてなかったので、今回、ちょっと調べてみた。
事実
①幾つかの曲目は明らかに半音高い音程て録音されている(例:本来C調であると思うのにC#調になっている)
②コンサート録音盤でもそうなっているものがある
疑問
①何曲ぐらいが半音高いのか?
②録音上のテクニックでそうなっているのか、実際の演奏でそうなっているのか?
③意図的に行われたものだとすると何の為にそうしたのか?
④ライブ演奏も半音高くしたのであれば、それはどう半音高く楽器設定したのか?カポ利用か調弦か
調査
①初期のLPレコード調査
発売日(概ね録音年)は推定であるが、発売順にレコードをチェックしてみた。
チェックの結果、下の赤字のレコードは全曲通常音階より半音階高い音階で歌っていることが分かった
1959「East Virginia」
1961「Roamin'」
1961「B.M.O.C」
1961「In Person 」
1962「Song Book」
1962「Cross-Country Concert」
1963「The Big Folk Hits」
1964「Sing of Our Times」
1964「MoreBigFolkHits」
②当時のライブ録音調査
音声録音記録の場合、何からの操作や録音・再生スピード変動があるかもしれないので当時の動画をチェックした。動画の場合はスピードや音声変更は難しいと推測する。また、スタジオ収録ものはレコードに合わせた口パクもあり、実際のステージの動画をチェックした
12曲歌っているのが残っている。全て通常推定音階より半音高い。また重要な事としてカポでの半音操作はなく、例えば開放弦でCコードで押さえていても半音高いC#の音階になっていることが判明。
下はBong Bong Aywah
Leewayでのマイクさんのギター。この曲はC#音階となっているがマイクさんは3カポて弾いている。即ちギターは半音高く調弦し、3カポ位置てA調のコードを使って弾いている。
下はBrady, Brady,
Bradyでのジョンさんのギター。この曲はG#音階となっているがジョンさんはカぽ無しで弾いている。即ちギターは半音高く調弦しG調コードで弾いていると見える。
このようにギターやバンジョーは半音高くチューニングしていると見える。ベースはどう調弦しているのか不明だが多分半音高く調弦しているのだろうと推測する。
1963 オランダの動画
2曲歌っているが上のベルギーと同様、半音高い音階
1963 米国UCLAの動画
5~6曲程度残されているが、全て通常音階
1965 米国The Hollywood Bowlでのコンサート録音
全て通常音階
1965日本 サンケイホールでの録画放送の録音記録
全て通常音階
③楽譜の調査
1962年の「Song Book」の楽譜。このレコードには全曲の楽譜が添付されていたが、今改めてチェックすると全曲、レコードの音階(半音高い音階)で記載されていた。下はNobody
Knows。Dフラットと記載されている。
ということは全く意識的にこの音階を使っていたことになる。
理由
半音高くした理由は不明ですが、推定としては以下のような事が考えられる。
声域とフィット説
当時の彼らの声域との相性が良かったのではないか?とは言っても半音であり、特定の曲では出しにくい音階があったりするかも知れないが、それは特定の曲だけ調整すればよく、アルバム全体を数年に渡って半音上げるという対策はないだろう。・・・→この理由ではないだろう。
軽やかさ演出説
この1960年代初頭の半音上げ曲を聞くと、軽やか、浮ついた感じを受けていた。それはグループ結成後のまだ「未熟」な素人っぽさが残った感じかな、と思っていたか、どうもそうではなく、この中途半端な音階にあるのではないだろうか?ブラザース・フォアのコーラスはメンバー構成上、主旋律をディックとマイクで、低音部を二部にしてジョンとボブが歌うことが多く、全体的には重めのコーラスとなっている。当時のアメリカン・フォークの流行期のハイウエイメン、キングストン・トリオ、PPM、イアンとシルヴィア、ニュー・クリスティ・ミンストレルス・・・と比べる「暗い」感じになってしまう。そこで半音上げを施したのではないだろうか?
「グリーンフィールズ」はオリジナルレコードはBm歌っているが、1963年以降はAmで歌っている。この音階差は結構大きく、もし最初からAmでのグリーンフィールズを発売していたらヒットはしなかったかも知れない。
という事で半音上げは軽やかさの演出と考える。
通常に戻した理由
しかし、ではどして1963年以降は半音上げを止めたのか?
それはまた一つの謎てあるが、幾つかの理由が考えられる。1963年「The Big Folk
Hits」以降、外部のミュージシャンが伴奏に参加したり、彼ら自身もハーモニカとかピアニカ風鍵盤楽器を使ったり、更に少し後年ではオーケストラ伴奏などが入って来たりしたので、半音高い音程では扱いにくくなったと推定できる。あるいは1962年頃になると彼らの立ち位置もハッキリしてきて、むしろ低音部のコーラスを生かした形にしよう、と無理な半音上げは止めにした、或いはもっと単純に弦を少し強く張ることによる楽器へのダメージを避ける為に通常チューニングに戻したのかも知れない・・・きっと複数の理由があったのでしょう。
追伸:この記事の後に別の記事を書いた(ここ)。そこで気がついたのは、この半音上げを止めたのが、新しい編曲者の登場の時期とあっていること。半音上げを止めたのはその編曲者の示唆の可能性は強いと思った。
結論
この様に全体を俯瞰的に見ていくと1961~1963前半?に半音高い音階を使用し、その場合、楽器も半音高く調弦していたことが推測できた。その理由までは分からないが、少し軽やかなコーラスを表現したかったからではないか、と推測する。