9月15日(火)
 

先週の火曜日、我が家の愛車、ジグリがやってきた。
ジグリとはボルガ川中流にある高地の名前がその由来だという。

とっても可愛い顔をしている。瞳がパッチリをした色白のお嬢さんだ。(ロシア語では車は女性名詞であ〜る。)もうすぐむすめたちによって黒々とした長いつけまつげを付けてもらえるかもしれないくらい、可愛がられている。
びーびーが「早く、百キロまで出して!!」と、わがジグリに無理難題を押し付けている。

この愛車、1995年のロシア製中古車である。
この車が来るまで、色んな人に頼んで、どうやったら外国人であるわたしたちにロシア車が買えるのか紆余曲折があった。
「外国人がロシア車をディーラーを通じないで買うのはとてもむづかしい。」
「まず、ダベーレンノスチ(委任状契約)をしなければならないが、そんなことをしてくれる人をさがすのは、到底無理だろう。」
「ガイ(交通警察)に届け出でをするときに、とてつもない賄賂をとられるか、あるいは相手にされないかどちらかだ」等など・・・・。
でも、そう言われると、お腹の虫がムズムズむずかって、どうしてもどうしてもロシア人が買っているやり方で買いたくなってしまうではないか。ロシア人に出来ることが、同じ人間である私たちにもできないわけがない!

普通、日本の駐在員の人たちはディーラーにすべてを委託して、日本車を買う。お金を出すだけで立派にロシアで車に乗れる。
ただし、こういう方法をとるともちろんのこと、高い。

大家さんや、89年からの友達イリューシャに聞いてみた。
だが、なかなか色よい返事はこない。大家のおじさんは子どもたちの学校への送り迎えに必要だということで、とても心配してくれている。
「とにかく、車っていうのは、走るってことが大切だ。それにブレーキをかけたらちゃんと止まること。あとはどうだっていい。そうだろう。へんへん。」
確かにそうではあるのだが・・・。
「整備してくれる専門家の友達がいるから、とにかく何とか走る車を見つけなきゃ。」
「できれば、どこも壊れてないほうがいいんですけど・・・」
「中古車を買うのなら、絶対に1990年製までの車だよ。塗装がいいんだ、それまでは・・・。なんせソビエト解体までのやつだからな。しかし、いいのを見つけるとなると難しいな。」

そりゃ、そうでしょう。1989年というとかなり前のこと。オンボロの可能性のほうが高そうだ。



それではと、ルイノックで元締めをしているリーナの夫セーラムに頼んでみると、
「2・3日待ってくれよ。ちょっくら探してみるからさ。」
と、なんだか頼もしいお言葉。

本当に2・3日したら、セーラムは車を見つけてきてくれた。大家のおじさんはだまされて走らない車をつかまされるのではないかと、躍起になって心配してくれている。
「いっしょにその車を見に行ってあげよう。」

そして、先週の火曜日、無事大家のおじさんのお許しも出た。95年製でもこれなら走るということか・・・。

さて、この愛車を我が物とするには、冒頭に書いたダベーレンノスチ(委任状契約)が必要である。
わがジグリは、前の持ち主もアルメニア人で外国人だったから、委任状契約を結んでいた。

委任状契約とは法的な(本来の?)所有者から、車の管理・修理・販売・用益など、車に関わる一切の権利と義務を委任するというものなのである。
この契約は地域の公証人役場で行われる。

なぜそんなことが必要なのかというと、ロシア・モスクワの居住権をもつモスクワ市民しか簡単には自動車は買えない。ところが、そのモスクワ市民が車をひたすらどこまでも自由に使ってくださって結構と、車に対する全ての権利を任するという複雑な方法をとって、委任されるほうは、自動車を買うのである。

と、いうわけで我がジグリは委任された人から、またまた委任されて車を自由に使っちゃうということになったわけである。もちろん、本来の(?)法的な所有者は会ったこともないし、見たこともない。

ただ、その委任契約の期間は3年が限定で、この11月24日には契約が一旦、切れてしまう。その時には、本来の(?)持ち主をどうにかして探し出して、さらに3年間の委任契約を結び直さなければならない。

そして、言わずとしれたこと・・・。わたしたちが日本に帰る時、このジグリのことを委任されたい人を見つけるより他はない。そして、売って帰るのだ!!



11日の日曜日、わが愛車はわたしたちを乗せて、ブヌコボ空港まで連れていってくれた。最高時速110キロまで出た!!
さすがは、ジグリ。

ただ、シートベルトをしようにも、おもいっきり力をいれて差し込もうとしてもバネが強すぎて、ピョンと飛び上がって戻ってきたり、時々、なんの拍子か、ドアのロックがかからなかったりするんですけど。

でも、走る!!から・・・・。


これから2年間、お世話になります。よろしくね。大切にしますから・・・。どうぞ、エンストを起こさないで頑張ってください。







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