11月19日(木)

11月15日、ロシアはIMF基金からの一方的返済期限引き延ばし期限が切れてしまった。経済は悪化の一方をたどっているとのニュースをよく耳にする。
昨日も、心臓外科専門の病院が資金難に苦しみ、運営が困難になってしまったといういかにも悲惨な様子がニュースで流れた。閉山を余儀なくされた炭鉱労働者が、この凍てつく冬のさ中、職もないまま放り出されてしまったとか、賃金遅配と不払いに苦しめられ、明日の生活もままならないなどなど・・・。

多分、日本でもあるいはまた、ロシアの経済悪化の知らせがニュースをにぎわすかも知れない。
しかし、わたしは言いたい!!

ちょっと待て!!


冷静に情勢を見ようではないか!

もちろん、この国の経済のどこかが狂っているのは確かだ。
だが、ほとんどのモスクワの人々は、信じられないくらいお金を粗末に使っている!!
昨日、お隣さんと一緒にお茶を飲んだ。
化粧品のねずみ講的販売に手を染めている。安いから試してみたらと、誘われた。
しかも、
「それは、ほんのジャラ銭で買えるものよ。」
と、来た。
ドゥニャンはネイル・リムーバーとリップ・スティックというロシア語を知らない。
子どもたちの唇は、モスクワの乾燥した気候と全市システム暖房のお蔭でひび割れてきている。どうしても買ってやらなくてはならない。
渡りに船とばかりに頼んでみたら、それが、1,600えん也。
ドゥニャンにとっては実に高い!!日本でメンソレータムのリップクリームは400円はしないだろう。マニュキュア消しだって300円程度で足りる。
高いではないか。決して安いとは言えない。どんな経済感覚でそれをメロチ(少額)と言えるのだ。

「モスクワの人々は、お金持ちですね。これを安いといえるのなら・・・。」
と、言ってみたら、
「昔(ペレストロイカ以前)は、もっと良かった。全て店にあるものは買えんですもの。」
とのたまう。
さもありなん。モスクワの店には何もなかったではないか。あるものしか買えなかった時代だってことをもう忘れたのだろうか。
「仕事だって皆が心配なくありつけたのよ。百パーセント失業というものはなかったのに・・・。今はどう?」
そうかもしれない。しかし、どんな風に仕事を選べたと言うのだ。
「今はどんな仕事をするか、考えなくてはならない時代になってしまった。どう思う?お金を得るために仕事を選ばなくてはならないなんて、どうかしてると思うわ。」
と、おっしゃる。
そんなこと、あたりまえのことだろう!!

「職場では、配給というものがあって、店に出ていないステキな外国製のコートや靴を買えたし、質のいいサラミ・ソーセージやハムがただみたいな値段で買えたのに・・・。わたしの押し入れにはいつも入りきれないくらいのおいしいものがドッサリ詰まっていたのよ。今では、考えないと買い物は出来ないし、どの店に安いものが売っているかを調べてからでないと買えやしないのよ。いままではドコヘ行っても同じ値段で売っていたんですからねえ。なんでも安かったわ。大きな白パンが30カペイカだったのよ。信じられる?」

「ええ、知ってますけれど、何を買うか、どれだけ買うか、自分では選べなかったのではないのでしょうか?!」

「そうかもしれないけど、コートは同じ物を15年も着られたのですよ。昔は・・・。今じゃあ、次の年には新しいものがいるようになる。」
いえいえ、ファッションが変って目移りするだけではありませんか。わたしの目には、ほとんどのモスクワの人々は信じられないほど上等のコートを着て、豊かな生活をなさっているように写るのですが・・・。(言いたいけど、言えないわたしのロシア語の貧しさよ。)



日本人のほとんどは、月々の給料の中で食費、光熱費、医療費、通信費、住居費そして税金を工面している。どんなものをどうやって安くうまく買うか、苦心惨澹の生活を強いられているのだ。
それは、ほとんどの資本主義の国で行われている庶民のささやかな日常であろう。

ここロシアでは、アパート代(広さは64平方メートル、キッチンと玄関そして2部屋付き)、水道代(冷・暖合わせて)、ラジオ受信料、アンテナ代そしてゴミ処理料、全て合わせて月、102ルーブル20カペイカ(800円程度)にしかならない。

その上、市内通話はすべて只!!どんなに電話を使ってもちっとも問題ではない。うちはご近所と親子電話になっているが、夜8時からのゴールデンタイムは、最低3時間は電話は通じないと考えていただいて差し支えない。(毎日!!!)日本でならどれだけの通信費が圧し掛かってくることだろう。

こんなに手厚い国の保護を受けているモスクワの人々が、税金を全く払っていないというのは言うまでもない。

ちなみにお隣の収入を聞いてみると、7000ルーブル(5万6千円)と、アルバイト代。月々10万円ほどである。

夏には、ダーチャ(夏のコッテージ)があって、冬のための野菜のマリネやジャムなどをどっさり作っておく。食料品と言っても買うのは、肉、魚、ソーセージそしてパン。パンはフランスパンほどの大きさで約20円である。

つくづくロシア人がうらやましい。
生活費にそんなにお金をかける必要がないのだ。
ロシア人は夏の間、ほとんどダーチャで農作業をして、休暇を過ごす。

そうそう、この間、びーびーと一緒にそりをして遊んだ子どものおとうさんは銀行勤めで、500ルーブルのかっこいいそりを買ってやったと言う。
「500ルーブルなんて、ほとんどただに等しいでしょう。」

オー、一体、どういう金銭感覚をしているのか。
ドゥニャンの貧しい頭脳を以ってしては理解に苦しむお言葉だったのである。

最後に、彼らは決してノーブイ・ルスキィではない!!なぜかと言うと、日々働かなくては食べて行けないのだそうである。


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