1999年2月15日(日)

とうとう我が家のマドンナにもガレージを借りた。 そこはガレージ街のようになっていて、10軒もの鉄の扉を持ったガレージの簡単な建物が、10棟ほど並んでいる。
その中は10畳ほど。
奥には地下室に続く鉄製のごついはしごのような階段がある。地下室は5畳ほどになっている。普通、ロシアの人々はこの地下室に冬越えのためのじゃがいもをためたり、玉ねぎを何十キロと保管しておく。

この地下室を借りるのに、7つ道具の大型スコップ。氷を割るための先っぽの尖ったもの。
そして、ウォトカが4本。
そこの雪かきや整地をしてくれる人、事務所の人などにわたすのが習い。
ヘンヘンも、もちろん、ガレージ兄弟の契りを結ぶために運んで飲んだ。



手の爪先が、泥や自動車のオイルで真っ黒になったモサイ男たちが、ヘンヘンの周りに集まって来る。どこから仕入れてきたのか、人参のサラダやパン、ビスケット。
それにサラミ・ソーセージ。
それが、ふだん見慣れたものと、ちぃっと違う。



「ウサギのサラミを食べないか。これはめったに食べられないぞ。」
両手を大きく上げて、
「こんなに大きなウサギだよ。」
「ウサギですか。えっ??。そんな大きいウサギがいるんですか。」
「そうさ、こんな大きな黒いウサギさ。」
「それって、もしかしてカンガルーのことですか。」
「そうだ、このウサギは黒い馬とも言う。」
と、いうわけで、ヘンヘンはドゥニャンが食べたことがない桜肉のサラミ・ソーセージを食べてきたのだ。


男たちのパーティは短い。あるだけのウォトカを数十分で飲みきってしまう。
兄弟の契りを結びにきた男たちは、皆、隣人のアミールのごとく、タタール人である。
タタール人はイスラム教徒であるから、豚の肉を食べないはずだ。
「タタールの人々は、アラーの神を信じているから、豚肉を食べないのでしょうね。」
と、ヘンヘンがたずねると、
「いや、本物のタタールは何でも食べる。ガァハハハ・・・・。旨いものはなんでも食うのだ。恐いものなぞない!!」



こうやって、ヘンヘンはそのパーティの間に、隠語とスラングをいっぱい仕入れて、家に帰ってきた。後で辞書で調べても載っていないような言葉を、これからは使えるくらいに・・・。どんなことを話していても、後ろにはそれがつく。
どうしても覚えてしまう。
ヘンヘンもとうとう、ストロングな男になった。


そして、それをドゥニャンも知っているのだ。
か弱い、しとやかな女性としては、赤面するのだが、我が夫はストロングなところを見せたくて、ドゥニャンに教えてしまうわけだ。


まあ、仕方がございません・・・。夫の好きななんとやら。ドゥニャンもお付き合いさせていただきます。



隣りのアミールは、やっぱり、毎日10分ずつくらい、顔を見せる。
友達のためだと二日酔い冷ましの向かい酒のウォトカを100ミリグラム所望しに来た。
明けてないウォトカがあったので、そのまま1本渡すと、
「後で残りは返す。ありがとうよ。」
と、言って、持って行った。
ところが、コーヒーをうちに飲みに来いと言われて、となりへ行ったら、少し少なくなったウォトカが冷蔵庫に入っている。
「これは後で、一緒に使おう。いいな。」
と、返してくれなかった。
鬼瓦のようなアミールの顔には、笑顔が満面にたたえられていた。

アミールは180有cmも身長のある巨漢である。体重は95キロとか言っていた。
ストロングな男たちは堅気でもあるが、斜めにも生きている。


素敵な男たちにトースト(乾杯)!!
でも、男たちは乾杯とは言わない。
グビィっとやるのだ。

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