昼からは、小さな町の小学校を借りての分科会があった。
テーマによって20名ずつくらいのグループに分かれて、発表と質疑応答をするわけだが、ドゥニャンたちにはまったくもって関係なし。
だが、なんで一行に随行しなくてはいけないかというと、食事がその分科会の会場で出されるからである。(そうでないと、田舎のことゆえ、何も食べることが出来なくなるのだ。)
小学校の食堂で昼食が出された。
肉の入っていないクバン地方のボルシチにメインはカツレツ。サラダがつく。
ここではモスクワ地方のようにビーツを多用しないらしい。
ここは農業地帯。野菜がとても美味しい。ナスを薄く切って油で揚げたものにニンニク入りのマヨネーズをつけてあるのも美味しいし、スライスしただけのトマトも甘くておいしい。
とにかく肉より野菜。
モスクワの野菜も濃密で美味しいと思うのだが、ここクバン地方のは完熟と言う言葉ぴったりの味わいのある野菜たちが出てくる。ボルシチも脂っこくなくサラッとしていて、甘い。
ああ、そうだ。
食事があまりにも美味しくって印象的だったから、食べることを先に書いてしまったが、実はこの小学校はコサックの教育をする特別学校だったのだ。
コサックと言うのは古くは皇帝の直属国境警備隊員のことをいう。そしてその末裔が今でも自分たちはコサックであるということを誇りに思っているのである。
学会の中心にはクバン大学の助教授でもあり、クラスノダール地方副知事、しかもコサックの頭領でもあるグローモフさんが古い伝統的なコサックの礼服を着て、参加していた。
黒い重そうなフロックコートに胸に弾薬を詰めた筒がならんでいる。そして腰には中東からの剣を帯剣している。
頭には上が広がった四角い毛皮の帽子。
黒いブーツを履き、いかにも勇敢な感じがする。
この学校ではコサックダンスを見せてもらった。
女の子達は金モールの飾りのついた黒いワンピースを着ている。男の子達はあのコサックダンスに付き物のルバーシカ(シャツ)を着て、女性を誘導しながら、足で独特のリズムを取る。蹴る、引っかける、床を鳴らす。
コサック音楽と共に軽やかに子どもたちは移動していく。
最後に手を組んで足を蹴り上げながら、床をまわるあのダンスも披露してくれた。
コサックの民は昔から自由で果敢な民であったと言う。
それに因んで小学校の校則というのが入り口に掲げてあった。
1.先生の権利:先生は自主的に教えると言う権利を持つ。つまりそれは教科書、副読本にいたるまで、自分で選択する権利を有する。
先生の良識と権限において、教えることを自分で選択して良いという最高の権利をここの先生たちは保障されているわけである。
2.親の権利:親は学校で自分の子どもに不都合があった時、先生と話し合いをしたり、その他父兄と話し合いを申し出る権利を持つ。
3.子どもの権利:他の子どもたち或いは教師の暴挙があった場合、ただちに文句を言える権利を持つ。子どもの尊厳が認められないようなことをされた時にも拒否が出来る。
この学校は、子どもの権利条約に批准していなくても、ずっと以前から子どもの権利を確実に守って来たのである。
自主的でなんと立派な取り決めであろうか。
今の日本の学校でこれが教えられていたら・・・と、思わずにはいられなかった。