1999年9月23日(水)

一行の人々がシェルビナをたたえ、学術的議論をしている時、ドゥニャンたちは手持ちぶさたである。それで子どもたちを連れて、学校の外へ出てみた。

その町は本当にロシアの片田舎である。
モスクワで見るような高層巨大住宅がなく、全て一軒家である。
それぞれ敷地は80坪くらいはあろうか。
煉瓦作りの家あり、木造家屋があったりと、意匠を凝らしている。
家の前にはいりくちに入るまでにぶどう棚がある。これは自家製の葡萄酒を作るためのぶどうであるという。
あひるを飼っている家あり、ニワトリを飼っている庭あり。
庭にはきれいな花が色とりどりだ。

おばあさんたちは日向ぼっこを兼ねて、ひまわりの種を売っていたり、自家製のキャンディを売っていたりする。

何にもすることがないので、ひまわりの種を買うことにした。
すると、自家製のキャンディを売っているおばあさんが、キャンディを記念にあげようと言う。いや、悪いから・・・と、断ろうとすると、
「なぁにが・・悪いことなんてあるもんかね。わかいもんに遠慮はいらん。」
と、言うようなことをいう。
しかし、歯が1本きりしか生えていないので、さ行の音が全然聞き取れない。
ロシア語にはさ行の他にシャ、シュ、ショ、シチャ、シチュ、シチョの歯を必要とする音がある。その全てがあいまいに歯の間に抜けてしまって何を言っているのかサッパリ分からない。
それで、となりに座っているおばあさんがやおら、通訳を買ってでてくれるのである。

「子どもなのにロシア語が分かっていてエライ!」
と、盛んに褒めてくれる。上の娘のことを褒めているのかとおもいきや。
ドゥニャンのことを小さなガキと思い込んでいる節がある。
「あの〜〜。わたし、この二人の母親なんですけど・・・。」
「それはマラジェーツ!!(すごい)」
本気にしているのかいないのか。ドゥニャンの身長の低さが恨めしい。

「アンタにもキャンディを一本あげるよ。」
違うっつうに・・・。

学校を終えた子どもたちが自動車のあまり通らない道路で三々五々遊んでいる。
おしまいにはドゥニャンと二人の娘たちの後ろに行列を作って歩いている。キャンディをくれたおばあさんの孫娘のナースチャが、まるで自分に一番の権利があると言わんばかりに、他の子どもたちを押しのけて近くの公園への観光案内を引き受けてくれた。
小さな3歳くらいの妹ダーシャを連れて・・。。

学校からすぐ行ったところに、公園があって、ポニーやキツネ、たぬき、カモシカ、鴨などを飼っている。
下の娘とナースチャたちは件のおばあさんたちから買ったひまわりの種をやりまくっている。足りなくなったと言っては、ナースチャとびーびーを先頭にまたおばあさんのところに買いに行くのである。

モスクワと違ってここは日本人いや外国人(いやいやモンゴロイドの顔を持つ人間)を見ることが稀なのかもしれない。
だから、人々はなんだかだと、いろいろやってくる。
こっちは動物園の動物を見ているのに、それを見ている私たちを見ているのだ。

男の子達がやってきてポニーに乗せてあげるよ。といってくれた。
下の娘は大喜び。5ルーブル取られたけど、今度、ドゥニャンが乗ると、言ったら、
「お金なんて要らないよ。」
と、同じ子どものお言葉。
どっちがホントなのか・・・。

でもポニーはおとなしく広い公園をぐるりと散歩。
ポッコポッコ揺られて、ニコニコ。

最後に動物園で働いているナースチャのお母さんが出てきて、おばあさんが娘たちへのお土産にと、キャンディを特別に作ってくれたと、沢山まだ暖かいキャンディを持って来てくれた。
なつかしいべっ甲飴の味がする。べっ甲飴よりもうちょっと素朴かな。

ナースチャのお母さんの仕事の同僚が動物園で育てた花だよ。と、ステキな花束をくれた。

本当に楽しい秋の行楽だった。

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