2000年2月2日(水)

学生の頃、アルバイトをしている時に、階段から転げ落ちて肘の骨を折るという大怪我をした。その後遺症で寒い頃になると、重苦しく痛む。 ド〜ンと重い痛みが年月をかけ、最近では背中の中ほどまでも伝わってくるようになった。 それは苦しい痛みである。

どうしたら、この痛みから逃れられるのか。
大家さんのアルベルト・イヴァーノヴィッチに相談してみた。
彼のいとこアナトーリィ・アナトーリエヴィッチはサナトリウムでセラピストをしながら、患者さんのマッサージに当たっているという。

ということで、2週間前から約1時間半ほどかけてそのサナトリウムへ行く事になった。
マッサージというからには全身を心地よく揉み解してくれるのだろうと思って、嬉しくその先生に会いに行った。

「どうしたんですか。」
「背中が痛くってたまらないのです。それに左の腕がいつも重い。」
アナトーリィ・アナトーリエヴィッチは、痛いという所に触っていた。
「これは左肘を骨折した事がありますね。それに背骨も強く打っている。」
「いやぁ。背骨が打った記憶がないのですが・・・。」
「それは変だなぁ。2つの背骨の胸骨に当たる所を打っているはずだ。」
多分、階段からまっさかさまに落ちたその時に背骨がズレたのかもしれない。或いは中学校の時に、体操部の人達が空中ばくてん(手を使わないでクルリと回転する技)をやっているのを見て、あんなに簡単にやっているなら、弾みを付けたら私にだってやれると思って試してみた。その時にも頭からまっさかさまに落ちて踏み台の角で嫌というほど頭頂部を打ち付け、でっかいタンコブを作った事があったが、あの時の古傷が痛んでいるとでも言うのだろうか。

とにかく痛い。苦しい。
特にこの頃年月とともにこの痛さが身に沁みて来ていた。

「それでは、始めようか。」
と、蜂蜜を出して来た。
ホニャラ〜〜???
一体どうしたんだろうと、思うと、点々点と、背中にその蜂蜜を付けていく。
そしてペタペタペタと手のひらでそれを触るだけなのだ。最初はその引っ張られ具合が気持ちよくてなかなか良いなぁと、リラックスしていたのだが、それが続くと結構痛い。
「痛くなったら、言うんだよ。」
「はい。」
「もう痛いだろう。」
日本でのマッサージの事を考えると、この痛みぐらいは辛抱しなければならないのかもしれない。
「いや、大丈夫です。続けて下さい。」
ペタペタペタペタ。
とにかくペタペタ。背中、手、足。全部ペタペタ。

「さて、今日はもうお終い。」
身体に付いていた蜂蜜をぬれたタオルでぬぐってすぐに服を来なさいと言われた。
こんなことで効くのかなぁと、少々心配である。

ところが、帰り道、歩いている時にあくびが連発する。その上、メトロの心地よい揺れでぐっすり寝入ってしまう。

ちょうど先週の火曜日、このマッサージは3回目を迎えた。
「今日はちょっと痛い事をするよ。」
「はい??」
「注射を受けた事があるかね。」
「はい。もちろんありますよ。」
「じゃあ、大丈夫だな。」
「えっ?でもあれは嫌いですけど・・・」
「そうかい。」
と、言って、机の上に置いてある蜜蜂の巣箱の方に行った。

「ほらほら、蜂ちゃんたちや、静かに静かに・・・・。」
「さぁ、落ち着いて。オッ!オイ、一体何をするんだ。一匹でいいんだよ。こっちへおいで。」
なんて蜂に向かってお話をしている。
すると、一匹の蜂をピンセットで挟んで私の方に向かってくる。

「さぁ、始めようか。こころの準備はいいかな。」

ドヒェ〜。私は蜂に刺される運命なのか。
背中にルゴールのようなもので消毒をして、冷たいと思った途端、


イテェ!!ああ、痛い!!!


じ〜〜んとする。背中に来るこの痛み。

なんとも言えないほど効く。
「ウェ〜、ニャオ〜。」
と、訳の分からない音が口を衝いて出てくる。

背中の痛い部分に手を置いて優しくして下さるのだが、ちっとも優しくない。
あの蜜蜂という奴はあんなに痛く刺すものか・・・。

「あとでジンマシンが出るようだったら、日本のサケか或いは赤の葡萄酒を飲んで寝るんだよ。」
この言葉はしっかり聞いておいた。

家に帰って、まだジンマシンは出ていなかったが、ヘンヘンの美味しい葡萄酒を拝借して早速飲んだ。


でも、このマッサージ、回を重ねるにつれ、背中の痛みと腕の鈍痛はほとんどなくなって来ている。(ただし、蜂に刺された後のかゆみはかなり長い間残る。)
素晴らしい効果を奏している。
どうしても逃れられなかった背骨の痛み。これもなくなって、首も充分回るようになった。

このセラピーはとても目覚しい効果を示す。


これだけでもロシアに来た値打ちがあるというものである。

次へ
モスクワ日記の表紙へ
ホームへ戻る