2000年2月4日(木)

ここロシアでアルバイトをする事になった。
東洋学研究所という大学で日本語を教える事になったのだ。

2月4日には副学長先生との正式の契約にも行って来た。
それに給料の振り込みの事についても聞いて来た。
給料は銀行振込。
契約書には最終学歴、生年月日、住所、氏名、職歴などを書いてそれを副学長先生のところに持っていき、サインをしてもらうという事だった。
だからそれは簡単に終わった。

それより、その前に時間割を決めに行った時のことである。
始めて、この大学の門をくぐった私。

入り口であらかじめいわれていた事務室のナンバーを言い、どこにあるかと警備員のおじさんに聞いた。
迷路のように入り組んだ廊下の奥の奥のほうにある。
耳で聞いただけではわからなかった。
おじさんはわざわざ、ついて来て教えて下さった。

その事務室に入った途端、
「学生はこの部屋に許可なくしてはいることはできません!」
と、頭ごなしに言われた。

「いえ、あの〜。ラスピサーニエ(時間割を決める事)に来たんですが・・・。」
「廊下に決まっている時間割は掲示してあります。あなたは研究生なのそれとも大学院生なの?即座に出て行きなさい。学生がここに沢山出入りすると仕事ができなくなります。ここは先生たちの事務処理をする部屋ですから・・・。」

確かにドゥニャンはチビである。毛糸の帽子をかぶって、毛糸の手袋を嵌めて、その上、ちょっと大き目のスキー・ウェアを着ている。
あんまり恰好良くはロシアの人達にも、いや全世界の人達にも見えないのだろう。

でも、齢何十年を迎えているこの私を学生だと一蹴する事務の人達は困ったものだ。

これが美術館などだと得をする。
もうドゥニャンのことを学生だと決めてかかって、パスポートをパラリと見て、学生料金をあっちから勝手に言ってくれるからだ。
学生料金は8ルーブル(32円)。これで世界の財宝を見られる。
その点、ヘンヘンは鼻の下にむさ苦しい髭を蓄えているので、ここで働いているとみなされる。
だから20ルーブル(80円)。

さて、事務室でのハナシ。
「まだ、まごまご居るの??あなたは・・・。さっさと出て行きなさい。それともロシア語がわからないの?」
と、聞かれてしまう。
「いえ、わかります。」
「それなら!」
違う。相手が自分の思った事を信じ込んでしまって、ドゥニャンに釈明するすきも、説明する間も与えてくれていないのだ。ドアの方を指差して、親切にもドゥニャンを追い出したいのであろうが、違うのだ!違う、違う!!

「あの〜。今度、ここで日本語を教える事になっているヨシダですが・・・。」
「アラ?」
ドゥニャンの恰好を点検するようにもう一度見る。
「そうでしたか。ガスパジン・ヨシダ。聞いていますよ。」

そうでしょう。人を疑う前に自分を疑え!
(これはちょっと違うかもしれないが・・・。)
もっと勤め人らしい恰好をしてきたら良かったと、後悔する。

「こちらに来て下さい。」
と、自分の机を指す。
「月曜日の9時。火曜日、金曜日の11時から2時間ずつ授業していただきますけど、いかがですか。」
「どちらかというと、月曜日も11時からの方が私にとっては都合がいいのですが・・・。」
「あぁ。いいですよ。月曜日も11時から教室は空いています。それでは、ガスパジン・ヨシダ。これであなたの時間割が決まりました。わからない事があったら、なんでも私に聞きに来て下さい。何も遠慮は要りません。」
ニコニコ顔である。

あの学生に対する態度とは違うじゃぁないか。
ロシア人はあまりこうした自分の思い違いや間違いは謝らないが、今回も謝っては貰わなかったなぁ。

次へ
モスクワ日記の表紙へ
ホームへ戻る