2000年3月10日(木)

今年も3月8日の国際婦人デーが終わった。
去年も書いた通り、この日は女性を祝うロシアの大きなお祭りの一つすらある。
この日は休日となり、学校の女性の先生方にはチョコレートや花束を生徒からプレゼントしたり、知り合いの女性達に「3月8日、おめでとうございます!!今年もあなたにとって素敵な実り多い一年になりますように・・・。」
と、電話をしたり、カードを送ったりする。

大切な女性には豪勢な花束や香水、洋服などが男性からプレゼントされる。
私の学生達も、お母さんや姉妹達にプレゼントを贈ったり、お手伝いをしたりする。

2年生のサーシャは19歳の学生(男性)。おとなしい性格で、授業中でも恥ずかしいのか、ドゥニャンの顔も見ようともしない。
そして、口数少なく(!!)、出来るだけ簡潔な言葉で質問や話の内容に応えてくる。
「サーシャ、昨日はバシモイ・マルタ(国際婦人デー)でしたよね。お母さんに何か贈り物をしましたか。」
「はい。」
「どんなものを贈ったの?」
「花。」
「何のお花でしたか。」
「ミモザ。」
「なにか他にプレゼントをあげましたか。」
「いいえ。」
「じゃぁ、それだけなの?」
「いいえ。」
「それでは、何をお母さんにしてあげたのかな?」
「お手伝いです。」
「お手伝いってどんな事をするの?」
「日本語でわかりません。」
「ロシア語で言ってみてよ。」
「床を拭いた。食器を洗った。」(これ全部ロシア語)
「床を掃除したわけね。それにお茶碗を洗ってあげたの?」
「そう。」
「お母さんは喜んでいましたか。」
「はい。」

これが会話の授業か??!
ドゥニャンはこれには参っている。とってもとってもシャイな若者である。
とてつもなくシャイである。日本にお父さんの仕事の都合で4年間も滞在していたが、ほとんど日本語を話せない。
いや、話そうとしないのか・・・。

「あのねぇ。サーシャ、一つだけお願いがあるんだけど・・・。外国語の会話って言うのはね。間違ってもいいからいっぱいイッパイ話すことで上達するんですよ。だから、無理してでも喋らなくっちゃ。」
「はい。」
「ねぇ、それでお終い?」
「はい。」
「私の言うことは大体わかってる?」
「いいえ。」
「えー!!全然、わかってないわけ?」
「少し・・・」

俯いているサーシャよ。出来ればこっちを見て下さい。そしてドゥニャンのおしゃべりな口を眺めて、せめて日本語の発音の仕方を覚えて下さい。

この授業は他にもう一人、リーザが出てくる。
リーザも似たり寄ったり。


他の授業に関しては充分面白いし手応えもある。

一年生のセリョージャとクシューシャは中国語の学生とアラビア語の学生とともに、いつもドゥニャンと授業が終わった後、食事に行くくらい楽しい仲間である。
一年生だから、ボキャボラリーはかぎられてはいるが、それを充分駆使しながら、食事の後のお茶の時間を楽しむ。ドゥニャンの仲良しグループと言っても言いくらいである。

会話の中で出て来た漢字をお浚いしていて、「3重丸」をあげたら、皆面白がって、
「これな〜に?」って、反応がある。
彼らのノートを見ると、大学の先生でもいちいち宿題に成績を付けているのがわかったから、ドゥニャンもそれを見習って丸を上げてみたのだが・・・。
「花丸」をあがたら、ニタニタしていた。
子供っぽいと思ったのかもしれない。

ただ、皆はこの丸の数がいくつか、気にしている所がおもしろい。
勢いで4重丸になったり、2重丸になったりするだけなのに。


と、いうわけで、サーシャにも丸をあげたのだが、
サーシャは黙ってノートを受け取り、そっとそれを閉じただけだった。

ここにサーシャの容貌を書いて置こう。
栗色の髪は少しだけウェーブして、それを七三に分けている。
目は水色と灰色の間。常に伏し目がちである。
色が特に白く、身長は190センチはあろうか。
口は小さく薄いピンク色で、いつもしっかりと結ばれている。
鼻に関しては高くもなく、低くもない。
それに鼻の骨が途中で突き出たりしていない。
日本人の感覚から言うと、ハンサムだろう。
しかし、きっちりとカッターのボタンは一番上までかけられ、コートも決して着崩すということはない。真面目一点張りの男である。
授業は一分として遅れてこない(彼だけだ!そんなに真面目な学生は・・・)。
答えられることは、必ず答えるが上述の通り。

んん〜〜〜。手強いぞ!彼は・・・。
こんな彼の贈り物をお母さんはとっても喜んだのに違いない。(だって、表現してくれているんだもん!)

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