気分、それは全てを采配する第一の条件であることが、昨日突如としてわたしにはわかった。
いつものようにルィノックへ行く。
いつものように買い物をする。
1キロのキュウリを買う。1キロのトマトを買う。630グラムのぶどうに、2個(360グラム)のりんごを買う。
全く普段通りである。
ルィノックの秤もいい加減なのは、当たり前の事なのだ。
630グラムであろうが640グラムであろうがたいして変わりはない。それに彼らは料金を計算する時、630グラムなら、650グラムに1キロあたりの料金をかける。
それもいつもの談である。
ところが!
どうも、異様に気になるのである。彼らのいい加減さ。
なんで??!私が1ルーブル多く払わなくちゃいけないわけ??
ちりも積もれば山となる。彼らは沢山の得をしちゃってるんだろうな。
やだな。
頭にくるな。
いつもなら気にならなくて、一つのお店でドっと買い物をしてしまうドゥニャンなのに、色んな店に行って、値段をいちいち確かめて、そのオジサンやオバサンたちが騙しそうな顔をしているかどうか覗き込んでみる。そうこうするうちにルィノックを2周はしてしまっていた。
それに野菜を買う時も、今日に限っていちいち真剣な目で秤を見る。電卓を叩いているオバサンやオジサンの手を見る。
「それって1ルーブル多く言ってんじゃないの!」
と、いちゃもんを付ける。
ルィノックの帰りにロースト・チキンやさんに行った。
そこでチキンを一羽買った。
「チキンを棒からはずした時に、ちょっとだけ形が崩れたんだけど、いいかな??」
「いいわよ。」
ルィノックで真剣勝負をしてしまったドゥニャンはここではどうでもいいという気持ちになっていた。
すると、家へ帰って開けてみると・・・・。
チキンは形が残っておらず、グチャグチャの状態。売れ残りだからか、焼け過ぎて中はカサカサ。
がっかりする。
こんな時、店の人の良識に頼らず、やっぱり自分で見て確かめなければならない。
ここはニホンではないのだから・・・。
くそー!!おもしろくない!!
美味しくないチキンを食べさせられたドゥニャンはやたら怒りが頭に充満してくる。
「なんだかだって言ったってね。度量衡もしっかりしていない国は二等国よ。だめなのよ。こんな国は世界には通用しない!!」
「いや、フランスでもパンを買う時に細かい注意をしないといけないって聞いてたけどなぁ。」
「フンだ。フランスも2等国なんだよ。それじゃ!」
「いや、メンタリティの違いだけじゃないの??」
「あ〜、気分悪いったら、ありゃしない。ルィノックがいい加減でどこか怪しいのは、やっぱりどうしても怪しいからなんだ!」
実は、うちのマドンナのカーステレオのセットが、盗まれてしまっていたのだ。
「マドンナちゃんのカーステレオが盗まれた。後ろの席のところにスピーカーのあったところにぼっかり二つ口が開いてるんだ。マドンナちゃんのステレオの所もだよ。クヤシイなぁ。ちゃんと鍵はかけておいたはずなのに、朝おきて行ってみたらドアの鍵が開いてる
んだよ。なんでこんな事になるんだよ!クヤシイ!」
と、ヘンヘン。ドゥニャンは比較的、冷静にそれには対処していた。
「まあいいんじゃない?仕方ないの。盗られたものはもどってこないんだから、あきらめるより他ないわね。新しいのを買うより他ないじゃない。」
なんて、とってもしおらしいことを言っていたし、思っていたはずだった。
ところが、内心、とっても悔しい思いをしていたらしい。
それがルィノックでの神経質さとなって現われて、その自分の神経質さにくたびれて、どうしようもないチキンを買う羽目になったのである。
昨日はなんとなく、ムードとしては最悪の日だった。
(ロシアにも嫌いな所がある!!)
ドゥニャンの結論である。