2000年6月29日(火)

今日はここモスクワでの最後の大物バレエ鑑賞と思ってタガンカ劇場へ出かけた。
マリインスキーのスターたちによる「ルドルフ・ヌレエフ記念公演。」
出演予定は、ルジマートフ、ロパートキナ、マハリナ、ヴォロチコーヴァらなので、4月に見た「神と結婚した男」の再現なるか!と大いに期待しながら、地下鉄に乗った。

タガンカ劇場の入り口で出演者を書いたコピーを渡される。こんなことかつてないことである。出演者を書いたプログラムは普通、20ルーブルから50ルーブルで劇場の中で売り出されている。
劇場内に入るが、プログラムは売られていない。その上、出演者に関する資料などもさっぱり見当たらない。それも観劇の楽しみとしていつも買うことにしているのだが、劇場中をさ迷い歩くが、ない。

それで子どもたちとヘンヘンと仕方なく入り口近くにあるベンチを陣取って、まずは出演者を検討してみると・・・・。

なんと!!

全く違ったキャストではないか!!


冗談じゃない!これはペテンだ!
どれほどルジマートフ、ロパートキナを見ることを楽しみにしていたことか・・・。
これがドゥニャンたちモスクワでの最後の大物バレエ鑑賞になるはずなのに!

キャスト表には、功労芸術家、人民芸術家と冠せられた人々の名前が並ぶが、その人たちを私達は知らなかった。
(家へ帰って調べてみても、ヴァレリィ・ミハイロフスキィは人民芸術家らしいが、ナテラ・トリアシヴィリ、ロマン・ジルキンなどの名前は最新のバレエ事典にも載っていない。今回は「マリインスキィのスターたち」と題した公演であったはずなのに、ヴァレリィ・ミハイロフスキィはエイフマン劇場で活躍していたダンサーだ。)

それに加えて、予定になかったマリインスキー劇場の音楽家たちのカルテットが演奏されるらしい。



さて、公演が始まった。

始まりのベルもなしに舞台は暗転。
男性ダンサーが踊りはじめた。今日、急に代役になりましたとばかりに、役どころに入りこめていない。そればかりか、片足を上げてゆっくりと回る時にすら軸足がグラグラしている。
もう見ていられない。

その後、女性のヌレエフに関する説明のナレーションがあったのだが、それもロシアでは珍しく原稿を見てのナレーション。

そしてバラライカ、ガルモーシカ(アコーディオンに似た楽器)、コントラバスとバンジョーに似た楽器によるロシア民俗音楽の演奏と相成るが惨澹たる物。
音が前に出てこないし、まず音楽としての流れがない。その上、マイクを楽器のすぐそばに置いて使っているため音が完全に割れていた。とにかく演奏しているといった風情。
次第にしらけてくる。
それが一曲終わると、今度はショパンのワルツ7番のテープが突然流れて来た。ここでパ・ド・ドゥとなったが、必死の形相のバレエリーナ。もうこの役を果たすのに精一杯ですというのが、舞台から滲み出てくる。(ただ、パ・ド・ブレはとっても上手だったけど。)

客たちも白けているのが分かる。

舞台が始まってから30分経つか経たないかで、突然客席が明るくなり、休憩になったらしい。誰もこれが休憩であることが分からなかったが、舞台からは何も出てこないし、どうも休憩らしいということで、客はちょっとずつ席を立ちはじめる。

そして第二部。
はじめにピアニストの苦悩を表わしたバレエがあるが、何だったんだろう。
まぁ、バレエらしいバレエは見せてもらったのだが・・・。
それでも白けた心はそう簡単には上向いてはくれない。

ヌレエフの自伝の長い朗読が入り、その後、例のカルテット。曲目はバラバラ、ドゥニャンたちが最後に聞いたのはカルメン。
あ〜〜〜。これが、それかい。
カルメンかい。

あまりにも白けたので、帰ることにする。
ちょうど明日はダンチェンコ劇場で本物のカルメンを見ることになっていたので、口直しにもなるし。


出口を出ると、どうもドゥニャンたちのように途中で席を立った人たちがたむろしている。主催者に一言文句を言おうとしているのかしら。

俄然、そうなると興味が湧いてくる。
どんな風に皆文句をいうのかしら。だって、客席は拍手などはとても少なく白けが伝わって来て、時には低い嘲笑まで混じっていたが、誰も声を上げてまでのブーイングをする人はいなかった。

どんな喧嘩がおこるかな???
「ちょっと、待って。見てくるから。」
と、人のど真ん中に入っていくドゥニャン。

人々は関係者用の出入り口の扉をドンドンと叩いている。
ヤレヤレ!!
心の中で快哉する。

どんな事をいうのかな?扉は開けられるかな?
いやぁ。こっちの方が見物である。背の高いロシア人の中にチョコチョコとお邪魔して一番前の方に入っていってみた。
「お金を返せ!」
「いや、お金はもうないんだ。」
その前にどうも払い戻しをしていたらしい。
また扉がガンガンと叩かれる。ふふ〜〜ん。
「労働組合が主催しているのに、こんなだまし方ってあるのか!!早くお金を返してくれ!!」






ドアが素直に開いたではないか。

一番始めに返してもらった人の後に、100ルーブル札の束を持った人がドゥニャンの所へ来た。
「チケットは?」
「ほら、これこれ!!」
ヘンヘンが三枚の券を差し出す。
〆て1050ルーブル(4200円)なり。

会場を出る時、客席の後ろの方で、チケットをくれと言われたので、どうせいらないチケットだからとドゥニャンはあげてしまったが、あれは払い戻しを知っての商売心だったのだろう。
あげて損した。
しかし、なんとしたたかな奴なんだ。(若い女性だった。)

なつめはその人にチケットをくれと頼まれたが、断った。
エライ!!ドゥニャンよりよっぽど偉い。

まぁ。350ルーブルは損をしたけれど・・・。いいかあのパ・ド・ブレを見たから。
けど、ドゥニャンとしては、もうちょっと押し合い圧し合いの押し問答があってもよかったかな。割合と良心的にすんなりと事が運んでちょっとがっかり。

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