1999年12月4日(土)
指揮:パーヴェル・サローキン
台本:ヴラジーミル・ヴァシーリエフ
演出:ヴラジーミル・ヴァシーリエフ
作曲:ドミトリー・ショスタコーヴィチ
舞台・衣装:ヴィクトル&ラファエル・ヴォリスキー
原作:プーシキン『僧侶とその使用人バルダの物語』
プーシキン生誕200年を記念して作られたバレエの一つ。1999年6月9日初演だが、 ここまで来るのにいろいろあった。 1933年に作家ミハイル・ツェハノフスキー がプーシキンの詩に基づいてアニメ映画を作ろうと ショスタコーヴィチに曲を依頼したが、なかなか仕事がはかどらず、完成間近にフィルムも曲も火事 で焼けてしまった。作曲家の死後、草稿に基づいて部分的に演奏されたりバレエ化されもしたが、1999年に 弟子であるビベルガンにより一つのバレエとして復元・編集され、ヴァシーリエフが演出して世にでた。
けちな僧侶が使用人に賃金の支払をけちったためにやっつけられるという社会風刺に富む ロシア民話が原話。それに基づくプーシキンの詩も検閲にかからないよう細心の工夫をしたにもかかわらず、詩人の存命中は公刊 されなかった。
このバレエははじまる前にまず驚く。劇場の灯は消されても、オーケストラボックスが空っぽ。 するとスピーカーの方から、かすかに木管楽器のがさがさした忙しい節が聞こえてくる。 あれ、生演奏じゃないの?と思った瞬間に幕が開き、謎がとける。舞台の上にはサーカスのような 半円系のサークルがあり、カラフルな衣装をつけて奥の方でこちらを向いて座ってるのが指揮者。その手前に陣取る オケの団員も全員が帽子と衣装をつけており、登場人物にもなりながら舞台上で演奏するという趣向。
そこはバザールで商人やジプシーなどあやしげな人々が行き来する。
買い物に来た僧侶、その妻子が登場。今回はステパネンコ、アンドリエンコで、この
二人のボリショイの華がお腹やお尻や胸にいっぱい詰め物をして、田舎くさーい太ったおばさんと
ダサーイねえちゃんを演じている。バブローフもいかにも腹黒いお坊さんという容貌。
家に帰って、退屈な妻と娘は、長持の上にすわって口をもごもご。この食べかたのなんと うまいこと。「つまんなーい。何か面白い事を誰かもってきてー。」とそこへ僧侶がどこかおつむの ネジが一本ぬけているような使用人バルダーを連れて帰ってくる。二人は大喜び。バルダーを中央に三人で ピルエット。
4人分の食料を食べるが7人分の働きをするのに、一年につき僧侶のおでこに デコピン三発がバルダーへの報酬の条件だったのでした。 僧侶は、よく働き、妻や娘に好かれるバルダーのことが気に入らず、デコピンを何とか逃れられないか と妻に相談します。「絶対にできない仕事をいいつければいいのよ。鬼のところへ行って、 彼らから滞納のある年貢をもらってこさせれば?」
バルダーは鬼の住む海へ行き、縄を結います。そしてその端を海につけておいたので、振動がつたわり、
鬼は「海をもっていかれてしまう」と勘違いしてさっそく年貢を納めることに同意しました。
手柄をたてたバルダーは僧侶の家へ向かいますが、帰ってくるとは思わなかったバルダーをみて
僧侶は飛び上がって驚き、妻の後ろにかくれるも、見つかってしまいました。約束とおり、デコピン。
1発目で天井まで飛び上がり、2発目で言葉をなくし、3発目で正気を失ってしまいました。
バルダーは一言「けちっちゃいけないよ。」
めでたしめでたし。
全幕が明るく楽しく、そして機知と諧謔でいっぱいのバレエ劇。ステパネンコとアンドリエンコ はバルダーをとりあう場面で、しばしば二人が同時に舞台の両袖から出て来ては ジュテをしてすれ違う場面があり、どちらを見ればよいのやら。さらに岩田を中央に三人でピルエットをする ところも見所。誰に目をやればいいのやら。ステパネンコはこれで踊れるの?というようなブーツながら、さすが軸をずらさないし、岩田も振りの大きく早い回転で迫力満点。 他に、新人ガリャーチェヴァは子鬼の役を可愛く演じていた。
ゴーゴリの風刺劇のようであり、馬鹿にみえるが実は賢いバルダーがこの出し物の主役。大物がいっぱいの 舞台だが、その大役をキャラクターダンサーがぴったりの岩田は堂々と演じ、ひきしまったものにしていた。
スチェパネンコは肉襦袢を着ての熱演である。彼女が僧の妻、アンドリエンコ扮する娘の母親役をしていたのだ。彼女の生き生きと美しいキトリを見た私たちの目にはいささか勿体無いようなきがしないでもない。
でも彼女はこの役柄をとても楽しんでいたのではないだろうか。
おばさんになって、バルダーを娘と張り合い、年のせいで少し弱みを持つ・・・そんなちょっと3枚目の役柄を。
今度は是非とも美しい彼女ならではのエギナを見たいものである。
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