ボリショイ劇場 ベスソンニッツァ


1999年12月4日(土)

配役
詩人:ヤン・ゴドフスキー、女性/女神:アナスタシーア・ ヤツェンコ、 黒い男/デーモン:A.ヴォイチューク

指揮:ヴラジーミル・アンドロポフ

台本:アレクサンドラ・メドヴェージェヴァ

演出:アレクサンドル・ペトゥホーフ

作曲:セルゲイ・ジューコフ

舞台:セルゲイ・バルヒン

衣装:タチアナ・バルヒナ


プーシキンの「眠れない夜に編まれた詩」をモチーフとして作られ、1999年6月9日に初演された バレエ。「詩人の登場」「若さ」「舞踏会」「山の娘」「秋」「悪霊」「不死」の7場からなる。

舞台は詩人の部屋。椅子や机は19世紀風だが、簡素で機能的な雰囲気。深い空色のその空間は永遠をも象徴しているらしい。原詩がテープで読まれ、鐘が鳴る。
若き日が回想される。娘たちが花輪で遊んでいる。詩人も知らずのうちに加わり、そのうちの一人に 愛を打ち明ける。

場面はちょうど意識と無意識の狭間。自分が覚醒しているのかそれとも眠っているのか、自覚すらない時である。 非現実的な青色の空間が頭を占める。その中で永遠の憧憬である美しい乙女が現われ、恋をする。 しかし、その恋もどういうわけか悪魔に邪魔をされる。 自分がしたいこととしなくてはならない事。そしてしたくても出来ない事としてしまう事。 それが夢の中でごっちゃ混ぜになって現われる。 したくても出来ないようにしているのが、悪魔。それは歯ぎしりをするような形で意識する自分を挑発してくる。 でも、夢心地の気持ちよさは、娘達の美しさに表わされる。 なんとも言いようのない説明の付かない苛立ちと恍惚、それをこのバレエは善きものを表わす乙女たちと悪をしめすデーモンを対比させて示されている。 乙女になったヤツェンコはこの役どころをよく捉え、かるがると春を謳歌するように舞っている。それに対し、乙女を永遠に追い続けるゴドスキーは実在感のあるしっかりとした踊りで自分を主張していく。 その対比が面白い。 そしてデーモンはなんとなく挑発してくる。何のための挑発かなんて、そんなことは考えさせない。ひたすら悪夢として眼前にあらわれてくるのだ。 難しい夢という主題をここまでよく表わしているものだとおどろく。 舞台の設備もドアが時に回転し、その裏が鏡になり照明を鋭く反射する。夢の中での覚醒が表現されている事がわかる。 覚醒と深い眠りとの狭間の苦しさがよく分かって、素晴らしい舞台だった。これは巧みな演出のおかげだろうか。

ジューコフの音楽は現代的だがクラシックをふまえたしっかりした構成。全体的にはラヴェルやドビュシーの音色がベースになっているが、ときにストラヴィンスキーなども顔をのぞかせる。穏健現代音楽ともいうべきで、はじめて聞いても親しみやすい。


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