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 -epilogue- そして、新世紀へ
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■そして、新世紀へ
「こんにちは、冬月所長」
「おじゃましまーす」
「やあ、君達。よく来たね」
シンジ達は、久しぶりに冬月のもとを訪れた。
 
 人類最大の試練であったサードインパクトは終わった。
 事態の詳細を知った国連は、その事態の重大さ故に、結局再び、情報封鎖を行った。人類補完委員会メンバーは、人類に対する大逆の罪で処断されたが、碇ゲンドウ以下ネルフ本部スタッフについては、その功績により、一切の罪を不問とされた。
 
 そして国連は、ネルフ解体後、新組織シードを結成した。だが、その初代所長には、碇ゲンドウではなく、冬月コウゾウが就任した。
 ゲンドウは、セカンドインパクトを初めとする幾多の罪を問題視されたが、後の行動と功績により、国連の監視下に置かれることを条件に、その罪を抹消された。もし彼の罪を公表すれば、同時に最後の審判とそれに伴う真実も明らかとなり、事態の混乱は避けられない。そして何より国連は、彼の才能を惜しんだのだ。国連は、新組織の責任者に彼を選んだ。
だが、ゲンドウは、その要請を断った。ゲンドウは、第一線を退く決意をしていたのだ。ゲンドウの決意は固く、結局、新組織の責任者には冬月コウゾウが着任、ゲンドウはユイと共に特別顧問として冬月を支える側に回ったのだった。
「まったく、あいつは面倒事はいつも私に押し付ける」
冬月は、笑いながら、子供達に飲み物を勧めた。
 
「ここもだいぶ形が出来てきましたね」
シンジは、ゆっくりと司令部の中を見渡した。
 新組織シードの本部施設は、旧ネルフ本部の直上に建設中である。巨大なドーム状のその施設の中央に、司令部は置かれている。シンジ達のいる第一司令部は中央にそびえる塔にあった。そして、その塔から東西南北に桟橋のように各エリアが伸びている。
「そう言えば、何だが今日は、人も少ないですね。アスカのお母さんもいないし…」
「ああ。ママは今、ドイツに出張中なのよ」
アスカは、ヒカリの疑問に答えた。
「惣流博士は、シード・ドイツ支部設立の準備と、旧ネルフ支部の後始末で忙しいからね」
日向が冬月の隣に着席しながら、補足した。
「青葉と伊吹の方は、今、南極に出張中。…そうだ。ビデオメールがあるよ」
日向は、南極で調査活動をしている二人の映像をスクリーンに映した。
「わーーー。もうすっかり氷の大陸ね〜」
アスカは、身を乗り出してその映像に見入った。
 
 南極もまた、正常化しつつあった。サードインパクトの後、地球の地軸もほとんど元の位置に戻っていた。南極を包んでいた生命の絶対否定圏も消滅し、海水が本格的に凍り始めたのである。
南極の海底には、セカンドインパクトによって出来た巨大なクレーターが、大陸棚となって遠浅の海を作っていた。新組織シードの初仕事は、この南極海を氷の大陸に変えることだった。
 
「既に、以前の南極の67%まで、氷が形成されている。海面がかつての水位付近まで回復するのも、もはや時間の問題だろう。日本国政府も、第一東京への還都計画を練り始めたようだ」
「何もかも、すっかり元通りっちゅ〜わけや」
「トウジはお気楽だな。そういうわけにもいかないだろ」
ケンスケは、相変わらずなトウジにため息をついた。
「確かにその通りだ…。人類は、何とか、その存続を認められた。だがそれは同時に、ガイアがその役目を終えたことを意味する」
 
 冬月がそこまで話したとき、赤木リツコ博士が碇レイと渚カヲルを連れてやってきた。
「リツコさん、こんにちは」
「いらっしゃい。みんな来てたのね」
3人もテーブルについた。レイは、シンジの隣に座った。
「お兄ちゃん…」
レイは、ちょっとはにかみながら、シンジの顔を覗き込んだ。今では家族4人で暮らしているというのに、シンジは未だにそう呼ばれることに慣れなかった。
妙に照れながら頭を掻くシンジを見て、アスカは何だかムッとした。
「なんや、カヲル。また検査かいな」
「ああ。これもボクらの役目さ」
あきれ顔のトウジに、カヲルは笑って答えた。
 
 サードインパクトと共に、L.C.L.は完全に失われた。だがアダムは、シンジのために、レイとカヲルを人間にして残してくれたのだ。そして、この二人の存在もまた、国連を驚愕させるに十分だった。なぜなら、二人は史上初めて確認された『最初の人間』なのだから。
 
「いけすかんの〜。わしの足かて、ピカピカの新品やで」
トウジの左脚も、サードインパクトによって元通りになっていた。トウジはズボンの裾をまくり、その左脚をダンとテーブルに載せた。
「ゲッ! いきなり汚い足載せんじゃないわよ!」
驚いたアスカは、むこうずねをコップで殴った。
「★×△○※!」
 
「それはそうと、ボクらはシンジくんに感謝しなくちゃね。ボクもレイくんも、キミのおかげで、こうして存在しているんだから」
「感謝だなんて、そんな…」
シンジは、とても照れくさかった。
「ボクはただ、自分から逃げたくなかっただけなんだ。たとえ生まれ変わったとしても、結局は同じことの繰り返しなんじゃないかと思ったから…」
 冬月は、目を細めながらシンジを見た。冬月達は、人類をより完全な生命体とするために研究を続け、最後の審判を迎えようとした。だが、シンジの導いた答えは、決して冬月達の用意した答えに引けを取らない。いや、むしろそれで良かったのだと冬月は思った。
 結局、サードインパクトの後も、人類は何一つ変わらなかった。だが、人間はガイアによって変えてもらうべきではなかったのだ。この長い戦いが示してくれた通り、人間は、人間自身の手で、総てを乗り越えていくべきなのだ。
「ホーント、バッカじゃないの?」
アスカがあきれた顔でシンジを見た。
「どんな願い事でも、叶えてくれたんでしょ? ワタシだったら、人類の女王様にでもしてもらったのに」
「女王様〜〜〜ァ??」
シンジ達は、アスカの女王様姿を想像して、思いっ切り脱力した。
 
「なに騒いでんの、アンタ達?」
「お〜っ。みんな揃ってるな」
「あっ。ミサトさん、加持さん!」
最後に、加持リョウジとミサトがやってきた。シンジはミサトのお腹のあたりを見ながら言った。
「まだ、わかんないですね」
「あんたバカ〜? そんなの当ったり前じゃない」
サードインパクトを生き抜き、加持はミサトの留守番電話に残した約束を果たしたのだった。
「そっちも検査だったのだろう。順調かね?」
「ありがとうございます。おかげさまで」
ふたりは、冬月ににこやかに答えた。リョウジはミサトのイスを引いてやり、彼女を座らせた。
「ア〜ア、情けないわね〜。すっかり尻に敷かれちゃってるじゃない。こんな加持さんを見ることになるなんて」
「そう言うなよ。なんたって、母親は偉大だからな」
「でも、こんなステキなご両親を持って生まれてくる子なんて、ちょっとうらやましいわね」
ヒカリは、アスカの陰からミサトたちをのぞき見るようにしながら、そうつぶやいた。だが、その発言に、アスカとシンジは、思い切り嫌そうな顔をしてキッパリと否定した。
「うらやましい〜?」
「無いわよ、ヒカリ。プレイボーイの父親と激マズ家庭料理の母親を持った子供が、どれほど苦労するか」
「こら、ちょっとアスカ!」
「あははははは------」
 
 シンジ達は、ようやく訪れた平和に満足していた。それが恒久のもので無いことを知りながら…。
 
 * * * * *
 
◆碇ゲンドウ
 新組織シードの特別顧問に就任。シンジ、レイと共に、少々ぎこちないながらも、平和な家庭生活を営んでいる。裁かれるべき罪も多い彼が、国連の監視のみで無罪放免となったのは、国連が、来るべき事態を恐れてのことであることは言うまでもない。
 
◆碇ユイ
 新組織シードの特別顧問に就任。家族4人の幸せな暮らしを満喫している。11年のブランクを埋めようと、シンジやレイに少々過保護に接するところがあるが、ふたりもまた、それを嫌がる様子は無いようだ。
 
◆冬月コウゾウ
 シード初代所長に就任。人類の存続のために、日夜多忙な日々を送っている。だが、最近は時折、マギ相手に将棋を楽しんでいるところも目撃されており、それなりに平和にはなったのだということを周囲のシード職員達も実感している。
 
◆赤木リツコ
 シード科学局主席研究員。科学局局長の座を、後輩の伊吹マヤに譲り、第8世代コンピュータ開発と、カヲル達『最初の人間』の研究に従事。『最初の人間』渚カヲルの保護者ともなり、多忙な日々を送っている。
 
◆日向マコト
 妊娠と共に引退したミサトに代わり、シード作戦本部長に着任。無理矢理仕事に没頭する毎日である。(泣)
 
◆青葉シゲル
 シード情報本部長に就任。現在は、南極再生プロジェクトで南極に出張中。南極のパーティーで歌を披露して、ひんしゅくを買ったとの情報有り。
 
◆伊吹マヤ
 赤木博士に代わり、科学局局長に就任。南極再生プロジェクトで悪戦苦闘中。
 赤木博士曰く、「マヤも、上に立つことを覚えるには、いい経験だわ」
 
◆惣流・キョウコ・ツェッペリン
 シード第一主任研究員として活躍。ドイツ支部開設の暁には、科学局支部局長となることは濃厚だが、アスカを日本に残すかどうかが悩みの種。
 
◆加持リョウジ
 シード監査室長に就任。ミサトとの新婚生活を楽しんでいる。だが、家事一切は彼がやっており、傍目にはミサトの尻に敷かれているようにしか見えない。周囲には、ジャンケンに負けたからだと説明している。また、子供に付ける名前で早くも悩んでおり、案外、子煩悩なのではとの噂もある。趣味のスイカ作りは、日本に四季が戻ったため、家庭菜園へと進化した。(笑)
 
◆加持ミサト(旧姓:葛城ミサト)
 シード設立当初は作戦本部長に就任したが、妊娠を契機に退職。今更ながら、花嫁修業に七転八倒する日々を送っている。自分の料理の不味さをようやく認識したらしく(まだ、理解はしていない)、料理教室をハシゴしている。
 
◆温泉ペンギン・ペンペン
 加持邸に居候中。だが、洞木宅で美味い食事にありついたことと(ミサトが引き取ったときには10キロ以上太っていた。)、ミサトの料理の試食実験台にされることに閉口し、これまでに3回家出を決行。洞木宅で捕獲される。現在、4回目の家出を検討中。
 
◆洞木ヒカリ
 第三新東京市立第壱中学校在籍。母親も戻り、平和に暮らしている。時折、ペンペンをだしにミサトが料理の指南を受けに来る事実は、極秘事項とされている。
 
◆鈴原トウジ
 第三新東京市立第壱中学校在籍。妹も全快し、母親も戻ったため、今のところ特にやることがない。洞木ヒカリの世話焼きのオモチャにされているが、本人にヒカリの彼氏としての自覚があるかは不明。(確かに、告白されたわけではないが…。気がつかないのだろうか??)
 
◆相田ケンスケ
 第三新東京市立第壱中学校在籍。ミリタリーマニアぶりは健在だが、母親が戻ったため、サバイバルゲームの夜営訓練や、学校をさぼっての軍艦の追っかけは極めて困難となった。
 鈴原トウジ曰く、「ケンスケのおかん、ムッチャきっつ〜!」(笑)
 
◆渚カヲル
 第三新東京市立第壱中学校在籍。かつては使徒であったが、現在は完全に普通の人間となっている。レイ同様、『最初の人間』として注目を集めているが、本人は全く気にしていないようだ。現在は、赤木リツコ博士の被保護者として、彼女の家に同居している。
「カヲル君はしっかりしてるから、リツコも楽ね」とはミサトの談。
 
◆碇レイ(偽名:綾波レイ)
 第三新東京市立第壱中学校在籍。カヲル同様、『最初の人間』として注目されている。最近は、家族というものにも、ようやくなじんできたらしい。また、以前に比べ、格段に笑顔を見せることが多くなった。そのため、男子生徒の人気は上がったが、いつもカヲルと一緒にいるために、女子への人気は少々悪い。
 
◆惣流・アスカ・ラングレー
 第三新東京市立第壱中学校在籍。エヴァの呪縛から解放され、それなりに性格も変わったようだが、シンジ達にはその違いがいまいちよくわからないらしい。だが、ようやく再会出来た母と共にドイツに帰るか、それとも自分一人だけ日本に残るか(もちろん原因はシンジ)で悩んでいるあたりなど、確かに変わってきているようだ。
 
◆碇シンジ
 第三新東京市立第壱中学校在籍。まだぎこちないが、家族4人の生活を彼なりに楽しんでいる。そして何よりも、ごく普通の中学生に戻れたことのすばらしさに満足していた。
 
 * * * * *
 
 冬月は、手を組み、静かに語った。
「もはや、使徒や死海文書のようなガイアの意志を示すものは無い。ガイアは人類を選び、生命のゆりかごとしての役目を終えたのだ。おそらく、そう遠くない将来、この地球は他の惑星同様、生命にとって過酷な環境の星となるだろう。母親にとって、子供が常にそうであるように、われわれは、その時が来るまでに、地球を旅立たなければならない。そのために、人類保全機構シードは生まれた」
冬月は、ゆっくりと立ち上がると、子供達を見た。
「我々は、古い時代の最後の生き残りとして、君達を新しい時代へと送り出そう。それは、おそらく苦しい道のりだろう。先の使徒との戦い以上に困難なものかもしれん」
「だが、それでも君達は、新しい時代を、新世紀を生き続けなければならない。がんばってくれ。未来は君達と共にある」
シンジ達は、ちょっとはにかみながら、うなづいた。
 
 ドームの天井の向こうに、どこまでも澄んだ青い空が広がっている。そして、その青空の向こうに、新たな無限の地平が広がっていた。
 

− 新約・新世紀エヴァンゲリオン −
終わり
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For the best creative work