TOP メニュー 目次

 モンスターハンター・ゼロ

 クエスト0 「プロローグ」
次へ

 幼い少女が泣いている。深緑むせぶ樹海の底、涙で顔をぐしょぐしょに濡らし、行く当てもなく彷徨っている。緑の闇からモンスターの咆哮が響く。赤や青の眼光が流れ、火炎の吐息がちろちろと揺れる。羽ばたきが巨樹を揺らし、空覆う影が日差しを切り裂く。ここは人外。モンスターの支配する地だ。
 少女の背後、葉雲の遙か向こうに太古の塔がそびえている。塔の上部は常に分厚い雲に覆われ、その全容を知る事は出来ない。かつてそこは、紛れもなく人々の声で溢れていた。だが今やそこに住まうは、モンスターの群だけだ。人類の栄華は、もはや遺跡にしか見ることが出来ない。
『去れ』
 何者かが幼い少女に命じている。少女は行く当てもなく、ただひたすら塔から遠く離れるため、泣きながらたった一人で歩いていた。
「ママ──、ママ──!」
 深い草が、可愛い足をからめ取る。少女はよろけながら、母親の手をしっかりと握った。冷たくなったその手は、肘から先が無い。おそらく飛竜に食われたのだろう。二度と抱いてくれぬ母の手と共に、幼い少女は歩き続けた。
 血の臭いに誘われ、青い死神の群が少女の行く手を遮った。少女は、大人の背丈を越える彼らを呆然と見上げた。ゆっくりと輪が縮まり、死神が鋭い爪を振り上げる。
『生きて!』
 母の声が響く。甲高い断末魔が木々を揺らした。少女の目の前で、ランポスと呼ばれる鳥竜たちの体が次々と骸へと変わって行く。駆け抜ける疾風。飛び散る鮮血と青い影。静寂が訪れると、少女の前に精悍な顔立ちの若者が立っていた。若者は身の丈を越える斬馬刀を鞘に収め、深い悲しみと優しさを湛えた瞳で、じっと少女を見つめている。傷跡に覆われた太い腕で、若き狩人ヴォイスはそっと彼女を抱き上げた。ヴォイスとリリル。それがふたりの始めての出会いだった。
 

次へ
 
TOP メニュー 目次
 
For the best creative work