2009.10.12.第32回藤田佳代舞踊研究所発表会
(神戸文化大ホール)
「川のほとりの一本の松」
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もう昔の話だよ このあたりは海だったんだ 空と海が少しずつ青く染まっていく 一年の最初の光が現れる |
もう昔の話だよ 寒くなると白い鳥が飛んできてぼくの肩にとまるんだ 小さな笛を空に投げると雪がやってくる |
もう昔の話だよ 凍てつく夜は星たちの歌が響き渡る 白い星 青い星に赤い星 歌声は大地にしみ込んで 次の朝には氷の結晶が生まれる |
もう昔の話だよ 川の向こうに桜の木があった 桜は川を渡ってぼくに会いにきてくれる そして川のこっちで一緒に過ごすんだ 土へと還るその日まで |
もう昔の話だよ 桜が土に還って足下を見ると たくさんの小さな花たちが待っていてくれた |
もう昔の話だよ 雨が降ると僕の葉っぱは小さな鈴をたくさんつけたみたいににぎやかになる そうして虹の精をお迎えしたんだ |
・・・うるさいなあ 朝もやの中まどろんでいると つんざくような歌声 そうだ またセミの季節になった |
もう昔の話だよ 竜の五族会議がひらかれた 竜たちはぼくに言ったよ 「レオよ 緑の竜になれ」って |
もう昔の話だよ 涼しくなると虫の演奏会が開かれた ぼくの幹に住んでいるコオロギがぼくを特等席に招待してくれたんだ |
もう昔の話だよ 彩の精が山からの帰り道 ぼくの上に落とし物をした からまったツタがぼくを紅く染めてくれた |
もう昔の話だよ 今日は中天に満月 願い事がかなう日 ぼくは一つの願い事をする 死者の魂も生者の魂も ぼくの前に集まって 踊りの輪が終わることなく続きますようにって |
「海のおはなし」 |
おととい イルルは火の玉の地球に雨を降らせ 海をつくって 1万メートルの海底にすむことにした |
きのう イルルは少しずつ生命をつくった カイソウのダンス |
クラゲとサンゴのがっしょう |
ウミユリとカイメンのファッシンショー |
タツノオトシゴとマリンスノーのスィング |
イソギンチャクのフラダンス |
きょう イルルは自分のつくったものを満足げに見ている あさ いいてんき |
ひる きもちいいね |
ひるすぎ うとうとしそう |
ゆうがた ちょっとくもってきた |
よる イルルがうごきだした サンゴもカイメンもカイソウもあおざめている |
あす イルルは太陽のもとへかえろうとしている |
「フィナーレ」 |
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